午前二時 散歩

 陽が沈んだ後でする散歩が好きだ。住宅街から人の気配が消える。世界が自分一人になったみたいだなんてのはありきたりだが、本当にそういう感覚だ。否定も肯定もない。


「邪魔だ。どけ。」


 自動販売機に群がるムシを眺めていると遠くから低い声が聞こえてきた。暗い夜道なのでよく見えないが近づいてきたので自動販売機の灯に照らされて漸く姿が見えた。


「人間か。」


 声の主はそれはそれはオオきな犬だった。怯えて声が出ない私を上から睨みつける。私はただ道路の端に追いやられる。


 ただ見ることしかできない。その綺麗な瞳。綺麗な毛。綺麗な歩き姿。彼が通り過ぎた後は冷たい風が流れた。


「おい。」


 巨犬オオイヌは足を止め振り返り、私を呼んだ。


「は、はい。」


 捻り出した声は彼に届くか怪しいほど細い。


丑三つ時ウシミツドキに出歩くな。」

「え、」


 言葉を理解するより先に彼は暗闇に消えていった。


***


 目が覚めて机の上に広げられたままのノートに気がついた。ノート書かれたこの文章は明らかに自分の字だが、このような記憶は一切ない。


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1ページ小説 鷲山電気屋 @ookinakoe

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