僕のお母さんは暴走しやすい

@HALKAIRO

第1話

 僕は8歳。小学2年生だ。


 クセのあるヒロインの話を募集してるって聞いて、応募してみた。


 え? アラフォーのおばさんはヒロインじゃないって?


 そうなの?

 でもまあ、せっかくだから、聞いていってよ。


 僕のなんか憎めない、お母さんについて。




 実は僕は少し怖がりなんだ。


 それには理由がある。


 お母さんのせいだ。


 僕のお母さんは、よく僕を脅かそうとして、あの手この手で襲って来る。


 そうやって、驚いたり怖がったりする僕を見て、それはそれは楽しそうに笑うんだ。



 僕が何度か怖くなり過ぎて泣き出した時は


「ごめんね! ごめんね! お母さんがやり過ぎたわ!」


って謝ってくれるけど、でも僕は許してやんない。


 だって本当に怖かったんだもん。



 ついでに言うと、僕は笑い上戸でもある。

 ちょっとした事ですぐ笑ってしまう。


 これもお母さんのせい。


 睨めっこしても、してなくても、突然ご飯中に横から全力で笑かしに来るんだ。


 その度に僕は口に入ったお茶を飲み込めなくて、キッチンのシンクか洗面所に駆け込むことになる。


 本当にやめて欲しい。





 脅かすことの例えばなんだけど、節分。


 あれ本当に怖かった。


 節分の時はお母さんがいっつも鬼役なの。


 うちは、豆が部屋に散らからないように、小袋入りの豆とかピーナッツやアーモンドが入ったチョコレートを投げたりするんだ。



 昔はまだ良かったんだよ?

 お母さんが鬼のお面被って


「がおー! 鬼が来たぞー!」


ってやって来て、僕がそれに豆袋投げるの。


 普通でしょ?


 それが年を追うごとに徐々に鬼度が上がってきたんだ。




 今年の節分は、本当にヤバかった。


 その日の晩も恵方巻食べて、その流れで手巻き寿司パーティーして、それで、豆まきの時間になったんだ。


 まずは、お菓子の袋開けて豆の用意をする。


 で僕は豆袋を手に持って、鬼が来るのを待つ。



 そしたらお母さんが


「せっかくだから電気消すねー!」


って言って、リビングの電気を豆電球にした。


 え? 何で? 何でわざわざ暗くするの!?


 僕はリビングの暗さにドキドキする。


 そしてお母さんが、ソファの後ろに隠れてお面の準備をし始めた。


「じゃ、始めるよー!」


 お母さんの声で、僕は豆袋を握り締めた。

 もういつでも投げれる準備は万端だ。


 僕はソファの上のどこからお母さんが顔を出すのか、集中して見つめる。



 すると、鬼の顔がソファの横から覗いてきた。


 上だと思っていた僕に完全な不意打ちだ。


 しかも豆電球の光が鬼のお面に影を作っている。陰影がつき、よりリアルに感じる鬼の顔に僕は息が荒くなり、心臓がドクンドクンと音を立てだす。手には汗が滲み出る。


 怖い。


 それでも僕は恐怖に負けないよう、お母さんがどういう姿勢になっているかを瞬時に想像した。


 横ってことは、ハイハイの格好をしてるってことだ。

 だとすればそんなに速くは動けないはず。


 とりあえず僕はハイハイしてるお母さんに豆袋を一個投げつけた。


 すると鬼のお母さんは、ソファの陰に隠れて、豆を避けた。


 くそっ! 外した!


