第135話 パーティーのステータス

 マジックバッグは非常用、か。

 それが一般的な使い方だとすると、ぼくのマジックバッグにお金が入っていたのも、なんとなくうなずける。けど、どうして王城の中なんて場所に落ちていたんだろう。あそこで働いている人が、そんなものを持ち歩く理由が、ちょっと想像できない。

 あ、待てよ。あの日は、魔族の襲撃があったんだった。だとすると、魔族の攻撃から避難しようとして、途中で落としてしまったのかな。

 それにしても、ぼくはこれまでマジックバッグのことは良く知らずに、なんとなくで使っていた。正式の使い方があるのなら、ぜひとも知っておきたいところだ。話の流れに乗って、ぼくも白河に尋ねてみた。


「中に何が入っているか、どうやったらわかるの? 中のものがわからないと、他の人が入れた物を取り出せないだろ。もしかしたら、自分が入れたものでも、忘れるかもしれないし」

「ああ、それは『リスト』という魔法を使うんです。系統としては生活魔法の一種なんですけど、使う人が限られているから、あまり知られていない魔法ですね。あ、そうだ……ユージ君も使うかもしれないから、バッグの使い方と、『リスト』を教えておきましょうか。郁香、頼んでもいいですか?」


 白河が柏木に話を振り、柏木は「あ、うん。わかった」と答えた。お、教えてくれるのか。ラッキーだな。これでやっと、手持ちのマジックバッグに何が入っているのかが、判りそうだ。


「さっき『今のところは』借りてるだけ、って言ってたわよね。あれは、どういう意味?」

「ああ、それはね。このクエストに成功したら、報酬として、このマジックバッグをもらう約束になっているんです」

「かー、いいなあ。それがあれば、いつでもこんな暖かい飯が食えるってことかあ」


 松浦が、うらやましそうな声を上げた。その彼に、上条は手にしていたステーキの皿を差し出す。きょとんとする松浦に、一ノ宮が言った。


「遠慮しなくてもいい、君の分だよ。マジックバッグの容量は無限じゃないけど、食事くらいなら、かなりの数が入るからね。ここにいる全員分は、用意してあるんだ」

「ユージ君の分もあるからね。迷宮に入っても、食事はいつもと同じものが食べられるから、そこだけは安心して」


 どうやら、マジックバッグを持って旅に出る時、考えることはみな同じみたいだった。


 ◇


 その翌朝。

 ささっとキャンプの道具を片付けて、ぼくたちは再び迷宮の門を開けた。聖職者のおじさんを先頭に、通路への階段を降りていく。石造りの通路はそれほどの幅はなく、学校の廊下をちょっと広くしたくらいだった。照明の道具などは備えられていないから、おじさんは魔道具のランプを片手に、先へ進んでいった。

 数十メートルほど行ったところで、通路は行き止まりになった。突き当たりの直前は少し広くなっていて、そこの床には複雑な紋様が円を描いて刻まれていた。その紋様は、わずかに赤い光を放っている。おじさんは言った。


「それでは、転移陣の中にお入りください」


 あ、忘れてた。迷宮に入る前に、一ノ宮たちのスキルやステータスを確認しておこう。これから一緒に戦うには、互いの得意不得意を知っておく必要があるからね。ぼくは勇者パーティーのメンバーに向けて、鑑定のスキルを発動した。


・一ノ宮

【種族】マレビト

【ジョブ】勇者

【体力】102/102

【魔力】32/32

【スキル】強斬 連斬 縮地 威圧 受け流し 打撃耐性 毒耐性 魔法耐性 状態異常耐性 剣 盾 火魔法 風魔法 雷魔法

【スタミナ】 96

【筋力】 88

【精神力】42

【敏捷性】9

【直感】8

【器用さ】5


・上条

【種族】マレビト

【ジョブ】重騎士

【体力】125/125

【魔力】17/17

【スキル】強斬 シールドバッシュ 威圧 打撃耐性 痛覚耐性 大剣 剣 盾

【スタミナ】 122

【筋力】 132

【精神力】34

【敏捷性】5

【直感】3

【器用さ】3


 一ノ宮は、さすが勇者だな。剣に関連したスキルがたくさんある上に、魔法も三属性が使える。様々な耐性を持っているから、防御も強そうだ。オールラウンダーで、しかもすべての面で優秀、といったタイプだろう。

 その中でも、敏捷性が高くて「受け流し」なんてスキルがあるところをみると、どちらかというと正面から斬り合うよりは、相手の攻撃をいなした上でこちらの攻撃をたたき込む、といった戦法が得意なんだろうか。

 上条は、重騎士ジョブの持ち主だけに、騎士団長だったビクトルのステータスと似ている。さすがにビクトルには及ばないけど、スタミナや筋力は勇者よりも高いし、打撃耐性や痛覚耐性、それにシールドバッシュなんてスキルを持っている。ヘイトを集めて敵の攻撃に耐えるという、盾役に特化しているんだろう。


・白河

【種族】マレビト

【ジョブ】聖女

【体力】18/18

【魔力】84/84

【スキル】水魔法 氷魔法 土魔法 風魔法 光魔法 闇魔法 状態異常耐性 痛覚耐性 魔法耐性

【スタミナ】 13

【筋力】 6

【精神力】86

【敏捷性】3

【直感】4

【器用さ】4


・柏木

【種族】マレビト

【ジョブ】魔導師

【体力】21/21

【魔力】91/91

【スキル】火魔法 水魔法 氷魔法 土魔法 風魔法 雷魔法 闇魔法 魔法耐性 魔力探知

【スタミナ】 15

【筋力】 7

【精神力】69

【敏捷性】2

【直感】6

【器用さ】5


 この二人は、なにしろ魔法のスキルがすごい。柏木の七属性は有名だけど、白河だって光魔法を含む六属性が使える。あれ、これって、最初の時より増えてるんじゃないかな。さすが、聖女ジョブの持ち主だ。

 魔力や精神力の値も高くて、白河は三つの耐性スキルを、柏木は魔力探知なんてスキルを持っている。体力・スタミナが低いのがちょっと心配だけど、後衛職ならしかたがないか。全般的に、「聖女」「魔導師」というジョブ名のイメージの通り、白河は防御優先、柏木は攻撃優先、って感じなのかな。


 なんてことを考えているうちに、聖職者のおじさんが呪文の詠唱を始めた。地面に描かれた魔法陣が、白い光を放つ。その光は次第に強まっていき、詠唱が終了した次の瞬間、紋様全体が大きな光に包まれた。松浦の「じゃあなー。がんばれよー」という呑気そうな声が途中で途切れて、ぼくは思わず目を閉じた。



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