第3話 心の時計が止まった時

「で、だ。先程は私の無様な姿を見せてしまってすまなかった」

「いえいえ。佐藤先輩がいつもそんな感じなのは知っていますから」

「それは何だか腹の立つ言い方だね。まあ良い。.....今回、君に用事だったのはね。あまり宜しくない事なんだがね」

「?.....どういうご用事ですか?」


小鳥遊という人間は知っているかね?、と紙コップに入った粉のインスタント煎茶をお湯で割りつつ飲みながら聞いてくる佐藤先輩。

知っているも何も。

小鳥遊は私の大切な人を汚した張本人。

私は、その人がどうかしたんですか?、と聞いてみる。

そして目の前の紙コップに入った湯気の上るインスタント煎茶を見る。


「うむ。.....その女子が何だか結構嗅ぎ回っているらしくてね。君の事などで」

「それはまた由々しき事態ですね」

「そうなのだよ。だから君に来てもらったんだけどね。.....君は何か知っているかな」

「.....」


何も知らないとは言えないな。

思いながら私は、佐藤先輩。.....例の件。それを解決したんです。それからですよ。こうなったのは、と切り出してみる。

すると佐藤先輩は、アホが騒いでいるだけって事だね、と納得した様に顎に手を添えながら困った顔をする。


「.....そうですね.....」

「まあ小鳥遊はそこそこのお金持ちらしいから。医者の家系の娘を溺愛している様な。だから何をしてくるかも分からんぞ。本当に碌でもない事をするかもしれないし」

「何をしてきても無駄です。私は小鳥遊を許さないですし。.....それに何をしてきてももう無駄でしょう」

「.....君は強い女性だが。それでももし何かあったら直ぐに相談するんだぞ。私もそうだが.....」


当然私にも、と話す環。

私はその姿を見ながらゆかりを見る。

ゆかりも笑みを浮かべながら私を見てきていた。

私はその姿を見ながら、はい、と佐藤先輩に返事をする。


「いつも有難うございます」

「私はこうする事しか出来ないしね。.....その彼にも宜しく伝えたまえ」

「そうですね。.....伝えておきます」

「.....ナーシャ。君の事が本当に心配だから。.....だから気をつけたまえ」

「.....」


私は実は親は居ない。

親は何をしているかといえば両親共に亡くなっている。

交通事故に遭って亡くなった。


そして私は妹と共に児童養護施設に入ったのだ。

それで今になっている。

だからみんな私を心から心配してくれるのだ。

みんな優しいから。


「ところで。.....君はその男の子が好きなのかね?」

「な!?」

「ここまで命を賭けて見知らぬ救うとはね。好いているとしか思えない」

「.....そうですよ。佐藤先輩。私は好きです。勇が」

「そうなのか」

「.....でも私は好きになったとしても。この願いは叶ってはいけません」

「何故かな」


私はそんな.....。

児童養護施設で育った私なんかが。

恋愛して良いわけがないですから、と否定をする。

すると左右から抱きしめられた。

ゆかりと環に、だ。


「そんな事ないよー」

「そうだね。恋愛は好き好きになったら良いのー」

「もー!!!!!ゆかりも環も苦しいんだけど!?」

「えへへー」

「うふふ」


そして最後に笑みを浮かべた佐藤先輩が話してくる。

1つ言うが児童養護施設だから何だって言うんだい?、という感じで。

本人の努力次第だよ。こういうのは、とも。

私は、!、と思いながら佐藤先輩を見る。


「.....君はまだこれからだ。.....私の中の時計は止まったけどね」

「.....佐藤先輩.....」

「八代を失った時から私は時計が止まったままだ。だけど君は動いている。恋愛とは自由で良いのだよ。ナーシャ」

「.....」


八代。

.....八代元章(やしろもとあき)さん。

佐藤先輩が一番大好きだった男の子。

幼馴染である。


だけど。

彼は強姦魔から佐藤先輩を守る為に目の前でナイフの犠牲になった。

それから佐藤先輩の時計は止まったのだ。


「.....佐藤先輩は恋愛はもうしないのですか?」

「恋愛とは儚い。.....そして恋愛とは難しい。ナーシャ。私は人の恋愛を見るのは好きだ。だけど私自身の恋愛はもうこりごりだね」

「いつかまた恋愛が出来ると良いですね。私は祈っています」

「そうだね。.....でも私は恋愛する気はないね。大切な人を失うのはたまったもんじゃない。それを知らない女性も何だかな、って思うけどね」


小鳥遊とかね、と言いながら私を苦笑して見てくる佐藤先輩。

私はその姿を見ながら目を逸らしつつ、ですね、と返事をする。

それから私はまた佐藤先輩を見る。


それはそうと!さて.....、と佐藤先輩は手を叩く。

そうしてからニコッとしながら、後10分ぐらいしか余裕がないが。部活動を始めるか。折角だから、と笑みを浮かべる。


「そうですね。折角ですしね」

「確かにです」

「じゃあ何をしましょうか」


そして私達は議論をする。

するとゆかりが、あ。そうだ。佐山副部長が来たら小説書いてみませんか?、とみんなに提案した。


私達は驚きながら、小説?、という感じになる。

小説を書いて物語を想像して.....みんなで読み合うんです。ナーシャも居ますし、とゆかりは提案する。

今はやっているみたいですしね、とも言いながらみんなを見る。

そうなのか、と思ってしまった。

それから私達は話し合いを始める。

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