 僕は、鬼が出てくる機会を狙うために次の豆袋をいくつかまとめて握り締めた。






「ぉあーーーーーー!!!!!!」


 突如リビングに叫び声が響き渡った。


 そしてその叫び声とともにソファの横から異形のモノが飛び出してきた。


 それは顔が鬼、手脚は肘や膝が床に付いていない四つん這いで、蜘蛛のような動きで迫って来た。


「ギャーーーーー!!!」


 僕は叫び声をあげて、手に持っていた豆袋をソレに投げつけた。


 それと同時に必死に足を動かして逃げる。


 ソレは豆袋が当たっても、何の効果も無いらしく、その不気味な格好のまま、僕を追いかけてきた。


 完全なホラーだよ。



 だが、僕も馬鹿ではない。


 家の狭さを利用して、その格好では入れないダイニングテーブルの後ろ側に逃げ込んだんだ。


 僕の頭脳プレイの勝利だ!


 そう思った時、その異形のものは姿を変えた。


 突然、立ち上がったのだ。



 僕は突然のことに困惑しながらも思い至る。


 いくら異形のものであっても、相手は『鬼』なのだ。二足歩行くらいするだろう。



 二足歩行を始めた鬼はこう口にした。


「悪い子は……おめーかー!!!」


 二足歩行になった途端、知能が上がったのか、人の言葉を喋り始めた。


 そして、とうとう走り出した。


 僕は逃げた。

 叫んだ。

 怖かった。



 僕は半泣きだった。


 いや、うそ。

 泣いた。

 泣きながらキレた。


 

 結局、僕が泣いてキレたせいで、その恐怖の鬼ごっこは閉幕した。


 あまりに怖くし過ぎたからってことで、その後は普通の豆まきになった。


 でも、それでも結局、鬼が新たに手に入れた棍棒で


「儂にそんな物は効かーん!」


って言いながら、投げた豆の袋をドンドン打ち返してきた。


 プロ野球選手もビックリな打率だった。


 もちろん僕も本気だ。


 鬼の体にも豆袋たちは当たる。


 でも、鬼が打ち返した豆袋たちが、僕にも当たる。


 もうどっちが鬼かがわからなくなった。


 節分の豆まきとは一体……。


 ついでの話だけど、そんな強い力で投げて、棍棒型のビニールバットで打ち返したりしたら、袋、破けるよね?


 豆まきが終わった僕たちは部屋に散乱した豆を拾い集めるハメになった。


 何のために袋入りの豆を買ったのだろうか?


 そしてなぜ、妹を追いかけずに、僕を追いかけ回したのか……。

 




 他にも僕を驚かせるのは、突然ワッって出て来るやつ。


 まずは簡単なやつから。


 僕が幸せ気分で家の中を歩いていると、突然背中に気配を感じる。

 その気配に何事かと振り返ると、背中にピッタリとくっ付くようにお母さんが立ってるんだ。


 ビックリでしょ?


 そんなのはまだ良い。



 本当に心臓に悪いのはこれ。

 僕の家の階段の上り口には、カーテンみたいな暖簾が付いてるんだけど、その裏側の階段側に立ったら、一階に居る人は階段側が見えない造りになっているんだ。


 で、お母さんはよくそこに潜んでて、僕が通る時に


「ワッ!」


ってするの。しかも何の前振れもなく。


 しかもそこトイレの横なのね。


 トイレでスッキリした後、気持ち良くトイレから出るでしょ?


 そこを狙ってくるの!


 信じられないよ。



 そんな事もあって、ドア閉めるの恐いから、僕はドアを開けてトイレするようになった。


 階段のカーテンの裏も確認したし、ドアも開けた。お母さんはリビングにいる。


 チャンスだ。


 僕はトイレに座って至福の時間を堪能していた。


 そしたら、そこにお母さんがやってきた。


「もうー! またドア開けてるのー?」


って、言ってきた。


 一体誰のせいで、こうなったと思っているんだ。



 まぁその辺り、お母さんは寛容だから、無理にドアを閉めたりはしない。そこはグッジョブだ、お母さん。


 ただ、その日は違った。


 お母さんが、トイレの前を通り過ぎたと思ったら、そこでピタッと止まったの。


 どうしたんだろう?


