第5話
———7月27日 ———
「店長、無断欠勤していしまい申し訳ありませんでした!」
「ダ〜メ。許さないわ。キスかハグで許してあげる。両方でも勿論OKよ」
「…それは勘弁してください」
「しょうがないわね。じゃあちょっとこの試作品飲んでくれる?好評だったらウチで出そうと思ってるのだけれど」
「なんですか?これ?」
俺はいま1週間の謹慎を経て謝罪をしている。勿論、この前の無断欠勤の件でだ。
謝罪したら案の定だったけど目の前にはジョッキの中に氷に浸った透明な液体が。何これ水?居酒屋で透明な液体…。焼酎とか?
「いや、店長、今ちょっと焼酎とかお酒は…」
「いいから飲んでみなさい。あ、残したらキスとハグね」
「…」
あやしい…。見た目も出てくるタイミングも何もかもがあやしい…。けど選択肢はない!ええいままよ!
口に入れてみる。
「ど〜お?あたしのホルモンエキス入りサワーは?美味しいでしょ?」
「ブゥゥゥゥゥゥッッ!!!」
「きゃあぁぁぁぁ!?ちょっと!飲んだものを吹き出すなんて汚いわよ!」
「いやなんてもん飲ませてんだアンタ!」
ホルモンエキスってなんだ!?
いや、マジでホルモンエキスって何!?(2回目)
わけが分からん!
「あ〜も〜!それ飲んだらあたしみたいなムキムキになれたのに…」
「プロテインかよ」
「まあいいわ。反省してるようだし今回は許してあげるわ。あとこれただのレモンサワーよ。というわけでキスとハグ…」
「…ちょっと店長それは…」
「店長ー!マッチョのお客様入りますー!」
「こぉ〜しちゃいられねぇ!大サービスしてなんとか大胸筋を触らせてもらうわよぉ!」
…ふぅ…。
他のバイトの子のヘルプでキスとハグがうやむやになって良かった…。というか店長興奮のあまりちょっと素が出てるな。
バイトは続けることができそうだ。これも詩織さんのおかげだな。
詩織さんは…いない?おかしい。あの人は基本俺と同じ夕方以降毎日入ってるんだが。
まさか俺に無断欠勤云々言った後に自分も休んでるわけではないだろうがインフルでも来ようとする勤務態度が真面目な詩織さんがそもそも休んでること自体が珍しいのだ。
「店長。今日詩織先輩はいないんですか?」
マッチョが来店してウキウキの店長に聞いてみる。
「それがねぇ…。あの子もう5日くらい来てないのよ。電話も出ないし、住所は分かっているのだけれどバイトの子にあまり過干渉もどうかと思ってね…」
「え…?来てないんですか?」
詩織さんが無断欠勤…。
「店長、俺に詩織先輩の住所教えてください。あんな真面目な人がバイトに突然来なくなったのは明らかにおかしいです。無断欠勤してた俺が言えた義理じゃないのは…」
「あぁ〜はいはい。分かった、分かったわよ」
「じゃあ…」
「でもダメ」
「!?…何故ですか?!」
「あなたこれからバイトでしょう?終わってからにしなさい」
「あ、はい」
店長の言う通りだった。先程飲んだレモンサワーも口に含んで吐いただけなので業務に支障はない。問題なく働けそうだ。
それから夜11時までバイトしたあと店長から住所の書かれたメモを渡された。
「こういうのは本来教えちゃいけないものだから。その紙はあたしが処分するから不要になったら返却なさい。分かったかしら?」
「分かりました」
「はあ…あの子といい、アナタといい、最近無断欠勤する子が多いわね…。これはキスやハグ以外にも何か追加する必要がありそうね…」
…店長がとんでもないことを言っているが知らぬが仏だ。さっさと帰ろ。
居酒屋を出ると外は蒸し暑かった。
夜ももう遅い。詩織さん家は明日行こう。
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