第4話
ぐるっと背中を向け、そしてもぞもぞと布団を被ったわたしはぎゅっとくちびるを噛み締めます。
「お父さま、お母さま、お兄さま」
目を瞑れば、炎に焼かれてもがき苦しみながら死んでいったみんなの顔が思い浮かびます。痛くて辛くて苦しいのに、涙は溢れてこない。
「そんなことよりも、まずはお着替えですね」
呟いてから布団から出ると、隣の部屋に繋がる扉の隣に新しい着物らしき布地が置いてあるのを見つけました。
床に足をつけると、そこでやっとわたしの足に手当が施されていることに気がつきます。丁寧に巻かれた純白の包帯の巻き方は、几帳面さと同時に暖かさと苦しみを伝えてきます。
「………どなたが巻いたのでしょうかね」
浴室へと入れば、そこにはもう湯が張られていた。
ちゃぷんとお湯の中に入れた手から伝わってくる温度はどうしようもなくわたしの好みで、勝手に頬が緩んでしまう。
「お、お風呂に罪はありませんもの。入ってあげなくては可哀想ですよね」
たとえ敵国の人間が用意した、敵国のものであっても。
泥だらけになって大半の装飾品を走っている最中に失っているとは言ってもとても豪奢な服を、わたしは四苦八苦しながら脱ぎ捨てます。本当に、お姫さまというのはどうしてここまで着飾る必要性があるのでしょうか。無駄が多く、非合理的なように感じます。
やっとのことで全てを脱ぎ捨てたわたしは足の指先から探るようにお風呂に入りました。包み込むように抱きしめてくれるお湯はとっても温かくて、わたしの固まり切った筋肉をゆっくりとほぐしてくれます。
泥や垢が浮かぶお風呂に苦笑したわたしは、一旦外に出てから髪や身体を洗うことにしました。流石に泡で洗った後にまた泥だらけのお風呂に浸かるつもりはないのでお湯をその間に張り直します。
「見たことがあるものでよかったです………」
ぽつりとこぼしながら、わたしはいつも侍女にやってもらっていたことを見よう見真似でやっていきます。
元々器用な質もあって、特にここでの生活で困るということもなさそうです。
身体を洗い終えてもう1度湯船に浸かったわたしは、ほかほかと天井に登る白い空気を見つめながらお湯にぶくぶくと口をつけます。
「そろそろ上がったほうが良さそうですね」
身体が芯からほかほかとしてきたのを感じたわたしは、ゆっくりと湯船の外に出て身体を拭い、髪に軽くタオルを当てます。
髪ってこんなに乾かないものでしたっけ?
髪を乾かし始めてしばらくすると、わたしはあまりの衝撃事実にほんの少しだけ驚きました。
髪というのは本当に乾きません。ずっと拭っているはずなのに、いつのまにか絡まり始めてしまっているレベルです。
「ひ、ひとまず、湯冷めする前に服を身につけないと」
あの男の手下が用意したらしき袴を着つけて、とりあえず唯一服以外に手元に残っていたしゃらしゃらと色とりどりの宝石が揺れる角飾りを身につけたわたしは、先程まできていた服をどうしようかと途方に暮れます。正直に言ってもうぼろぼろで着ることは不可能そうですし、かと言って手放したくもありません。
「………あ、巾着」
服を掲げて悩みに悩んだ結果、わたしはまだ破れてない箇所を切り刻んで巾着などの小物を作ることにしました。小物ならば常に持っていることが可能ですし、何より場所をとりません。最適解といっても過言ではないでしょう。
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