 急にお母さんが立ち止まるから、凄く気になる。


 しかも明らかにドアの前に立っている。



 僕は気になってドアの向こうを覗くかのように、半開きになったドア周りを目で追った。


 そしたら


 見えてしまった。



 ドアの蝶番側の隙間から僕をジッと見つめる目が。



 一回やってみて。


 トイレに座った状態で、ドア半分開けて、蝶番側の隙間から覗かれてみて。


 目がギョロっと見えて、その目がジーッと見つめてくるの。


 本当に怖いから。





 後はねー、そうそう!


 夜寝る時、皆もやられたことあると思う。


 早く寝ないから怖い動画見させられるやつ。

『寝ない子だれだ』的な動画。


 誰だって夜そこまで眠くないことあるよね?


 僕もそれで、遅くまで起きてはしゃいじゃうことがよくあるんだ。


 その日も僕はそれで、なかなか寝ようとしなかった。


「ねえ? もう寝る時間めっちゃ過ぎてるんやけど? 早く寝ようよー!」


「分かってるー」


「それさっきも言うたやん」


 お母さんはため息を一つ吐くと、部屋の電気を消した。


 ちなみにうちは、僕が真っ暗が怖過ぎて無理なので、豆電球で寝る派だ。



 お母さんは再び布団に入ると、携帯をいじり始めた。


 ずるい。大人はいつでも携帯触れてずるい。


 そう思って、僕はお母さんを見ていた。



 すると、普段マナーモードで音を出さないお母さんの携帯から、何やら不穏な音が流れ出した。


 ギシッ……、ギシッ……


と、床を踏み鳴らす音が響く。


 ヤバい! あの動画だ!!


 僕はあの動画だけはダメなんだ。


 音を聴きたくなくて、僕はお布団の中に潜り込んだ。


 完全に頭も体もお布団の中に入れて耳を押さえて縮こまる。


 お布団に潜り込む直前、見えたお母さんの顔はニヤリと笑っていた。


「ごめんなさい! ごめんなさい! 寝ます! すぐに寝ます! だから、その動画はやめてー!」


 僕の声に、お母さんが動画を止めてくれた。


 ふぅー! これで一安心だ。

 

 そう思った時、お母さんがこんな事を言った。


「今、動画流しちゃったから、あっちとこっちがネットで繋がっちゃったね? お家の場所、お化けさんにバレちゃったね」



 どうしよう!! お化けさんがうちに来てしまう!


 僕は、お布団の中に潜ったまま、プルプルと震えていた。


 そしたら


 トントン


 とお布団の上から、僕の体を誰かが軽く叩いた。


 怖い。


 僕は無視する。


 また


 トントン


 と叩かれた。


 怖い。怖い。怖い。


 これはお母さんだ。きっとお母さんがやってるんだ。


 そう自信がある。けど、もし本当にお化けさんだったらどうしよう。


 僕は震えることしかできなかった。


 すると


「もう大丈夫。大丈夫だから出ておいで。お化けさんが来ても帰ってもらうように話するから」


 とお母さんの声が聞こえた。


 良かった! やっぱりお母さんだ!


 僕はホッとして、お布団から顔を出した。





「ギャーー!!!」


 目の前に鬼の顔があった。

 お母さんが鬼のお面をつけて、僕を見ていた。




 他にも、隠れてたお布団の隙間から鬼の顔が覗いてきた時もあった。


 わかる? うちは豆電球で寝る家なの!

 鬼のお面の顔、結構しっかり見えるよね!?


 無理!


 無理だよ! 怖すぎる!



