第42話 王都、追放 (1)

 ぼくの前には、これまで会ったことのない騎士が一人、立っていた。ぼくはぼけーっとした顔で、彼ががなりたてるのを聞いていた。


「……ケンジ・ユージマは、女神様に選ばれし勇者パーティーの一員でありながら、自らの稚拙な判断によってシュタールの森に入り、その結果、危険極まりない変異種のオーガを、シュタールの村に近づけることとなった! ……」


 場所は王都イカルデアに戻って、王城の入り口。大きな門の前で、その騎士は両腕を真っ直ぐ伸ばした格好で紙を持ち、そこに書かれた告発状? らしきものを読み上げていた。

 それにしても、『勇者パーティー』って呼び名、久しぶりに聞いたな。ぼくが勇者なんて呼ばれたことなんて、ほとんどないんだけど。


「……いち早くこのことに気づいたビクトル・レングナー第五騎士団団長は、その場に駆けつけ、オーガ変異種を相手に単身、戦いに挑まれた。そして、『剣神』とうたわれた剣の技により、変異種という強大な敵を倒し、シュタールの村、ひいてはカルバート王国の国民を守るという重責を果たされたのである!。

 だが、マレビトであるユージマをかばいながらの戦いとなったため、団長自身も多くの傷を負った。そしてそれがために、命を落とすこととなってしまった……」


 いや、そこは違うぞ。ぼくはいきなり殺されたんだから、団長がぼくをかばいながら戦った、なんてはずがない。それに、ぼくが勝手に森に入っていったんじゃなくて、団長がぼくを引っ張っていったんだっての。ジルベールにもそう話したし、王都に戻ってからも、騎士の人に何回も説明した。

 だいたい、こっちはゴブリンくらいとしか戦っていないのに、オーガ相手に何かできるわけがないし、しようと思わないよ。

 それにしても、あの後はたいへんだったなあ。なにしろ、騎士団長が死んじゃったんだから。村に戻ってそのことを伝えた後は、遺体を村まで運んだり、現場検証みたいな作業を手伝わされたりと、散々だった。ジルベールなんて、ずいぶん取り乱していたな。

 尊敬する団長が死んでしまったんだから、気持ちはわからないでもないけど、


「団長を生き返らせてくれ」


とか、


「どうしてできないんだ!」


とか、ぼくに向かって当たり散らすんだから。だから、ぼくの蘇生スキルは、そういうものじゃないんだっての。


「……これらの状況を判断すれば、レングナー騎士団長の死は、ケンジ・ユージマの責に帰すべきもの、と言っても過言ではない。わが国の宝である団長を死に至らしめ、一人おめおめと生きて帰ったその罪状は、本来であれば、極刑もやむを得ないところである! ……」


 騎士は手にした紙から目を離して、ぼくのほうをじろりとにらんだ。

 だけどぼくは、あんまり怖くは感じなかった。そもそも、全部が冤罪と言うこともあるし、何かされたら逃げればいいや、と思っていたこともある。その上この人、『本来であれば』って、ネタバレを言っちゃってるしね。

 騎士はしばらくぼくをにらんだ後、手元の紙に視線を戻して、続きを読み上げた。


「……しかしながら、自らの命をなげうってこのマレビトを助け出そうとしたレングナー騎士団長の行動。そしてユージマのご友人である、勇者イチノミヤ様、聖女シラカワ様のお気持ちを考えれば、ここでユージマに死を与えることにも、躊躇ちゅうちょを感じざるを得ない。

 が、まったくその罪を許して、勇者と行動を共にさせていくこともまた、適当でないのは明らかである。

 よってここに、ケンジ・ユージマを、勇者パーティーからの追放処分とするものである!」


 騎士は宣告文を読み終えると、もったいぶった動作で、持っていた文書を丸めた。そしてくるりと回れ右すると、ぼくを一顧だにせず、城の中へと戻っていった。頑丈そうな門戸が、大きな音を立てて閉まっていく。やがて、ぼくだけが外に残されたまま、城門は完全に閉じられた。



 しばらくの間、ぼくは門の外で佇んでいた。そして、さっきの騎士と同じように回れ右をして、王都の中心街の方向へ歩いて行った。

 追放。

 追放、か。


 ……

 …………

 ………………


 やったね!


 思わずガッツポーズしそうになるのを我慢しながら、ぼくは歩き続けた。さっきの騎士に言われた罪状は濡れ衣と事実誤認だらけだったけど、そんなのは気にしない。結果よければ、すべて良し。途中経過はどうでもいいや。


 これで、ぼくは自由だ。


 大高も言っていたけど、あのまま城の中にいても、明るい未来なんてなかっただろう。力があれば魔族との戦争に駆り出されるし、力が無ければ冷遇されて、放り出されるだけ。だったら今のうちに、城から出てしまった方がいい。


 元の世界への帰還? 帰れるのなら帰りたいけど、たぶん、無理なんだろうなあ。


 いや、もしかしたら、「勇者送還の儀」なんてことを、本当にやってくれるのかもしれないよ。魔王を倒せば。でも、呼び出された時に、魔法使いのじいさんが言ってたよね。「世界は動いていて、位置の特定が難しい。そのため、勇者召喚は失敗の連続だった」って。

 それって、送り返す時も同じじゃないのかな。もしもそうだとしたら、送還魔法で送り返された場所に、地球があるかどうかなんてわからない。世界は、動いているんだから。


 そういえば、こんなことも言っていたっけ。「世界の間をつなぐ扉は、維持するのが難しい」から「召喚した後は、元の世界と連絡することは出来ない」。これ、召喚の時にそうだったんだから、たぶん、送還の時も同じだよね。

 ってことは、送還した後、地球との連絡はしていないんじゃないかな。連絡していないってことは、その送還が成功したかどうか、確認をしてこなかった、ってことだろう。

 魔王を倒して、地球に帰れる……と思っていたら、何ももない宇宙空間に放り出されて終わり、なんてことが繰り返されていたのかもしれない。ちょっと、怖い想像だけど。

 こう考えると、元の世界への帰還は、無理筋のような気がする。だからこそ、ぼくは帰還にはそれほど乗り気じゃあなかったんだ。



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 ちょっと中途半端なので、本日は後でもう一回、投稿しようと思います。これで第1章もおしまいです。


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