第91話 精霊術と水魔法

 あれから、いろいろあったなあ。


 旅の道を歩きながら、ぼくはいまさらながらに、こんなことを思っていた。

 大高たちと王都へ向かった際に起きた出来事のあとも、様々なことがあった。北の街で起きたとある事件、その街で出会った精霊術の師匠、師匠との修行と突然の別れ……商人の護衛依頼に個人で参加したら、ぼく以外の冒険者が山賊と通じていたなんていう、とんでもない出来事もあった。デモイの街を出てから四ヶ月しかたっていないとは、思えないくらいだ。

 でも、このあたりは話すと長くなってしまいそうだから、今はやめておこう。


 その代わりというわけでもないけど、これが現在の、ぼく自身を鑑定した結果だ。


【種族】ヒト(マレビト)

【ジョブ】剣士(蘇生術師)

【体力】18/18 (98/98)

【魔力】6/6 (70/70)

【スキル】剣 (蘇生 隠密 偽装 鑑定 探知 縮地 毒耐性 魔法耐性 打撃耐性 小剣 投擲 強斬 連斬 火魔法 雷魔法 土魔法 水魔法 精霊術)

【スタミナ】 18(69)

【筋力】 17(96)

【精神力】12(40)

【敏捷性】5(8)

【直感】2(6)

【器用さ】2(7)


 ステータスが、かなり変動している。

 というのも、ぼくはこの間にもまた一度、殺されてしまったからだ。さっきも言いかけた、山賊に襲われた時に。そういえば、あの時がぼくの冒険者人生で初めての、依頼失敗だったんだよな。ギルドに報告するのにも、ちょっと困ってしまった。なにしろ、生きて(正確には「生き返って」)逃げられたのは、ぼくだけだったんだから。一応、「ほかのパーティー全員が裏切ったので、やむを得ずその場から逃げた」と説明して、納得はしてもらったんだけど。

 ステータスの中身を見ると、体力、筋力などはぜんぜん伸びていなかった。これは前回と同じだ。もしかしたら、上限値でもあるんだろうか? だとしたらちょっと残念。今でも十分、高いとは思うけどね。それに対して、魔力と精神力の伸びがすごい。水魔法と精霊術というスキルも取得していたので、その影響もあったのかもしれない。


 水魔法、というよりもヒールの魔法が手に入ったのは、やっぱり大きい。

 回復魔法には二種類ある。「ヒール」「ハイヒール」などの傷をふさいだり体力を回復させたり(体力回復はそれほど大きな効果はないけど)する魔法と、「エクストラヒール」という、欠損した箇所を修復する魔法だ。前者は水魔法で、後者は、効果が似ているから「ヒール」という名前がついているけど、光魔法に属する。光魔法の使い手はとても少ないそうで、だからそれを使える聖女様が珍重されるんだけど、水魔法が使える人も、それほど多くはないそうだ。その魔法が使えるようになったのは、ラッキーだった。

 水魔法には「ウォーターボール」などの攻撃系の魔法もないことはないけど、威力は他の魔法より低い。回復専用と考えた方がいいだろう。それでも、回復の手段があるのは便利だよね。今まではポーションだけが頼りで、しかも城から持ち出した高級なものは数が限られるから、節約しながら使っていた。これからは、そういう心配が少し減るだろう。


 精霊術というのも増えているけど、これは珍しいことに、生き返った時にドラゴ○ボール方式で取れたものではない。これもさっき書きかけた「師匠」の下で、ちゃんと教わったものだ。ただ、今のところ、ぜんぜん使っていないんだよな。というより、修行が途中で終わってしまったため、使い方がよくわかっていなかったりする。各種の属性魔法と違って、呪文を唱えればなにかが起きる、というものではないみたいだし。

 あ、それから 鑑定結果には表れていないけど、探知のスキルも以前より柔軟に探索範囲を設定できるようになって、使いやすくなった。魔法などに比べると地味だけど、いつもお世話になっているスキルだから、性能が上がるのはとてもありがたい。


 ◇


 その日、ぼくはとある小さな街道を歩いていた。

 場所は依然として、カルバート王国の北東部。精霊術を習っていた街は北東の端くらいで、ぼく的にはかなり寒かったので、そこよりも少し南に下がっている。

 これまでのところ、リーネや彼女の姉妹に関する情報は、まったく入っていなかった。新しい街に行くたびに、そこのギルドで「リーネという名前の、猫獣人で軽騎士ジョブの冒険者はいないか」と聞いてみたり、その街にある奴隷商に行って、「エルネスト出身で女性の猫獣人の奴隷はいないか」と尋ねて回っているんだけど、収穫は無し。リーネは今頃、どこにいるんだろう。元気にやっているんだろうか。

 旅の間は、護衛の依頼を受けたり、商人や他の冒険者と話をして一緒について行ったりと、できるだけ単独では動かないようにしていた。けれどその日は、運悪く道連れを見つけることができなくて、一人きりの旅路だった。

 まあ、夜の間も探知をオンにし続ければ、敵が近づいたら目が覚めてくれるから、短い期間なら、一人でもそこまで危険なわけではなかった。それから、偽装のスキルで隠していたステータスを本来の高さにすれば、弱い魔物はあまり寄ってこなくなるみたいで、これは助かった。

 もっとも、それでも寄ってくるような魔物がいたらちょっとヤバい、ってことになるんだけど、幸いなことに、これまでのところは、そんなことは起きていなかった。


 この時、夜営の場所に選んだのは、小さな湖のそばだった。生活魔法の「ウォーター」があれば生活用水には困らないので、どうしても水辺にテントを張らなければならないわけではない。けれども、月の光に照らされた湖面は神秘的な美しさがあったし、静かな波の音を聞きながら眠るというのも、ぼくは嫌いではなかった。ちょっと、寂しげな美しさだけど。

 たまには魚を食べたいな、なんて思いながら、ぼくは寝袋に入った。けど、さすがに網や釣り道具なんて、持ってきてはいない。元の世界も含めて、釣りをしたこともないし。雷魔法って、漁に使えないのかな? 日本だと違法だったような気がするけど、こっちはどうなんだろう。

 でも、魚をさばいた経験が、まったくないんだよな。それに川魚って、海の魚と比べるとけっこう生臭いイメージがある。そのへんも、こっちの世界では違うのかな? ま、そんなことはいいや。そろそろ眠ろう。まぶたを閉じて、おやすみなさい……。


 ……


 …………


 ………………



「あー、もう!」


 ぼくは思わず叫んで、テントの中で跳ね起きてしまった。



────────────────


 精霊術の師匠関連のエピソードは、ちょっと毛色の違う話なので、ここでは書きません。設定そのものが、少し変わるお話になるので……っていうか、実はまだ、完成していないんですけど。



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