 お母さんは


「はい、はい。じゃあ良い子は早く寝ようねぇ」


って言いながら、怯える僕をニヤニヤして見ていた。



 さらに別の時の話。


 僕が遅くまでリビングで夜遊んでいた時


「もうー! いつまで遊んでるの! 早く寝なさい!」


「これだけー! これだけ見たら寝るー」


「さっきもそれ言ったよね!? お母さん、先に寝てるからね!」


と、お母さんが軽く怒って、先に寝に行ってしまった。


 僕もさすがに寝なきゃなって思って、その後すぐに、いつも寝てるリビングの隣の和室に向かったんだ。


 そしたらさ、豆電球で薄暗くなった和室の奥に何かいるの。


 薄暗いから良く見えない。


 いや、見えた。


 鬼のお面をつけた、お母さんだった。


 正座したまま、こっちをジッと見てた。



 ちびるかと思ったよ。


「わーー!!!!」


 僕は慌ててリビングに逃げ込んだ。


「ビックリした!? ビックリした!?」


 嬉しそうにお面を外したお母さんが追いかけてきた。



 鬼のお面活躍し過ぎだよね!?


 しかも、鬼のお面の種類増えてるんだよ?


 今は赤鬼2種類、青鬼、お多福、それとサーカスで買ったマスク…えっと確かヴェネチアンマスクって言うらしい、鼻から上を覆うマスクがある。


 そういやこないだ


「般若の面を買おうかな」


って言ってた。


 そんなお面たちが壁に並んでる所、暗がりの中で絶対見たくない。


 でも、このこと言っちゃったら絶対お母さんが喜んで飾るようになるから、僕は絶対に言わない。



 この怖いやつって、別に夜だからとか、暗いから怖いだけじゃないんだよ?


 昼間でもお母さんは攻めてくる。



「やーっ!」


 その日は、僕は戦いごっこがしたくて、お母さんに攻撃したの。


 そしたらお母さんが変な動きをし出した。


 言葉では上手く伝えられないんだけど、目を大きくギョロリと見開いて、歯を剥き出しにしてニカッと笑った顔で、手や足をカサカサカサって動かしながら、追っかけてきたんだ。


 しかもその日はテンションが高かったらしく


「お母さんだよー! おいでー!」


とか


「ウキョキョキョキョキョ!」


 って言いながら。


 怖いし気持ち悪いし、僕は本気で逃げた。


 でも、運悪くお母さんに捕まってしまって、コチョコチョ地獄になった。


 恐怖でしかない。



 お母さんの、目がギョロリの歯剥き出しの笑顔、本当に怖いんだよ。


 夜寝る時に、豆電球の下でされたら、怖過ぎて夢に出てきちゃうんだ。


 それで何度、夜のトイレに1人で行けなかったことか。




 こんな風に僕は日々お母さんに驚かされまくっている。


 その度に驚いたり怖がっている僕を見て、楽しそうに、嬉しそうに笑うんだ。



 こっちは心臓がいくつあっても足りない。


 僕はきっともう何十回も死んでるんだと思う。




 で、えっと……、あ! そうそう!

 お母さんが笑かしてくる話!


 僕はお母さんとする睨めっこが大好きなんだ。


 なぜかお母さんの顔見てたら笑ってしまう。


 お母さんは


「人の顔見て笑うなんて失礼やな!」


って言うけど、無理だよ。本当無理。しかもお母さんもそう言いながら笑ってる。


「お母さーん! 睨めっこしよー!」

「えー。いや」

「やるのー! にーらめっこ しましょ! 笑うと負けよ あっぷっぷ!」


 無理矢理睨めっこを開始してやった。


 そしたら、ほら、お母さんは仕方なしに付き合ってくれる。


 お母さんが顔の筋肉という筋肉を総動員して、変な顔してきた。


 僕は気合で耐える。


 けど


「ぶはっ!」


 笑ってしまった。


「もっかいやろ! もっかい!」


「えー? またぁ?」


「うん!」


 またお母さんは付き合ってくれる。


 ふふん。お母さんはこういう所は実は優しいのだ。


 その後、数回した後


「次行くよ!」


「いや、もうネタないよ!」


「いいの! やるの!」


 とうとう変顔ネタが切れたお母さんは、睨めっこ勝負してる最中の僕の顔真似してきた。


 そのお母さんの顔見たら、僕は今こんな顔してるんだ。って想像しちゃって、笑うの我慢出来なくなってしまった。


 で、不思議なのが一つ。さっき言ってたギョロ目の歯剥き出しのニカッとした顔。

 あの顔さ、普段いきなりされたらめちゃくちゃ怖いだけなのに、なぜか睨めっこの時にされると、めちゃくちゃ面白くなるの。怖いし面白いの。


 なんで?



