第31話 次の依頼も、やっぱりゴブリン

 しばらくすると、さっきまで訓練場一杯につめかけていた観客は、きれいに姿を消していた。


 ビクトルが去った後、ほどなくして一ノ宮も訓練を切り上げたためだ。残っているのは、ぼくたちを含めた数人の冒険者と、ギルド職員だけ。ジルベールとの約束があるので、ぼくたちはこのまま帰るわけにはいかない。練習用の木刀を借りて、素振りや軽い打ち込み稽古をしていると、やがてジルベールが入ってきた。



「次の依頼が決まった」


 開口一番、ジルベールがこう言った。

 次の依頼って、何だろう。ゴブリンはもういいかな。これまで、十匹以上倒したから。ゲームや小説なら、ウルフとかベアとか角の生えたウサギとか、そんなところになるんだろうか。コボルトとかゴブリンの上位種、ってのもあるな。

 盗賊狩りは勘弁して欲しいかも。人間相手だと、まだちょっと、心の準備が……。

 だけど、ジルベールの次の言葉は、ある意味、意外なものだった。


「おまえたちには、再びシュタールの村に向かい、ゴブリンの駆除をしてもらう」


 対ゴブリン戦の合格点は、まだもらえていなかったのか……。とも思ったけど、そういうわけではないらしい。

 なんでも、この前のゴブリン退治の後も、シュタール近辺ではゴブリンの目撃情報が相次いでいるんだそうだ。これはちょっとした異常事態なので、念のため、しばらくはシュタールでゴブリン狩りをしていくことになったんだとか。

 異常事態なら、騎士団か本職の冒険者に出てもらったほうがいいんじゃない? とも思ったけど、


「相手がゴブリンなら、騎士団で対応するほどのものではない。冒険者に頼もうにも、あの小さな村では、たいした金は出せないだろう」


とのことだった。なるほど、これは訓練兼社会福祉事業みたいなものなのか。

 ということで、ぼくたちは先週も行ったシュタール村へ、再び出かけることになった。


 アイロラからは馬車で二日程度と、距離的にはそんなに離れていないけど、それでも十分に田舎だ。人口はたぶん百人くらい。そんな場所だから、村を守る囲いも壁ではなく柵で、それも高さ一メートルほどの、古い木製のものだ。たかがゴブリンであっても、警戒するのはわかる気がする。

 以前にも書いたけど、ここにはホテルや旅館のような宿泊施設はない。ただ、前回は一泊だったから訓練も兼ねてのテント泊だったけど、今回はどのくらいの日数になるのか、予測がつかない。そこで、ジルベールは村長宅に、ぼくたちはそこの離れで寝泊まりすることになった。

 食事も出してくれるそうで、これは助かった。ずっとあのまずい携行食糧では、気が滅入るからね。


 ◇


「今日も楽勝だったな!」

「わたくしの土魔法、少し発動が早くなってきたように感じますな。一日に使える回数は、まだ増えてくれませんが」

「オレとしては、たまには素手で戦ってみたいな。剣もいいけど、やっぱ、格闘家の血が騒ぐって言うか。殴り合いもしてみたいだろ?」


 ぼくらはこんなことを話しながら、村への帰り道を歩いていた。

 ゴブリン相手の戦いにも慣れてきたのか、みな好き勝手なことをしゃべっている。はたで見ていたら、油断しまくりなんだろうけど、教官役のジルベールも、特に文句を言ってこない。実際、楽勝だったことは間違いないのだ。

 待ち伏せから不意打ちを仕掛けるだけでなく、今日の二戦目のように、ゴブリンとばったり遭遇するような戦いもしているんだけど、それでも無難に退治することができていた。こっちに来てから五日くらい経っているけど、このところは一日に二~三回はゴブリンと遭遇している。

 それで全勝、傷なしなんだから、少しは油断してしまうのもしかたがない。


 ゴブリン以外の魔物も、いることはいる。例えば、異様に大きなネズミに似た動物、これはジャイアントラットと言うそうなんだけど、これとは二回ほど戦っている。

 ネズミと言っても、鋭い爪と大きな牙があり、大きいものは1メートル近くにもなるので、立派な魔物だ。性格も獰猛で、逃げることなく立ち向かってくるので、どうしても戦闘になってしまう。危なげなく勝つことは出来たけど。

 肉は食用になるとのことで、その場で血抜きと解体の練習をさせられた。黒木は、これにもぶつぶつと文句を言っていたな。魔物とは言っても、何か悪いものに肉が汚染されている、なんてことはなくて、むしろ魔石が大きい方が、美味しい傾向があるんだそうだ。ラットの魔石はそれほど大きくはないけど、そこそこ食べられる味なんだとか。

 ちなみに、最近は探知スキルを使うのは控えている。というか、探知はオンにしているけど、群れに気づいた時にも、報告しないようにしている。だから、ニアミスだけですんで戦いにならなかったことも何度かあり、それも含めると、ゴブリンの出現回数はもっと多くなる。

 普通はどのくらいの頻度になのかがわからないけど、確かに、ちょっと多すぎじゃないかとは思う。村からそんなに離れていない森に、魔物がこれだけうようよしていたら、あんな木の柵では安心して暮らせそうもない。


 まだゴブリンがいるとなると、この先何匹殺すことになるんだろうなあ……。と考えたところで、ふと思いついた。

 久しぶりに、鑑定してみよう。かなりの数のゴブリンを倒しているから、新しいスキルを覚えていたり、何かの数値が上がっているかもしれない。ついでに、他の人の能力も、鑑定で覗いてみることにした。

 まず、ぼくのステータスはこうなっていた。なお、カッコの中は「偽装」スキルで隠している、本当のスキルやステータスだ。


【種族】マレビト

【ジョブ】蘇生術師

【体力】10/10 (22/22)

【魔力】10/10 (22/22)

【スキル】蘇生 (隠密 偽装 鑑定 探知 毒耐性 魔法耐性 小剣 投擲 火魔法)

【スタミナ】 8(13)

【筋力】 9(11)

【精神力】7(9)

【敏捷性】3(5)

【直感】1(4)

【器用さ】4(7)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る