第16話

 扉を開けた先には、わんちゃんみたいに元気いっぱいな朝比奈拓人さまが、手に持っていた箱からお菓子を取り出している場面が広がっていました。


「大佐、今日は帰りが遅くなってしまう可能性が高くて、お詫びに宗さまのためにカステラを用意したんですよ」

「わぁ!美味しそうです!!」


 ふんわりと優しい色に膨らんだカステラは、砂糖が多めに使われているのか、見た目から輝いています。


「あーるぐれいっていう紅茶とクッキーです」

「おっ、とっても美味しそうですね!!僕も一緒に御相伴に預かっても良いんですか?」

「はい」


 にっこり笑いかけると、朝比奈拓人さまはわんちゃんを連想させる笑みを浮かべて、元気よく紅茶とクッキーを食べ始めました。わたしは昼餉前のお菓子の時間にクッキーを食べてしまったので、今回は旦那さまがくださったカステラをいただきます。

 ふんわりとした生地にフォークをさっくりと入れ、一口大に切ったカステラをお口の中に入れます。見た目もそうですが、やっぱりカステラからは優しくて甘くて懐かしい味が広がります。自然と頬が緩むのを感じながら、わたしはもぐもぐとカステラを食べ進めました。時折べるがもっと?という柑橘の匂いがふわっと広がるあっさりとした紅茶でお口の中をさっぱりさせてカステラを食べていましたが、やはりお茶とお菓子はセットでなくてはならないという謎の理論に達しました。


「宗さまはよく食べますねぇ」

「そうででしょうか?」

「はい」

「朝比奈拓人さまがおっしゃるのでしたら、そうなのかも知れませんね」


 ふふふっと笑うと、朝比奈拓人さまは不思議そうに首を傾げました。


「宗さまは食べることがお好きなのですか?」


 純粋な疑問に、わたしは一瞬考えて、すぐに答えを出した


「多分、好きなのでしょうね。こちらに来てから、旦那さまのお料理上手のせいで、食べることが楽しみになってしまっています。上位の妖魔になればなるほど、食事は必要とされませんから、向こうでは稀にしか食事を摂っていなかったのですし、嗜好品としての意味合いが強かったはずです。なのに、今では食事の時間になるとお腹の虫が鳴ってしまうくらいに食いしん坊になってしまいました」

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