第151話 キ○肉マンのサン○ャイン

 迷宮から脱出したあと、ぼくと上条は念のためドアの近くに残って、内部の様子をうかがっていた。

 が、しばらく経っても、何事も起きない。探知スキルの反応を確かめてみると、ゴーレムたちは出入り口への集結をやめて、もともと配置されていた場所へ戻っていっている。どうやら、迷宮の外までは追撃してこないようだ。ぼくたちはようやく警戒を解いて、転移陣の隣の部屋に戻った。

 そこには、他のパーティーメンバーたちが、少し疲れた表情で待っていた。ぼくたちの姿を見て、一ノ宮が口を開いた。

「ドアから出ればゴーレムは追ってこない、か。これも、記録にあったとおりだな」

「けどよ、壊れても元に戻るとは思わなかったぜ」

「記録にあったでしょう。『ゴーレムは不死身で、それを破壊することは不可能』。あれが、自動修復機能のことだったんでしょうね」

「その書き方だと、単にこっちの攻撃力が低くて、相手に通じなかっただけだと思っちまうだろうが。それから、あいつが撃ってきたあの光、あれは何だ? なんて言うか、ヒーローものに出てくる、必殺技の光線みたいだったぞ」

「それも、『光の矢』という記述がありましたね。あれを書いた人は特撮ものの番組なんて見たことはないから、『矢』と書くしかなかったんでしょう。ライトウォールで防げたから、魔法の一種だと思います。ライトアローとは、かなり違うみたいでしたけど……もしかしたら、昔の人が独自に作った、系統外の魔法かもしれません」

 上条と白河が話す中、柏木がぽつんと漏らした。

「あれ、どうすれば倒せるのかな?」

 この言葉に、一同は沈黙した。しばらくして、白河が口を開いた。

「魔法による攻撃は、望み薄でしょうね。光魔法はほとんど効かなかったし、氷魔法や火魔法、土魔法も大きな効果はありませんでした。雷魔法だけは、一時的に動きを止めることは出来たけれど、あれは破壊したと言うより電気がショートしたみたいな感じでしょう。すぐに再起動して、少しの間、時間稼ぎができただけでした」

「動きを止めるのなら、大規模な氷魔法はどうかな? 体全体を、氷漬けにしてしまうとか」

「パワーがかなりありそうだから、氷で覆ったくらいで動けなくなるとは思えないんだけど。それに、厄介なのはあの光線でしょ? 氷で動けなくなったとしても、光線の発射を抑えることにはならないんじゃないかな」

「けど、剣で戦うのは、もっと難しそうだな」

 一ノ宮が苦い顔で言うと、上条も、

「そうそう。おまえらも見ただろ。真っ二つにしても、すぐ元に戻っちまった。ゴーレムって言えば、中にある『コア』を破壊すれば壊れる、ってのが定番なんだけどなあ」

「またゲームの話か?」

 一ノ宮がうんざりしたように言うと、白河が、

「いえ、コアというのは、魔力を貯蔵する装置のことですね。確かに、この世界のゴーレムには、そういった機構があると聞きます。それが動力源であれば、壊してしまえばゴーレムは動かなくなるでしょう。けど、ここにいるゴーレムは──」

「真っ二つにしたとき、コアらしいものなんて、なかったよな」

「ねえねえ。武明は一度、あいつの頭を吹っ飛ばしたでしょ? あれをもう一度、やったらどうかな。それで、飛ばした頭の方だけ、どこかに隠しちゃうの。そうだ、マジックバッグの中に入れちゃえばいい! そうすれば、もう復活できなくなるかもしれないし、復活したとしても、光線が出せないんじゃない?」

 柏木のアイデアに、上条は「おーなるほど」とうなずきかけたけど、

「だけど、あいつらは動けばけっこう素早いぞ。首を飛ばす、って簡単に言うけど、そんなにうまくはいかないだろう。こっちの手の内を学習するみたいで、二撃目は上手く当たらなかったし」

