第2話

「しまった…。今日の夕飯がない…」


ズブ濡れで帰宅して風呂から上がった俺は頭を抱えていた。


半ば衝動的に10万円分サマージャンボ買ったのはマジでどうかしてる…。


冷蔵庫は何もないし今日の夕飯どうしよ。


いや、ていうか10万円もあれば当分の生活費にも回せたはず!…冷静になってみれば本当バカすぎるわ…。


手元にはサマージャンボ宝くじ333枚と所持金100円だけ。


「ああもう、マジで何考えてんだ俺…」


当たりもしない幻想に縋って20歳が貴重な10万円使うとか本当ありえない…。行ったことないけどパチンコより酷いんじゃない?


頭をガシガシ掻きながら自分を恨んでいる時スマホが鳴った。


スマホの登録数一桁台の俺に誰だ?


…バ先の詩織先輩だ。


俺みたいな陰キャ気質な奴にも気さくに話しかけてくれる女神。


まぁどんな奴にも分け隔てなく気軽に接してくれるし、特別扱いとかじゃないから俺みたいな奴は絶対に痛い勘違いしちゃダメって肝に銘じてるけど。


「はい、もしもし」


『君〜、今日何か忘れてない?』


「いや、何も忘れてないですよ。…あぁ!夕飯の食材買い忘れたことぐらいですかね!」


『違〜う!君、18時からシフト入ってるけどもう過ぎてるよぉ!来ないの?』


「あぁ、バイトですか。辞めました」


『えっ、店長が待ってるんだけど?』


「…多分他の人と間違えて…」


『絶対ウソ。勤務態度が真面目な君が無断欠勤するなんて何かあったんだよね?』


「…」


『……とりあえず君ん家今から行くから!』


「えっ詩織さんバイトは!?」


『来てない君が言うなし!w店長には今聞いたらOK貰えたから大丈夫よ!30分くらいで着くと思うから!』


そう言って一方的に電話切ったけど奥から店長の『行かないでぇ〜!』って悲痛な声が聞こえた。居酒屋の売れっ子が抜けたら痛いよな。


店長って見た目ムキムキのくせに凄いオネェなんだよね。


呼び方も店長じゃなくて姐さんって呼びなさいってバイト面接時に言われたし。呼んでる人1人もいないけど。


ってやばい!詩織さん俺ん家に来るの!?


住所は…店長あたりから聞き出しそうだな!


ホント何で来るの?所詮バイト仲間ってだけなのに…。接点ないと思うんだが。


何はともあれこの散乱してる部屋を片付けねばさすがに詩織さんに幻滅される。


ナニとは言わないけど団子みたいになったティッシュとかゴミ箱とか色々やばいし。


過去一脳をフル回転させて片付けした頃に詩織先輩が来た。



「やっはろ〜♪君ぃ〜サボりとはいい度胸だね〜?」


「いや、もうちょっとマジで勘弁してください…。ってかなんで来たんすか?」


「いや〜君が心なしかすごく落ち込んでるような気がしてねぇ〜?心配で来たちゃった」


「…そんなワケないじゃないですか!俺は元気ですよ?心配かけてすみませんでもバイトに戻る気は…」


「絶対ウソ。君、後ろめたいことがある時必ず目を逸らすんだよ。分かりやすいなぁっていつも思ってるけど。話逸れたけどわたしでよければ聞くよ?話してみない?」


「いや、そんなことないですって…アハハ!…………アレ、何だこれ…?涙なんか………………ゥ、ぅうぅ、ううわぁぁん!」


「おー?おーおー、よしよし。ほらほら話してごらん?」


限界だった。


気丈に振る舞ってたつもりだったけど詩織先輩にはバレていたんだ。


みっともなく俺は詩織先輩の胸で泣きじゃくって今日の出来事を洗いざらい喋った。


浮気されていたこと、雨の中彼女から酷い別れを告げられたこと。




ようやく泣き止んだ時には詩織先輩のシャツは俺の涙と鼻水でグッチャグチャだった。


「すみません、詩織さん。服汚しちゃって。弁償するんで…」


「んーん。いいよ〜、落ち着いた?」


「…はい…みっともなく、すみません…」


落ち着いたけど20歳にもなった男が人の胸借りて泣きじゃくるって冷静に考えたら恥ずかしいな。


「にしてもさー、彼女さんも酷いよね〜!何もそんなフり方する必要ないじゃん!」


「はは…ホントそうですよね」


「ホントよ!私だったら絶対フラないのに!」


「え?」


「え?」


え?





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