第212話 同級生パーティーとの再会
死者の国に現れた、同級生四人のパーティー。彼女たちはイカルデアの王城では優等生の1班に所属していて、王城を出た後は勇者パーティーのサポート役をしていた。その後も、グラントン迷宮の攻略を依頼された時に、顔を合わせている。今の格好もあの時と同じ、革鎧や黒のローブといった、この世界の冒険者らしいものだった。
「お、おまえ、なんでこんな──」
「松浦君、落ち着いて」
美波が声をかけると、松浦はとたんにおとなしくなった。依然として、このパーティーのリーダーは彼女らしい。そのへんも、変わってはいないんだな。もっとも──。
もしも、彼らが生きていなければ、変わりようがないのかもしれないけど。
なにしろここは死者の国。そしてこの世界は、いつどこで誰が死んでも、おかしくはない世界なんだ。冒険者なんて仕事をしていたら、なおさらその危険は高い。もしかしたら、こいつらは……。
あ、待てよ。
鑑定をしてみれば、何かわかるかもしれないな。鑑定には、残り体力などの数値も出てくるんだから。そこで、まずは松浦から鑑定してみた。
【種族】マレビト
【ジョブ】剣士
【体力】18/25
【魔力】6/6
【スキル】剣Lv2 強斬Lv1 連斬Lv1 打撃耐性Lv2
【スタミナ】 46
【筋力】 32
【精神力】19
【敏捷性】Lv3
【直感】Lv1
【器用さ】Lv2
うん。全体として、剣士っぽいステータスだ。もう少しがんばれば、騎士だったジルベールに肩を並べるところまで行きそうだな。それはともかく、
<特に変なところはないけど……ねえフロル。死者だったら、鑑定した体力がゼロ表示になったりするのかな>
<いえ、死者の体は魔素によって作られており、擬似的な『体力』がありますので、ゼロにはなりません。ただし、その構成はどうしても生前とは異なるものになってしまいます。そのため、鑑定のスキルで出る値は、明らかに生者とは違ったものになるようです>
良かった。ということは、こいつは死者ではなく、ちゃんと生きているらしい。特に表示はおかしくなってないからね。念のためもう一人、美波も鑑定してみよう。
【種族】マレビト
【ジョブ】魔術師
【体力】17/22
【魔力】26/35
【スキル】火魔法Lv5 水魔法Lv3 風魔法Lv4 魔法耐性Lv3
【スタミナ】 16
【筋力】 8
【精神力】35
【敏捷性】Lv4
【直感】Lv2
【器用さ】Lv6
うん、こっちも特に変なところはないな。さすがに柏木と比べると見劣りするけど、魔力も魔法のレベルも、けっこう高くなっている。この一年余り、冒険者として地道に鍛錬してきたんだろう。二人とも、体力が少しだけ減っているのは、何か戦いがあったのか、それともこの異界に来た疲れが出ているのかな。
ぼくは美波に尋ねた。
「美波さんたち、ここで何してるの?」
「私たちは、ギルドの指名依頼を受けてね。ここは『死者の国』と呼ばれる場所で間違いないのか。中では何か異常が起きていないか、その調査にきていたの」
ああ、ギルドの受付嬢が言っていた「腕利きの冒険者に依頼した」というのは、美波たちのことだったのか。それにしても、
「ぼくはまた、王都の方に戻っていたのかと思ってたよ」
「グラントン迷宮の依頼が終わってからは、一ノ宮君たちとは離れて、このあたりで仕事をしていたの。あんまり、戦争には関わりたくないから。そうしているうちに、大変なことになっちゃったみたいだけど……」
美波は言葉尻を濁した。「大変なこと」とは、王国が滅んだことか、それとも一ノ宮が死んだ(らしい)ことだろうか。どちらも、口にして楽しい話題ではない。王国については、滅ぼうとどうなろうとかまわないけど、元の世界に帰る唯一の望みでもあった。グラントン迷宮の時も、彼女はそんなことを言っていたもんな。ぼくは少し話題を変えて、
「それにしても、よくそんな、危なっかしい依頼を受けたね。あ、もしかして、死者の国について、ギルドから説明を受けたの? この異界について、ギルドは詳しいことを知っているのかな」
「うん。これまでも何回かこういうことがあって、その時の記録が残っているそうなの。だから私たちも、おおまかなことは知っているわ。けれど、今度のこれは、ちょっと異例みたいね。これまでは、裂け目がだんだんと小さくなって、ふつうは1週間ほどで消えているんだけど、今回は逆に少し大きくなっている。それで領主様から、冒険者ギルドに調査の依頼が出たようね」
