第43話 王都、追放 (2)

 もちろん、この世界に残るにしても、それなりの力が無ければ、生きていくことはできないだろう。でも、この点についても、ぼくはまったく心配していなかった。


 ぼくは、常に身につけるようにしているマジック・バッグを開けて、中に手を突っ込んだ。そうして取り出したのは、小さな袋だった。少しだけ口を開くと、中には十枚以上の大金貨が入っているのが見えた。

 これが、ぼくがあわてなかった理由だった。実は、マジックバッグの中から、お金を発見していたんだ。

 マジックバッグは、念じたものを取り出すことができる。逆に言うと、何が入っているのかわからなければ、取り出すことができないものらしい(もしかしたら、ぼくが知らないだけで、中のものを調べる方法もあるのかもしれないけど)。

 そしてぼくは、城を出るまでは、この世界の貨幣がどんなものか知らなかった。だから、バッグの中にあったお金を、探すことができなかったんだ。でも、外に出てお金の実物を知ったおかげで、バッグの中のお金を取り出すことができるようになった、というわけだ。

 大金貨十枚というとけっこうな大金で、これだけあれば、数年くらいは働かなくても暮らしていけそうだ。それに、ぼくがまだ見たこともない他の国の貨幣や、もしかしたら白金貨なんてものも、バッグに入っている可能性もある。夢が広がりますな。


 それから、お城においてあったポーションのたぐいも、ちょっと──正直に言うとかなりの数を、バッグの中にもらってきている。これから、一人で生きていかなければならないんだからね。無実の罪で追い出された慰謝料として、このくらいはもらっていってもいいだろう。

 隠密のスキルがあれば、倉庫に忍び込むのも楽なものだった。あれだけの量がなくなっていれば、かえってぼくが犯人とは思われないだろう。マジックバッグを持ってることが、ばれない限りは。


 そして、あわてなかった理由がもう一つ。ぼくは自分の手を見つめて、鑑定スキルをかけてみた。


【種族】マレビト

【ジョブ】蘇生術師

【体力】85/85

【魔力】22/22

【スキル】蘇生 隠密 偽装 鑑定 探知 縮地 毒耐性 魔法耐性 打撃耐性 剣 小剣 投擲 火魔法 雷魔法

【スタミナ】 69

【筋力】 75

【精神力】33

【敏捷性】7

【直感】6

【器用さ】7


 すごい成長だった。体力なんて、確かこの前までは 20 くらいだったよね? スキルの方もいろいろ増えて、戦闘でも使えそうなものが出てきた。

 「剣」スキルがついたのはうれしいかな。訓練していたのは剣だから、どっちかというと今まで小剣、投擲があるほうが、不思議だったんだ。

 「縮地」も便利そうだけど、あれを使ったら、かなり目立ちそう。人目のあるところでは、封印だろうか。それにしても、砂地の上をザザッと滑る練習? をしたことはあったけど、あの黒歴史になりそうな動作にも、意味があったのかねえ。

 「雷魔法」? これは、団長が使っているのを見たことがあるだけだと思う。見るだけでも、修行にはなるのかな。百聞は一見にしかず、って言うし。「打撃耐性」は……これだけ殺されていれば、こういう耐性も付いてくるか。

 スキルの内容はともかくとして、ぼくはこれで、あることに確信を持てた。それは、もしかしたらこうなんじゃないかと、ずっと思っていたことだった。


 この世界、「ドラゴン○ール」のシステムがある!


 あのマンガには、登場人物がいったん瀕死の状態になってから回復すると、戦闘力がぐんとアップする、という設定があった。これは孫○空だけでなく、ベ○ータもそうなっていたから、主人公のだけ特性ではなくて、あの世界での決まり事だろう。あ、サ○ヤ人だけだったかな。

 あとは、月に導かれた話にも、似たようなのがあったな。あれは死ぬわけじゃなくて、無心で弓を引いていると存在が無に近くなって、そこから元に戻る時に魔力が増える、だったけど、周りの人は主人公が死んだと思っていたから、設定としては似ているよね。

 そして、このぼくだ。二回生き返ったら、二回ともその直後に、パラメータが大幅にアップしていた。体力なんて、最初は 10 くらいだったのが、ビクトルに殺されてから生き返ったら倍になり、今回はさらにその四倍近くになっているんだ。たぶん、間違いないだろう。


 そしてこのシステム、ぼくとはとても相性がいい。なにしろぼくは、『蘇生術師』なんだから。ドラゴン○ールでは、瀕死になったら特別なアイテムを使って体力を回復しなければならなかったけど、ぼくにはその必要がない。あっちでは、アイテムはあっても使うタイミングを間違えたり、使うのをためらわれてしまう危険もあったけど、ぼくにはその心配もないんだ。

 「一度死ななければならない」というのが、一番のネックだけどね。


 まあ、体力が八十もあれば、とりあえずは十分だろう。騎士のジルベールだって、体力は三十くらいだった。スタミナも筋力も、彼より勝っている。これなら、その辺の騎士や冒険者には、負けることはなさそうだ。ビクトルにはかなわないけど、あの人はこの世界でも特別だったみたいだから。


 さてと。これから、どうしようか。冒険者、っていうのをやってみるのもいいかな。もう登録はしてあるし、自由業って感じで、力さえあれば気楽そうだし。この世界のことを良く知るまでは、まずは冒険者で金稼ぎ、かな。

 でも、イカルデアにいたままだと、騎士団の連中と顔を合わせることもあるかもしれない。そうなったらたぶん、面倒な騒ぎになるんだろうなあ。まずはここを出て、適当な町に行った方がいいかもな。

 王城だけでなく、王都からも追放されるようなものだけど、それでもかまわないや。とにかく、ぼくは自由になったんだ。

 冒険者になって、自由にこの世界を見て回ろう。


 そんなことを考えながら、ぼくはのんびりとした足取りで、王都の街並みを歩いていった。



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 これにて、第1章は終了です。主人公の状況が、タイトルの「追放された」にようやく追いつきました。

 次回からは第2章となり、主人公が冒険者としての活動を始めます。とはいっても、一直線に大活躍! とは、なかなか行かないと思いますが……この先もケンジ(ユージ)の冒険を見守っていただけたら幸いです。


 それから、もしもこの話が気に入っていただけましたら、レビューやフォローをいただけたらうれしいです。作者にとっては、はげみになりますので、よろしくお願いします。



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