第176話 驚きの鑑定結果

   【琥珀の髪飾り】

 【宝石】琥珀(グリーンアンバー)

 【台座】銅93%、金7%


 この鑑定結果を見て、ぼくは一瞬、固まってしまった。

 気がつくと、マリオンが変な顔つきでこっちを見ている。どうやら、ぼくは腰を浮かせた姿勢で、数秒間止まっていたみたいだ。あわててちゃんと立ち上がり、改めて「ごちそうさま」と口にして、ぼくは食堂を出た。

 通りを歩きながら、ぼくはさっきの鑑定を思い出していた。


 どうやら、コンスタンがプレゼントした髪飾りの宝石は、本物らしい。琥珀にも緑色のものがあるんだな。「グリーンアンバー」というのは、たぶん緑の琥珀につけられる名前なんだろう。台座の金は数パーセントしかなかったけど、あれは偽物というわけじゃあなくて、金メッキなんじゃないかな。

 いや、そのあたりはどうでもいい。問題は、どうしてあんな表示が出たのか、だ。ぼくの鑑定は、物に対して使っても、たいした情報は教えてくれなかった。わかるのはせいぜい名前だけで、たとえばそれがいくらくらいの値段なのか、なんて数字は出てきてくれない。まあ、市場価格なんて時々刻々変わるし、場所によっても違うものだから、判る方がおかしいんだろうけど。

 それでも最初のころは、薬草を採る時などに使ってはいたんだけど、慣れてくるとそれもしなくなってしまった。薬草がどんな物かが、経験でわかるようになれば、一々それをじっと見つめてスキルを発動させるのって、けっこう面倒だからね。最近ではもっぱら、自分や対戦相手のステータスを測るのに使っていた。

 なのにどうして、いきなり表示が変わってしまったんだろう。


 あ。これって、もしかしたら……。


 ぼくはあることを思いついた。そのへんの路地に入り、あまり人目につかない場所に移動してから、ぼくは自分に鑑定のスキルをかけてみた。


【種族】ヒト(マレビト)

【ジョブ】剣士(蘇生術師)   [/勇……]

【体力】18/18 (111/111)

【魔力】6/6 (77/77)

【スキル】剣Lv6

(蘇生Lv4 隠密Lv7 偽装Lv6 鑑定Lv5 探知Lv7 罠解除Lv3 縮地Lv3 毒耐性Lv4 魔法耐性Lv6 打撃耐性Lv5 状態異常耐性Lv3 痛覚耐性Lv3

小剣Lv2 投擲Lv6 強斬Lv3 連斬Lv4 威圧Lv2 受け流しLv2 

火魔法Lv4 雷魔法Lv3 土魔法Lv4 水魔法Lv5 風魔法Lv4 氷魔法Lv1 闇魔法Lv2 精霊術Lv6)

【スタミナ】 18(95)

【筋力】 17(114)

【精神力】12(63)

【敏捷性】Lv5(Lv8)

【直感】Lv2(Lv7)

【器用さ】Lv2(Lv8)


 スキルの種類やステータスの数値は、前回調べたときと同じだ。けど、明らかに変わっているところがあった。スキルや一部のステータスについている、「Lv」のところ。たぶんだけど間違いないだろう。レベル表示だ。

 そういえば、召喚された直後に、王城の宝玉で鑑定した時には、レベルも一緒に表示されていたような気がする。本来、これらの項目にはレベルというものがあるんだろう。それがこれまで表示されていなかったのは、ぼくの鑑定スキルのレベルが低かったせいに違いない。

 だとすると、それが今回、表示されたということは、鑑定のレベルが上がったってことなんだろう。さっき、髪飾りを鑑定した時に見慣れない表示になったのも、そのためだろうな。

 もしかしたら、探知できる距離が増えたような気がしていたり、魔物に気づかれにくくなっているような気がしていたのも、スキルのレベルが上がったせいなのかな。探知と隠密は、スキルの中でも一番高い、レベル7になってるし。


 だけど、これでもやっぱり疑問は残る。どうして急に、レベルが上がったんだろう?

 隠密も探知も、これまで何回も使って、ずっとお世話になってきたスキルだ。鑑定スキルはそこまでの頻度ではないけど、そこそこは使ってきたはずだ。でも、今までレベルが上がったと実感したことなんてなかった。

 実際にはレベルは上がっていて、ただそれを実感することがなかっただけ、という可能性もある。例えば、「鑑定はレベル5になると『Lv』表示ができるようになるけど、レベル4まではそんなに変わらない」、とかね。でも、だとしてもやっぱり変だ。「どうして同時にレベルが上がったか」が、「どうして同時にレベル上昇を実感したか」になっただけで、結局、話は同じ。偶然にしても、できすぎな気がする。何かそうなった理由というか、きっかけでもないと、説明がつかないように思うんだけど……。


 ん?


