第4章 勇者と聖剣篇
第126話 そこに現れたもの
今回から第4章に入りますが、その前にちょっとだけ訂正を。
1章の冒頭で、「グロさはここがマックスです」と書きましたけど、本章では、いわゆるゾンビの魔物のようなものが登場します。ですので、グロさはこっちのほうが上になるかもしれません。その手のものが苦手な方は、お気をつけください(作者がそこをうまく描写できていれば、ですけど)。
あっとそれから、おかげさまで昨日、50万PVを達成しました。それから、いつのまにか ☆ も1000を超えていました。読んでいただいた皆さん、レビューをつけていただいた皆さん、どうもありがとうございます。
今日は新章開始記念、50万PV達成記念、☆1000超え記念と言うことで、後でもう1話投稿する予定です。3つの記念にしてはしょぼい?
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カルバート王国の王都、イカルデア。その王城にある会議室の一つに、勇者召喚の儀の関係者が集まっていた。
既に恒例となった感のあるこの会議の出席者は、いつもの面々だった。パメラ・リーゼンフェルト第一王女、エルベルト魔導卿、デニス軍務卿、レスリー財務卿、その他大臣の副官や、各省庁の筆頭事務官。ビクトルの後を継いで第五騎士団を率いることとなったダリル騎士団長も、この席に加わっていた。
会議では、ダリルの副官であるマークから、勇者パーティーの最新の状況が報告された。
「──先日、勇者イチノミヤ様、聖女シラカワ様、重騎士カミジョウ様、七属性魔導師カシワギ様で構成される勇者パーティーが、我が国と魔族軍との戦闘に初めて参加されました。
場所は魔族領東部にある、ブルーリの街の近郊です。この戦いでは、まずはカシワギ様が大規模な火魔法を放って敵の戦意を喪失させ、ひるんだ敵陣にカミジョウ様、イチノミヤ様が突入、多くの魔族を討ち取られました。結果、我が軍はここに駐留していた魔族軍の守備部隊を撃破し、ブルーリを制圧することに成功しました」
この報告に、会議の出席者から静かな拍手が起きた。
「いよいよ、勇者様が魔族との戦いに参戦されましたか」
口元のひげに手をやりながら、レスリーがうんうんとうなずいた。
「しかも、その初舞台で数多くの敵を討ち取り、我が軍を勝利に導かれたるは。さすがは勇者様ですな」
「ふむ。その戦果と評価自体には、異を差し挟むつもりは毛頭ないのだが」
禿頭に軍服を着込んだデニスが、さっそく口をはさんできた。
「勇者様が活躍される基盤となったのが、我が軍の精鋭であることは、忘れていただきたくはないですな。
それからもう一つ、問題点があるとすれば、勇者パーティーの指揮、指導を誰が行うか、ですな。これまでは、勇者様の育成期間ということで、騎士団にお任せしていたわけですが、これからは軍と共に、魔族との戦いに臨んでいただくのです。この機会に、国軍に管理を移すのが筋だと考えます」
「それについては、前回の会議でもお話をしたと思いますが」
ダリルが、ややうんざりした表情で反論した。
「勇者パーティーは軍の中に組み込むのではなく、遊撃として独自に動いていただくということで決まったはずです。もともと勇者様方には、軍務につかれた経験などありません。今から軍の規律の中に組み込むのは、勇者様の大きな負担となります。そうなれば戦術的にも、障害が生じかねないでしょう」
「いやいや。そうは言ってもですな。大きな軍というのは、規律ある行動があって初めて、力を発揮するのです。小さな部隊が緊密に連携を取ってこそ、各個の力が相乗的に発揮される。独立した大きな戦力というものは、一見すると魅力的に映りますが、全体で見れば、えてして邪魔な動きをしがちなのですよ。
こたびの対魔族戦の戦闘は、騎士団ではなくわが軍がその指揮をとっております。以上の問題点を解消するためにも、できるだけ早期に、軍に移管すべきです」
最近の会議で、これもほぼ恒例行事となってしまったデニスとダリルの応酬は、今回も平行線が続いた。生産性のない議論に嫌気が差したのか、普段は戦争の行方などにはたいした関心を示すことのないエルベルトが、珍しくこんな質問を投げかけた。
「ところでじゃ。その対魔族戦なのじゃが、全体としての戦況はどうなっているのじゃな?」
手元の資料を持ちながら、軍務卿の副官が立ち上がった。
「一言で申し上げれば、順調そのものです。
先日の戦いでブルーリの街を落としましたので、これで魔族領のほぼ南半分を、完全に制圧したことになります。残る重要拠点は、魔族国の首都ベルネンと、その近郊の街ソードワースの二カ所のみです。
現在、ソードワースに向けて部隊が進軍しておりまして、予定どおりに進んでいれば、既に布陣も完了しているはずです。敵の出方にもよりますが、今まさに、戦端が開かれていてもおかしくはありません。