そうか。冒険者ギルドというのは、組織としては国を超えた広がりを持っている。こういうレアな出来事の情報も、けっこう集まりやすいのかもしれない。
ぼくが納得していると、今度は美波から聞いてきた。
「ユージ君は、どうしてここに?」
「ぼくも似たようなものかな。ギルドの依頼じゃなくて、知り合いからの頼み、みたいなものだけど」
「そう。それで、何か見つかった?」
「いや、ぼくはついさっき、裂け目から入ってきたところだから。そっちは?」
「もう四日ほどもぐっているんだけど、よくわからない、が正直なところかな。確かにここは、死者の国に間違いはない。それらしい亡者や、魔物とも出会ったからね。けれど、何か異常が起きているのかどうか、となると──そもそも、どういう状態が正常なのかが、よくわからないから」
そりゃあ、そうだよね。現世と比べたら、ここはそこら中が異常だらけの世界なんだから。
「ただ、ギルドから聞いていた話と、それほど大きな違いはなかったわね。
ああ、調べたとは言っても、調査範囲はそれほど広くはないわよ。東西南北──この中に『東』や『西』なんてものがあるかどうかはわからないんだけど、一応こう呼んでおくとして──の四方向に、それぞれ半日ずつ進んで、その日のうちに戻ってきただけ。泊まるのは裂け目の外ね。
方角を正確に知るのが難しくて、裂け目からあまり遠く離れるのは危険なのよ。裂け目に戻れなくなったら、それだけでアウトだもんね」
「四方向調べたってことは、もしかしたら今日が最終日?」
「そう。なんとか無事に追われそうでほっとしているけど、こういう時こそ、気を引き締めないとね。
それから、私たちの他にも四人組、じゃなくて、臨時のメンバーを入れて五人組だったかな。そのパーティーも依頼を受けているそうよ。その人たちは私たちのような日帰りではなく、ずっとここに潜っているんだって。方角を知ることのできる魔道具があって、それをギルドから借りているらしい。
冒険者ランクはAランクと聞いたから、きっと凄腕のパーティーなんでしょう。本格的な調査は、その人たちに任せることにするわ」
美波が説明を終えると、四人はそれきり、黙り込んでしまった。元から口数の少ない方だった浜中や田原はもちろん、あの騒がしい松浦も、あれきり口を出してこない。みんな、かなり疲れてるみたいだな。たったの四日、それも日帰りとは言え、こんな世界での旅を続けていたら、疲れが出るのもしかたがないか。
と、少し後ろに下がっていた松浦が、急にぶるっ、と体を震わせた。
「悪い。おれ、ちょっとトイレ」
そう言って、足早にぼくらから離れていく。それにつられて、ぼくもちょっと、小さい方をしたくなってしまった。そういえばぼく、「連れション」というのはしたことがないな。古いドラマでやってるのを見て、しかもなんだか楽しそうにしているので、びっくりしたことがあったけど、あれって楽しいんだろうか。どっちかというと、飛沫で汚くなりそうな感じしかしないんだけど。それに、今の時代は道ばたであれをすること自体、不適切(正確には違法?)だと言われるんだし。
まあでも、ぼくたちがいるのは別の世界の、さらにそこから離れた異界なんだ。ここにはコンプラも軽犯罪法もない。これも経験だと思って、やってみましょうか。
ぼくは、「じゃあぼくも」と声をかけて、松浦と連れだって歩いた。松浦は少しぎょっとした顔になったけど、何も言わなかった。女性も二人いることだし、そこそこ離れたところまで行って、二人並んで少しがに股になる。
ちなみにこの世界、ファスナーなんて便利なものはありません。ボタンがあるだけです。でも、その下にパンツがあるだけで幸せです。西洋中世だと、パンツなんてなかったらしいから。このパンツもまた、かつての勇者様が持ち込んだ文化なのかなあ。勇者様、ありがとうございます……。
ぼくは、あまり細かく描写する気にもならないモノを出して、用を足した。なぜか、松浦がそれをのぞき込んできた。あー、そういえばあのドラマも、こんなノリだったっけ。で、おれの方が大きいとか小さいとか、うれしそうに騒いで……。
ところが、松浦が口にしたのは、それとは全く違うセリフだった。彼は大声で、こんなことを叫んだ。
「おまえ、生きてたのかよ!」
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