第59話 思わず二度見

「ユージ様のお望みは剣士タイプの奴隷ですか。それとも、魔術師タイプでしょうか」

「えーと、剣士タイプかな。ぼくと一緒に、前列で戦ってくれる人がいいですね」

「年齢は、どの程度をご希望でしょう」

「できれば、ぼくと同じくらいの年で。あんまり年上だと、なんだかやりにくそうな気がするので」

「性別はいかがいたしましょう? 当商会には、男性の奴隷も、女性の奴隷も用意してございますが」

「……どっちでもいいです。ただ、できれば食事の支度とか、身の回りの世話も任せたいので、それが出来る人をお願いします」

「承知いたしました。では、少々お待ちください」


 イクセルはにっこりとうなずき、彼の後ろに立ったまま控えている女性店員と何やら話をした。彼女が部屋を出ていってしばらくすると、ノックの音が響き、さっきの店員に続いて、三人の男が入ってきた。


「こちらが、ユージ様にご紹介できる者たちになります」


 三人をソファーの横に並ばせて、イクセルが一人ずつ紹介していった。


 一人目は、ぼくより少し年上の、若い男だった。背の高さはそれほどでもないが、体の厚みが、ぼくとは段違いだった。ひとことで言えば、ムキムキのマッチョマンだ。ジョブを聞いてみると、「格闘家です」との答だった。

 格闘家か。新田と同じだな……悪くはない。悪くはないんだけど、できればヘイトを稼いで、敵の攻撃を集めてくれるタイプのほうがいいんだよな。


 二人目の男は、ジョブが剣士だった。「剣」のスキルも持っているそうで、まあ、標準的なタイプかな。冒険者の経験もそれなりにあって、Cランクまでいったそうだ。

 ただ、問題は、顔だった。なんていうか、ヤクザというかヤンキーというか、それもけっこうきつい方の、そういった面相……いや、見た目で人を判断してはいけませんよ。それはわかってる。でも、見ているだけで気後れしそうなのは、ちょっとなあ。これからずっと、二人で生活していくことになるんだし。ところでこの人、食事を作ってくれるのかな? 


 三人目は、一人目とは対照的に、体の線が細い感じの青年だった。前線での戦闘に長けているようには思えない。背が高いせいでそう見えるのかな、とも思ったけど、聞いてみると彼のジョブは「弓使い」だった。

 近接戦闘もできます、とのことだったけど、どうなんだろう。確かに、とあるゲームのアーチャーは、剣も強かったけどね。身の回りの世話は得意、だそうだけど、そこは二次的な評価ポイントなので。


「ユージ様、いかがでしたでしょうか?」


 三人を退場させた後で、イクセルが聞いてきた。ぼくはうーんとうなって、正直なところを言った。


「なんていうか、今ひとつなんですが……他にはいないんですか?」

「そうですか。あの三人は、戦闘面ではそれなりの実力があるのですがね」

「あのー、男性だけですか? 女性でもいいんですけど」

「剣士タイプの、前列で戦える女性奴隷となると、数が少なくなりまして」


 イクセルが答える。ぼくが残念そうな顔をすると、彼は「ああ、そういえば」と言葉を継いだ。一瞬だけ、その顔がにやりと笑ったような気がした。


「一つ、確認するのを忘れておりました。ユージ様は、ヒト族以外の種族、たとえば獣人族を忌避されますでしょうか?」

「獣人族?」


 獣人とは、文字通り体の一部に獣の特徴がある種族の総称だ。猫獣人、犬獣人などの種族があって、種族によって少しずつ外見が違うけど、耳やしっぽなどにその特徴が現れるものが多い。一般に、ヒト族よりも身体能力が優れている代わりに、魔法は苦手だと言われている。

 といっても、これは城にいるころに習ったことで、実際に見たり会ったりした経験は、いまのところない。カルバート王国はヒト族至上主義で、敵対している魔族だけでなく、獣人などの亜人に対しても排他的な国だそうだから、数も少ないんだろう。

 もちろんぼくは、見たこともない獣人を嫌ったりはしません。


「いいえ。そういうことはないですね」

「そうですか。それではもう一人、紹介できる者がおります」


 イクセルは女性店員に合図をした。店員はドアの外に消えたと思うと、すぐに一人の女性を連れて戻ってきた。


 その女性は、彼女がヒト族だとしたら、高校三年生くらいに見えた。

 短めにカットされた茶色い髪、大きな目とすっと通った鼻筋。身長は百七十センチにちょっと足りないくらいで、すらっとした八頭身。ひとことで言えば、今まで見たこともないくらい、きれいな人だった。あ、白河さんがいるけど、彼女とはちょっとタイプが違う、なんて言うかスポーツ系のきれいな人だ。

 メイドのような服を着ているのは、場所からすると少し違和感があるはずなんだけど、それすらも、とても似合っていた。そして、メイド服のお尻の位置からでているのは、小麦色の、毛長なしっぽだった。

 ただ、首筋にのぞいて見える黒い刺青のような紋様は、この子がたしかに奴隷であることを表していた。


「この子が、獣人族?」

「はい。獣人族の中でも、猫獣人という種族になります。彼女は、当商会で所有している中でも、最もおすすめできる奴隷です」

「リーネと申します。よろしくお願いします」


 リーネが一礼すると、おしりのしっぽが軽く揺れた。髪の毛にかなり隠れているけど、いかにもケモミミっぽい、毛に覆われた大きめの耳も、ちょっとだけ見えている。うーん、初めて見たけど、たしかに、「獣」人だな。

 ためしに、「鑑定」スキルを使って、彼女の能力を調べてみた。


【種族】獣人

【ジョブ】軽騎士

【体力】28/28

【魔力】4/4

【スキル】連斬 受け流し 縮地 打撃耐性 剣

【スタミナ】 29

【筋力】 26

【精神力】9

【敏捷性】10

【直感】7

【器用さ】3


 ん? ぼくは彼女のジョブ欄を、思わず二度見してしまった。この子、「軽騎士」なの?



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