 そんな色々な面白い顔してくるお母さんだけど、実は一番面白いのは『真顔』。


 凄いんだよ。真顔の威力。


 睨めっこしましょ! あっぷっぷ!


 って、お母さんの顔見た瞬間、お母さんがスンッて真顔になるの。


 その不意打ち、ある意味卑怯だよね?


 それで笑わないとか無理なんだよ。


 で、その真顔、恐ろしいんだよ。


 それはご飯中のこと。


 うちの家は、お父さんが単身赴任だから、普段はお母さんと妹と僕の3人でご飯を食べている。


 座る位置はお母さんを挟んで右側が僕、左側が妹だ。


 僕が機嫌良くご飯食べていると、突如、左から視線を感じた。


 お母さんだ。

 お母さんが真顔でこちらを見ている。


 何なんだろうと、僕は食事を続ける。


 そしてお茶飲もうかなぁ? って、コップを口につけ、お茶を口に入れた瞬間、



 顔の左側に強い視線を感じた。


 視線だけで無い。


 髪に、肌に、何かがピッタリと寄り添う気配を感じるのだ。


「ぶふふー!!」


 妹が笑いを堪えきれられなかったのか、突然噴き出した。


 絶対アレだ。



 僕は目だけで左を見る。


 お母さんの顔があった。


 ほぼゼロ距離だ。


 しかもあの真顔だ。


 僕はお茶を飲み込みたいが、笑いそうになってしまい、舌と喉が痙攣してお茶を喉に送れない。


 むしろ唇が震えて、口に隙間ができて、お茶を溢しそうだ。


 僕はお母さんの顔を見ないように、コップごと顔を右に逸らした。


 するとお母さんの顔が追っきた。



 アウトだ。



 僕の抵抗も虚しく、僕は洗面所に駆け込んだ。


 でも、僕だってやられてばかりじゃない。それになんとか耐える時もあるのだ。


 そんな時、お母さんはさらに次の手を使ってくる。


 そう変顔だ。


 真顔から、いきなり変顔してくる。


 しかも、場合によっては謎の声付きである。



 間近での、真顔→変顔+変な声


 のコンボだ。


 無理だ。


 結局僕は我慢出来ずに、噴き出すことになるのだ。


 本当にやめて欲しい。


 でも実は、お母さんは僕が笑うことを見越して、お茶飲む時に狙ってくることが多い。


 ご飯類は勿体ないからやらないらしい。


 それなら笑かしてこなくていいよね?




 でも、そんな苦行に耐え抜いた僕に一個だけ良かった事がある。


 学校での睨めっこで、めっちゃ強くなったことだ。


 これをきっと英才教育と呼ぶのだろう。



 そういえばだが、僕が赤ちゃんの時の話だ。


 キッチンのタイプが壁付きキッチンという物だったため、料理中は常にお母さんの背中を眺めることになっていた。


 そんな料理中の日課は、僕がハイローチェアに座って、お母さんの料理姿を眺めること。


 で、お母さんは僕が泣かないように、料理しながら、何度も僕に振り返っていたらしいんだ。


 そしたら、ただ振り返るだけなのもつまらないって思ったらしくって、尻字を書きながら振り返ったらしい。


 そしたら僕がゲラゲラ笑い出したらしくって、料理の間、体力切れるまでずっとそうしてたらしい。

 他にも、ドラクエのタップデビルってモンスターわかる? 両腕の肘を曲げた状態で万歳して、足はガニ股で左右交互に跳ねるように膝を上げるダンスをするモンスターだ。で、そのモンスターはその動きをした後に、その腕のままクルリと振り返る。