おそらくはこの街が、魔族側にとっては最後の砦になるでしょう。ここさえ落としてしまえば、ベルネンを完全に包囲する形になります。敵も、先手を打ってさらに北に逃げ延びる可能性もありますが、ベルネンから北は荒野が広がるのみで、見るべき拠点もありません。
ソードワースでの戦闘に勝利すれば、事実上、この戦争は我が軍の勝利と言っていいでしょう」
「そのソードワースでの戦いについては、どのような見込みをもっているのですか」
「推定ですが、魔族軍の軍勢はせいぜい一万といったところでしょうな。これに対して、我が軍は東部、南部、西部の各戦線から集結した軍勢をぶつける予定です。なにしろ、これまでは消耗らしい消耗もなく進んできましたからな。当方の勢力は五万余、少なく見積もっても、敵の数倍の規模となるでしょう」
パメラ王女の質問に、デニスは自信たっぷりな様子で回答した。出席者から、口々に賞賛の声が上がった。
「ならば、我が軍の勝利は動きそうにありませんな」
「結局、取りこぼしらしい取りこぼしもないまま終わりそうだな。なんとも、張り合いのない相手だった」
「しかし、我が軍の進軍が早すぎて、勇者様の最終決戦への参加が間に合わないのではないか?」
「それはかまうまいよ。勇者様は旗印になってさえいただければ、それでいいのだから」
「対魔族戦が終わったならば、ヴィルベルト教国方面に配置する、という手もありますな。あちらでは小さないざこざが頻発しておりますから。今すぐ開戦、というわけではないにしても、かつてのビクトル殿のように、教国に対する重しとなっていただければ」
「そういえば、先日パーシー侯爵から、内密の連絡がありましてな」
レスリーが、もったいぶった調子で話し出した。
「近々、お会いしたいとのお話しでした。なんでも近々、ニールス王子が、王都を訪れる予定があるとか」
「ニールス王子が?」
驚きの声が上がった。パーシーは、王国南西部に所領を持つ貴族だ。現在、ロドルフ辺境伯の元に身を寄せて事実上の独立勢力となっている、エルミオ第二王子、ニールス第三王子のうち、ニールスの派閥に属していた。
「ということは、ニールス王子がエミリオ王子、ロドルフ辺境伯と
「先方の意がどこにあるかは、まだわかりません。が、その可能性はありますな」
「とうとう、折れてきましたか。対魔族戦の状況を見ての判断でしょうなあ。こちらに勇者様がおられる限り、ヴィルベルト教国からの支援も難しいでしょうし」
「だとしても、さて、どう応じたものか」
「恭順の意を示すというのであれば、受け入れても良いのではありませんかな? それも王者の度量というものでしょう」
しばらくは笑い声も交えての、まるで歓談のような議論が続いた。
しかし、そんな弛緩した空気を打ち破るような音が、室内に鳴り響いた。会議室のドアが、立て続けに強くノックされたのだ。
「失礼いたします」
ドアを開けて入ってきたのは、軍服姿の若い男だった。早足でデニスのもとに近づいてメモの紙を渡し、何やら耳打ちをする。それを見たデニスと彼の副官の顔に、驚愕の表情が浮かんだ。
男がドアを開けて一礼し、部屋から退出するまで、デニスは一言も発せず、ただ目の前の紙をにらみつけていた。その尋常でない様子に、パメラが尋ねた。
「なにかあったのですか」
黙ったままのデニスに代わって、副官が答えた。
「……いえ。これはまだ、断片的な初期情報で、確定した話ではないのですが」
「それでもかまいません」
「ソードワースにて、魔族軍と我が軍が交戦。我が軍が破れたとの情報が入りました」
しんと静まりかえる議場の中、パメラが質問を続けた。
「そうですか……当方の被害は?」
「詳細はまだ不明ですが、第一報によりますと、アーチボルド将軍が討ち死にされたとのことです」
一同に衝撃が走った。戦いである以上、勝利することもあれば敗北することもある。それは避けることができないだろう。しかし、今回の戦いは戦力差数倍という、圧倒的な優勢の中で行われるはずだった。そんな状況で、軍の指揮官である将軍が討ち取られたというのだ。
通常、指揮官は軍の後方に位置して指揮をとり、どれほどの大敗であっても、戦死することはまれである。いったいどんなことが起きれば、そのような事態が生じるというのだろう。
だが、副官が伝えたかったのは、それだけではなかった。
「そしてこれは、まだほんとうに未確認の情報なのですが」
「いいから話せ」
出席者の一人が、荒っぽい口調で問いただした。副官はゴクリとつばを飲み込んで、
「前線の兵たちの証言によりますと──魔族の中に、魔王が現れたとのことです」
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