第15話
ーーーこんこんこん、
「
玄関から聞こえる大きな男性の声に首を傾げたわたしは、玄関の前で立ち止まり声を上げます。
とっても良い子なわたしは、旦那さまのお言い付け通り、『知らない人が来たら扉を開けない』ができる子なのです。
「はい。どんなご用事ですか?」
「わたくしは
(旦那さまからの贈り物………?)
気になるし開けたいです。ですが、旦那さまは扉を開けちゃいけない。自分がいない時間は絶対にお外に出てはいけないと言っしゃっていました。
「と、扉の前に置いておいてください」
「え!?あの!大佐は中に入れてもらうようにって!!」
旦那さまが?
わたしは首を傾げてわずかに悩んだあと、扉に1歩近づきました。
(お、お名前を知れば皆さま知り合いですし、扉を開けても怒られることなんて………、)
朝比奈拓人さまは顔も性格も知りませんが、お名前は知っている。つまりお知り合いと換算したわたしは、そうっと鍵を横に回し、扉を開きました。
「あ!ありがとうございます!!宗さま!!」
扉を開けた瞬間に漂ってきた香りにわずかにたじろぎながら、わたしはお家の中に朝比奈拓人さまを導きました。
案内する先はもちろん応接室。
ちょっと前に旦那さまに習い、わたしがお掃除をしたばかりです。応接室には大きな窓があり、開放感が満載です。朝比奈拓人さまを案内した瞬間、彼はお部屋に映る陽光と暖かな家具に歓声を上げていました。
応接室の中央には大きな焦茶色の丸机があります。机の上には可愛らしい真っ白なレースと白磁が美しい鶴首の花入れ。お花は、今朝方旦那さまと一緒に摘み取った深い青と紫紺の移り変わりが夜の帳が下りたてのような香を放つ紫陽花を飾っています。壁には有名な画家さんが書いたであろう風景画の油絵が複数枚飾ってあって、中でもわたしは犬がお山を走っている絵がお気に入りです。
「今、茶菓子とお茶を持ってきますね」
「ありがとうございます!!」
鼻がひん曲がりそうな感覚をどうにか押さえつけたわたしは、急いで茶器を取りに台所へ向かいます。旦那さまの妻として、ここは一生懸命に励まなければならない場面です。
気合いを入れたわたしは、応接室に飾ってある紫陽花に合わせて、薄青の紫陽花が自由に伸びる意匠のカップを取り出しました。紅茶の淹れ方は旦那さまに習っているので、問題ないはずです。お茶請けにクッキー缶からクッキーを取り出し、カップとお揃いの意匠のお皿に並べたわたしは、早足で応接室に戻りました。
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