 それをお母さんは僕にやったらしい。

 赤ちゃんの僕はゲラゲラと笑っていたそうだ。


 しかも笑い過ぎて、引き笑いしてたらしい。


 その時の僕の気持ち、良くわかるよ。


 僕は今でも、お母さんのそんな謎の動きで笑い出したら、笑いが止まらなくなって、お腹が痛くなって、息ができなくなって、心臓が痛くなるの。


 笑い過ぎって本当に危険だよ。

 命に関わる。


 それでもお母さんはさらに笑かそうと襲ってくるから本当ヤバい。



 そんなお母さんは、ちょっとしたイベントにも全力投球だ。


 僕はランニングスクールという習い事に通っている。

 その習い事では『親子DAY』というものがあり、保護者も一緒に参加して、子供と一緒に体を動かそう! というイベントがある。


 僕はその日、お母さんに勝負を挑んだんだ。

 50m走、負けたくないからね。


 そこでお母さんの負けず嫌いが発揮されたらしい。


 僕たちは50m走2本勝負したんだけど、僕はお母さんに負けてしまった。


 普段、数m上り坂を歩いたら


「疲れたよー! 速いよー! 待ってー!」


というお母さんが、本気で走ったんだ。


 分かるよね?

 翌日以降どうなるか。


 お母さんはその日から膝が笑い始めたらしくって、そのまま筋肉痛で5日ほど苦しんでた。


「歳だ……」


って言ってた。



 つい最近なら、プール!

 そう、初めてお母さんとプールに行ったんだ!


 実はお母さんは泳げないらしい。


 小学生から高校生までの間、プールの授業はいつも一番泳げないチームにいたんだって。


 そんなお母さんは大の水場嫌い。


 プールの駐車場に着いて、はしゃぐ僕たちの横で、お母さんがめっちゃ暗い声で呟き出した。


「はぁ……やだ。本当やりたくない。プールやだ」


「お母さん! せっかく楽しみにしてる人の横で、そんなこと言っちゃダメだよ!」


「そうなんだけど……。プールだよ? プールやだよぉ!!」


 子供か!

 そんなお母さんを引っ張って僕はプールに向かった。


 きっと大丈夫。

 だって遊びのプールは学校のプールとは違うから。


 で、結局お母さんも心機一転、プールに入ってくれたんだ。


 僕はお父さんと、妹はお母さんとプールを楽しんでたの。


 で、途中から交代。


 そしたら凄かった。


 僕を浮き輪ごとプールに沈めようとしてくる。


 もちろん、安全には目をギンギンに光らせて注意してね。


 僕の顔に水かけたり、一緒に浮き輪に乗っかったり。


 波のプールでは波と一緒に流されながら、大はしゃぎ。



 プール嫌い、どこ行った?


 でも、そんな全力で遊んだお母さんは、プールの帰りから、背中が痛いと言い出した。


 きっと普段使わない筋肉を使ったんだろう。


 もちろん、翌日以降も筋肉痛だった。



 でも、そうやって全力で一緒になって、動いてくれるから、僕はとても楽しい。


 結構良いお母さんでしょ?




 そんなお母さんは実は身体が弱いらしい。


 体力も無くて、すぐに疲れちゃうらしいんだ。


 昔、働いていた時に病気になって、体を壊しちゃったんだって。


 だからなのか、お母さんはお布団が大好き。


 何かあっても、何もなくても、すぐにお布団に潜り込もうとするんだ。


 それで、夜に一度でもお布団に入ると、何が何でも出たくないらしい。


 いつも、お母さんがお布団に入った後で、用事があって呼びかけると


「お母さん、もうお布団入ったから無理だよー!」


って言ってくる。


 それでも、声をかけてると


「無理ー! もうお布団入っちゃったもん! やだー! 出たくなーい!」


って言って、テコでも出ようとしない。


 子供みたいでしょ?