「郁香、マジックバッグには生きたものや、魔力が動いているものは入りませんよ。ゴーレムが『生き物』かどうかは議論があるでしょうけど、魔力の動きがあるのは間違いありません。たぶん、はじかれてしまうんじゃないかしら」

 一ノ宮と白河に指摘されて、柏木は「あ、そうか」と頭をかいた。ぼくも知らなかったな。マジックバッグって、生きているものだけじゃなくて、「魔力が動いているもの」も入らないんだ。っていうか、そっちの方が本筋なのかも。生きているか死んでいるかだと、殺したばかりの魔物をバッグにしまう時、死体の体内にいるはずのたくさんの細菌やウィルスはどうなるの? って話になりそうだし。

「それでね。ちょっと、これを見てよ」

 ぼくはこう言って、左手を出して見せた。てのひらの上には、灰色の砂利のようなものが一山、乗っかっている。上条がきょとんとした顔で、

「なんだよ、これ」

「さっき上条たちが戦っていたとき、ゴーレムの破片が飛んできたんだ。ゴーレム本体の方に這っていきそうになったから、それを捕まえておいたんだよ。最初はもっと大きい破片だったんだけど、こうして砂みたいになってしまったから、かなりの量を落としてしまった」

「へー。ドアの外に出ると、こうなんの? だからあいつら、外に出なかったのか」

「それでね。これ、砂のように見えるけど、良く見ると違うんだ。一つ一つの粒が、全部長方形なんだよ」

 こう言うと、四人はそろって、灰色の砂利に顔を近づけた。一ノ宮は眉根をそろえ、にらむように目を懲らしていたけど、

「……本当だ。形はいろいろだけど、明らかに砂とは違うね。で、これがどうかしたのか?」

「実は、ぼくの近くに飛んできたのは、ゴーレムの顔の一部だった。元の形からすると、左の目のあたりだったんだ」

 一ノ宮は首をひねって、

「それはおかしいだろう。ゴーレムは何度か復活したけど、最後まで目は欠けてなんていなかった」

「うん。ということはだね。あのゴーレム、途中でなくなったはずの目が、復活したんだよ」


「ここからはぼくの想像も入るんだけど、この小さな長方形の一つ一つが、ゴーレムを作っているパーツなんじゃないかな。そこに接着剤の役目をするもの、たとえば魔力か何かの力が働いて、ゴーレムになってるんだ」

「そうか、なんてこった! あいつ、『サン○ャイン』だったのか」

 上条は、「キ○肉マン」に登場した悪魔超人の名前を口にした。ぼくはうなずいて、

「そう、そんな感じ。こう考えれば、壊された後の復活も納得できる。上条がゴーレムを剣で切った時、壊れたのは接着剤の方だったんだ。パーツよりも接着剤の方が壊れやすければ、力を加えた時に壊れるのは接着剤の方で、パーツじゃない。重要なパーツが無傷で残っているのなら、修復するのはわりと簡単だろう。

 そして、そのパーツにある程度の汎用性があるなら、目の部分が復活したことも、説明できると思うんだ」

 ぼくの説明に、白河は少し考えて、

「……そうですね。ゴーレムに自動修復の機能をつけているくらいだから、パーツが壊れた時の備えもある、と考えてもおかしくはありません。だとすると、あのゴーレムは復活した時、ユージ君が持っていたパーツの分、痩せていたことになるんでしょうね。

 ユージ君の説明が正しいかどうかはわからないけれど、目の部分を隠しても目が復活してしまうのなら、いずれにしても郁香の戦法は通じないということになりそうですね」


 上条はつまらなそうな顔でぼくたちの話を聞いていたけど、ここではっと気づいたように、

「なあ。おれたちの前に迷宮を攻略した人って、どうやってここをクリアしたんだ?」

「おとりを使ったんだよ。メンバーのうちの一人が先に進み、その人が迷宮の中を走り回って、できるだけたくさんのゴーレムを引きつける。その隙に、残りのメンバーが迷宮を抜けたんだ」

「へー。で、おとりの人は、その後どうしたんだ?」

 一ノ宮は答えた。

「その人は、帰らなかったそうだ」


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