 あれ、「ジョブ」のところの表示が、ちょっと変だな。


【ジョブ】剣士(蘇生術師)   [/勇……]


 なんだか、変な文字が後ろに付いてしまっている。それに、「剣士」の表示が浮いているというか、ちょっと触ると動きそうというか。実際には触る事なんてできないんだけど、見つめているだけで何かが起きそうな、そんな気がする。そういえば以前にも、こんなことがあったな。あれは精霊術の師匠に入門して、精霊術を習っていたころだっけ……。

 なんて思っている間に、ジョブの表示が、本当に動き出してしまった。

 何かしようと思っているわけではないのに、そこに注意を向けているだけで、勝手に動いてしまう。「剣士」の表示がくるりと裏返って、出てきた文字は──


【ジョブ】勇者   [/蘇……]


 な、なんだってー!


 「勇者」って、なんだよ。もしかして、あの勇者のこと? どうしてぼくが勇者になるんだよ。そんなのになりたいなんて、思ったこともないのに。なにかの間違いか、鑑定スキルのバグじゃないか? スキルにバグなんてものがあるかどうか知らないけど、そうとしか思えない。

 でも、なにかの間違いだとしても、このままにして置いたら、なんだかヤバそうな気がする。ともかく、元に戻さなきゃ。あれだよな、「ジョブ」の所を、じっと見つめていればいいんだよな……うん。これでいいみたい。「勇者」の表示がブルブルと震えだし、その震えが大きくなって、再び表示が、くるっと裏返った。


【ジョブ】蘇生術師   [/勇……]


 ぼくはほっとひと息ついた。なんか偽装が解けて、「剣士」の表示が消えちゃってるけど、とりあえず「勇者」ではなくなったから、いいとするか……。


 でも、もしかしたらこの時には、もう手遅れだったのかもしれない。


 ほっとしているぼくの回りで、石畳が急に光り出した。あれよあれよという間に、その光は円形の紋様を形作り、同時に輝きを増していく。とっさに、その中から出ようとしたんだけど、間に合わなかった。ぼくはそのまぶしい光に包まれて、そして──。


 ◇


 周りを見回すと、ぼくはいつのまにか、石造りの部屋の中にいた。中は薄暗くて、妙に天井が高い。床には変な紋様のようなものが描かれていて、その模様がわずかな光を放っている。ぼくの周りにいるのは、ローブを身につけ節くれ立った杖を持つ魔術師、銀の甲冑を身にまとった騎士たち、そして、ヨーロッパの古い絵に出てきそうな豪華なドレスを着て、ブロンドの髪を縦ロールにした若い女性だった。なんだか、いつかどこかで見たような光景だった。

 しりもちをついたままのぼくに、金髪縦ロールが一歩前に踏み出て、にこやかな笑顔を浮かべながら、こんなことを言った。


「ようこそおいでくださいました、勇者様」




────────────────


 「そういえば以前にも、こんなことがあったな。あれは精霊術の師匠に入門して~」の部分は、あまり気にしないでください。以前にちょっとだけ触れた、外伝的な話の中で、こういうことが起きる予定なので。そういえば、外伝の話、あれからまったく手をつけてないな。5章でかなり、詰まってたからな……。


 あっとそれから、本日でカクヨムコン9の読者選考期間が終了となりました。読んでいただいた皆さん、フォローやレビューをつけていただいた皆さん、どうもありがとうございました。

 皆さんのおかげで、本作は「異世界ファンタジー」部門の30~70位くらいのところをうろうろすることができましたので、たぶん、読者選考は突破できるのではないかなあ、と皮算用しています(何作が通過するのかにもよりますけど)。が、その先は……ベスト10クラスの作品って、星やフォローの数がすごいですよね。まあ、あんまり期待せずに、待つことにします。


 それから、応援コメントもいろいろいただいていて、こちらもありがとうございます。作者近況で「コメントへの回答は控えるようにします」と書いておいたんですが、そうしておいて本当に良かった。けっこう鋭いコメントが多くて、あれに答えていたら、間違いなくネタバレしていたでしょうから。同じ理由で、これからも基本的に回答は控えるとは思いますが、この点ご了承ください。


 それからもう一つ。前にも書きましたとおり、本日で連続投稿は終了となります。次からは週に2~3回の投稿になると思いますが、もしよろしければ、これから先も読んでいただけるとうれしいです。


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