 でも、それでもどうしても出なくちゃいけない時ってあるよね。


 そんな時のお母さんは、この世の終わりのような顔してお布団から出てくる。


 本当にお布団が大好きらしい。


 逆にお布団に入れた瞬間は、本当に幸せそうな顔して


「はぁーー!」


 って目を閉じてお布団の感触を感じている。


 良くあるお風呂入った時みたいなやつ。

 あれをお布団でしてるんだ。




 後ね、お母さんは、僕のマッサージが好きらしい。


 お母さんが言うには、僕のマッサージは最高らしい。


 お小遣いは月200円なんだけど、マッサージした時は特別給が出る。

 前に全身マッサージをした時は500円くれた。


 ちなみに家のそばのスーパーまで、突然のお遣いを頼まれた時は、10円〜100円が、その時のお母さんの気分でランダムで、お手伝いのお礼として貰える。


 結構、ちょっとしたことでお小遣いくれる所は大好きだ。




 そういえばだけど、お母さんは凄く忘れっぽいの。

 いつも僕に


「ごめーん! お母さん携帯どこやったっけ?」


って聞いてくる。


で、見つかった後に


「ちゃんと置く場所決めなきゃね」


って言うの。


 最近は置く場所を決めたらしいんだけど、慌ててウッカリで違う場所にパッと置いてしまって、それでどこ置いたか忘れることが多いらしい。


 で、結局


「お母さんの携帯知らーん?」


って聞いてくるの。


 置き場所を決めるとは一体……。



 ま、そんなお母さんの置いた場所がわからなくて困るやつナンバー1は、眼鏡。


 これまた置き場所決めてるくせに、うっかりで何処かに置いちゃって分からなくなるらしい。しかも捜す対象が眼鏡だから、裸眼でボヤけた目では全然分からないらしい。


 確か視力が0.05無いくらい、って言ってたかな?

 なんか眼鏡を外すとボヤけまくるらしいよ。

 前に壁にいた虫の話してるのに、全然分かってなくって、眼鏡かけた途端、ホンマや。ってなってた。



 ちなみに、お母さんは物忘れも結構激しい。


 一番多いのは買い物忘れ。

 買い物から帰ってきてから


「あー! 〇〇買ってくるの忘れてたー!」

 

ってよくなってる。


 それならメモ書いていけば良いじゃないって思うでしょ?


 お母さんが言うにはね、メモを書いて行っても、メモしたこと自体を忘れることが多いからあんまり意味が無いらしいよ。


 大丈夫かな?


 でも、本当に忘れて困るやつは携帯にメモしてるみたい。

 たまにそれ見て買い物してる。


 うん、うん。僕も一安心だ。


 いつかは、僕も独り立ちして家を出る。


 それなのにお母さんがこんなウッカリ屋さんだと、心配で気が気じゃ無いからね。




 せっかくだから、お母さんの良い所!

……って思ったら、急に出てこないな。


 うーん……。


 そうだ!

 お母さんはゲームに寛容。


 お父さんはね、厳しいの。特に課金。


「課金なんて百害あって一利なしや。あんなんして人生潰してるやつなんかいくらでもおる。課金なんかするな!」


 って、お酒に酔って、僕に言ってきた。しかも何度か。


『百害あって一利なし』って、どういう意味なんだろうね? お父さんの言ってること、いまいち良くわかんないんだよね。


 それで、お母さんはどうかと言うと


「課金? 自分の使えるお金の中で計画的に考えて出来るなら良いんちゃう? まあ、お金の計算出来ないうちは早いと思うけど」


って言ってた。


 それでも、僕がどうしても、課金したい! ってなった時、こっそりお父さんに内緒で課金してくれた。


 って言っても、500円までだけどね。そして、このアプリをすぐに消さずに長い期間ちゃんと遊ぶこと、っていう約束付きで。


 そういう所は本当に好き。



 前にお母さんに


「お母さんのどういう所が好き?」


って聞かれたら、この課金のことを言ったら


「結局金か!」


って言われたけど、別にそれだけじゃないよ?


