第50話 うすうすはわかってた
そんなふうに考えていた時期が、ぼくもありました(二回目)。
山賊を倒すよりも、その後の方がたいへんだった。
なにしろ、縛り上げた山賊四人を除くと、生き残っているのはぼくとアーシアだけ。幸い、馬はケガをしていなかった(馬自体が高く売れるので、山賊も傷つけなかったんだろう)から、倒れた馬車を起こしてやれば、動かすことはできた。これだって、「筋力」のステータスが上がっていなければ、大仕事だったと思うけどね。
だけど、探知でもわかっていたとおり、倒れていた御者一人と冒険者八人は、全員が亡くなっていた。
この遺体を、どうしようか。人数が多すぎるので、持っていくのは難しい。冒険者の場合、遺体を見つけたらギルドカードだけを回収してギルドに提出するのが、一応の決まりなのだそうで、今回はそのやり方に従うことにした。武器や財産のたぐいももらってしまっていいそうなんだけど、ぼくにはまだ、そこまでは吹っ切れなかった。
できれば、獣や魔物などに食い荒らされないよう、穴でも掘って遺体を埋めておきたかったけど、人も道具も無い現状では、とても無理。一カ所にまとめて、軽く土をかけておくのがやっとだった。あ、山賊の死体は放ったままです。食べるなら、そっちを食べてくれ。
冒険者ではない御者の遺体と、ギルドへの報告用に親玉の死体、それから、まだ生きている山賊のうち、傷で動けそうにない二人を屋根の上に積んで、馬車は出発した。
残りの山賊二人には、縛ったまま、走ってもらうことにしました。大丈夫、荷馬車ってそんなに速くないから、根性見せればなんとかなるよ。御者役は、アーシアが馬の扱いができるということなので、彼女にやってもらった。
とはいえ、もとから積んでいた商品もそのままだから、明らかな積載量オーバー。馬車はぼくが想定した以上に、ゆっくりとしか進まなかった。結局、街道の途中で一晩を過ごすことになり、夜の寝ずの番まで、ぼくがすることになってしまった。
これには、ちょっとした裏技を使った。眠る時に、探知のスキルをオンにしたままにしておけば、探知範囲に何かが入ってくると、刺激のようなものを感じる。それで目を覚ますことができるんだ。
疲れていて眠りが深かったりすると起きられないこともあるし、近くに来るものが多すぎると、ほとんど眠れなくなってしまうけどね。この技を思いついて、宿屋でテストした時には、家の前を誰か通るたびに起こされてしまって、途中で断念したことがある。
それでも、完全な徹夜よりはマシだと思って、一晩だけ我慢することにした。結果的には、何事も起きず、すやすやと眠れました。街に近い、メインの街道沿いだったからかな。
こうして、翌日のお昼前には、なんとかリトリックに戻ることができた。
門に立っていた兵士に山賊のことを告げたあと、馬車を冒険者ギルドに回してもらう。こちらにも山賊の件を報告して、証拠として親玉の死体を引き渡した。山賊と冒険者の亡骸をどうするかは、ギルドの判断に任せよう。刀を一本もらっただけで、他の装備品は残しておいたから、それを報酬代わりに、誰かに回収を頼んでくれるかもしれない。
その後で、アーシアさんの店に向かった。
ランドル商会ってどんなところだろう? と、ちょっとわくわくしながら馬車の後をついていったんだけど、馬車が止まったのは、一軒のお店の前だった。
外壁は白を基調とした漆喰のような材料で塗られていて、商会の事務所と言うより、「隠れ家的な名店」と言った感じだ。「ランドル商会」の看板の横に「ランドル菓子店」の看板もかかっていたから、そういった商売もしているんだろうか。冒険者がたむろするような店ではなく、もう少し裕福な層を相手にしているような、ちょっと高級そうな店構えだ。
とはいえ、メインの通りに面してはいるけど、決して大きな店ではない。残念ながら、「大商会」というわけではなさそうだった。
いや、うすうすはわかってたんだよ。大商会の娘が、御者と冒険者を除けば自分の身一つで、商品の輸送に出向くとは思えないからね……。
店の中に入ると、アーシアさんは言いづらそうな表情で、こう切り出した。
「命を助けていただいたのですから、本来なら、できる限りのお礼をしたいところなのですが……」
彼女が言うには、この商会もかつては本当に大きな商会で、「リトリック四大商会」の一つに数えられていたんだそうだ。
だけど数年前、彼女のご両親が不慮の事故で亡くなってしまった。アーシアさんが後を継いだものの、それまでの彼女は深窓の令嬢扱いで、実務はまったく手がけていなかったそうだ。それをいきなり大商会の経営なんて、できるはずがない。そのため、それまで両親の下で働いていた大番頭に経営を任せることになったんだけど、しばらくしてその大黒柱の番頭が、他の大商会の一つに引き抜かれてしまったんだという。
しかも、彼と一緒に、主だった職員がまとめて移籍してしまったために、商会の経営は大混乱に。結果、ランドル商会はまたたくまに力を失ってしまい、手広く行っていた事業の数々も、次々に手放すことになった。そして今では、この一店舗が残るだけなんだという。
そんな話を聞かされては、ぼくもこう答えるしかなかった。
「いえ、こちらも勝手に手を出しただけですから、そんなに気にしないでください。それに、ギルドに引き渡した盗賊のほうから、お金も入るでしょうし」
「ありがとうございます。ユージ様の方でなにかお困りのことがありましたら、いつでも遠慮無くお申し付けください。当商会でできることがありましたら、協力させて頂きますので」
結局、亡くなった冒険者に支払うはずだった護衛依頼の費用だけを受け取って、ぼくは商会を後にした。
◇
その二日後。盗賊の件はどうなったかな、と冒険者ギルドを訪ねてみると、受付の女性にいきなりつかまって、二階にある応接室のような部屋に連れて行かれた。席について、おとなしく待っていると、現れたのはさっきの受付の人と、五十代くらいのいかつい顔のおじさんだった。おじさんは言った。
「山賊の討伐、ご苦労だった。ギルド長のゴドフリーだ」
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