第14話

▫︎◇▫︎


 いまだに旦那さまの甘々になれないわたしですが、今日は旦那さまの甘々に振り回されることはありません。

 そう、なぜならば旦那さまがお仕事だからです。


 怖がるわたしのために普段は軍服を身につけない旦那さまですが、今日ばかりはお仕事であるということで朝から紀章がきらきらと輝く軍服を身につけて、お仕事に出発しました。

 この際、いってきますのおでこへの接吻と撫で撫では忘れておきましょう。

 あれは本当に、この世のものとは思えないくらいに恥ずかしいです。旦那さま曰く、現世の夫婦は毎日アレをやっているというのですから、末恐ろしいものを感じます。


 お洗濯を干してお掃除をして、やっとひと段落ついたわたしは、旦那さまに習って淹れられるようになった和紅茶の香りを楽しみながら、旦那さまがお菓子にと用意してくださっていたお饅頭を頬張ります。白餡の中にころころと栗の甘煮が入っているのがほっぺたが落ちそうなくらいに美味しくて、それでいて贅沢です。


(これは罪なお菓子です)


 もぐもぐと頬張ることを、新たなお饅頭に手を伸ばしてしまうことを、意思をもってしても止められません。


「あと1個だけ」


 そう言いながらもう5個食べた気がします。

 可愛い紙包を大事に大事に伸ばしてから、折り紙をします。この前教えていただいた鶴をおりながら、上手にできたら旦那さまは褒めてくださるかを考えると、心がぽかぽかと暖かくなりました。


 ここにやってきて約2か月、さまざまなことを学び、体験しました。

 最初はわたしの家族と命よりも大事な角を奪った人間が憎くて、旦那さまに当たりながら生活をしていました。故郷を滅ぼす原因となった人間と同じ“華族”であり、軍人の男。今でも思うところが全くないと言えば、それは嘘になってしまいます。

 けれど、ほんの少し考えればわかることなのです。

 人間も妖魔と同じく十人十色。良い人もいれば、悪い人もいますし、豊かな人もいれば、貧しい人もいます。悪い人の家族と言えども、その人は悪い人であるとも限りません。全てはその人個人に由来するものであり、家族や家名はその人の背負うものであって、その人自身を表す言葉ではありません。


「旦那さまがいない日というのは、やはり寂しいものですね」


 今までにも何度かありましたが、やっぱりそういう日は例外なくものすごく寂しいのです。上手に家事ができたとしても、誰も褒めてくださいませんし、綺麗なお花を見つけても、不思議な雲を見つけても、誰も共感してくださいません。

 わたしは基本的に寂しがりやなのでしょう。ひとりでいるのは辛くて苦しくて悲しい。

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