 まず、一緒にゲームしてくれる。

 しかも時間制限無しだ。

 普段頑張ってるから、お休みの日くらいは時間気にせずゲームして良いって言ってくれる。


 宿題も見てくれる。

 宿題で分からない所、間違えた所を丁寧に教えてくれる。

 お母さんが教えてくれたら、なるほどー! ってなるんだよ。


 僕が落ち込んだ時とかも、僕をギュッとしながら話を聞いてくれる。

 学校であった話を聞いてくれて


「それは嫌やったなー!」


って、僕の気持ちを理解してくれる。


 ついでに、悲しい気持ちを笑いに変えたり、気持ちを強く持てるようアドバイスくれたりもするんだよ。



 最後に……。


 めっちゃ大事なの思い出した。


 僕ね、虫が苦手なの。


 もう見た目からして無理だよね?

 ウゾウゾ動くんだよ!?


 それなのにね、お母さんが、追っかけてくるの。

 蝉持って。


 蝉っていつも高い所にいるけど、たまに手の届く所にいるやついない?


 それをお母さんが見つけると大変な事になる。





 バシッ!!


 突如、お母さんが木の幹に手を叩きつけた。

 その手の中から


 ジョワワワワワワワワワ!!!


 けたたましく蝉の鳴き声が響き渡る。


 お母さんはそっと木の幹から手を離す。


 そこには茶色い羽のアイツが。


 そう、アブラゼミだ。


 ジョワワワワワワワワワ!!!

 ジジジジジジジジ!!


 アブラゼミも必死だ。


 捕まったんだから、逃げたいに決まっている。

 しかし蝉はお母さんの親指と人差し指にガッツリ捕まれていて、羽をバタつかせることしかできない。


 お母さんが僕に振り返った。


 一歩……、また一歩……、と近付いてくる。


 そして


「捕まえたよー!!!」


 嬉しそうに僕の顔の前に蝉を持ってきた。


「ぎゃー!」


 僕は逃げた。


「え? 待ってよー! 前に蝉見たいって言ってたやん!」


 お母さんが蝉と一緒に、いや、蝉を前に突き出して僕を追いかける。


 違う! 僕が言ったのは、飼育ケースとかに入った蝉を安全圏からそっと観察してみたいって言っただけだ。


 いきなり目の前に蝉の裏側とか持ってこられたら恐怖でしかない。


「僕が虫苦手なの知ってるでしょー!」


 僕はお母さんに叫んだ。


「あ。まだダメだったんだ。せっかく捕まえた所見てもらおうと思ったのに……」


 見たよ。見ました。猫かよ! って俊敏さで蝉を素手で捕まえた所、しっかり見ました!


「じゃあ、もう蝉離すね」


 そう言うとお母さんは、渋々蝉を近くの街路樹にくっつけてあげてた。

 そして、底抜けに明るい笑顔でこう言った。


「また来年だね!」


 恐ろしい。また来年があるらしい。





 まとめ!


 お母さんは、基本遊びやイベントに全力。

 きっと、普段お父さんが単身赴任でいない分、お父さんの分も頑張ってくれてるのかもしれない。


 僕たちのこと、驚かしたり、怖がらせたり笑かせたりするのが大好き。あと虫も平気。

 怖がったり、笑いを堪えて噴き出すのを我慢する僕たちを見て喜ぶドSだけど、そうやってはしゃぐ姿は子供っぽい。


 身体は弱くて、体力無いからダラダラしがちだけど、ゲームや宿題には付き合ってくれる。


 あと、ウッカリ屋さん!

 たまに? いや良く? 抜けている所がある。


 そんなお母さんのこと、僕は結構可愛いんじゃないかな? って思うんだけど、皆さんはどうですか?

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