第3話
▫︎◇▫︎
目が覚めるとそこは知らない場所でした。
そんなありふれた言葉を頭の中で思い描きながら、わたしは目を覚ましました。
「っ〰︎〰︎〰︎ーーー!!」
頭から激痛が貫いて、わたしは声もなく頭を抑えてうずくまる。
左の頭から重さが消えている。
ーーーガチャンッ、
「大丈夫か!?」
慌てた男の声が聞こえて、次の瞬間にはわたしの身体は温かいものに包まれていました。その暖かさが、手折られた場所に癒しを与え、痛みを和らげます。
「はぁー、はぁー、」
ぐっしょりと冷や汗によって濡れた漢服の襟を握りしめて、わたしはやっとのことで落ち着いた痛みに、苦しみに、息を乱す。
その間も、背中にはずっと暖かさがあって、それがわたしに安堵をもたらしました。
「ーーーあなたはどなたですか?」
ですが、それとこれとはお話が別です。
わたしはぐるっと身体を向き直し、目の前に座る冷たい顔立ちの美丈夫を睨みつけました。
短く癖っ毛な漆黒の髪に切長の黒曜石の瞳。
明らかに、間違いなく、わたしの仇である人間です。
「“現世の人間如きがわたしに触れるな”とでも言いたいのか?」
冷たい声に、言葉に、殺気に、わたしの身体はぶるっと震える。
「まぁいい。
俺の名前は
“華族”という言葉に、わたしはぐっと目を細める。
憎い憎い華族。
わたしの仇の中でも、もっとも因縁深い、わたしの家族を殺せと命じた華族。
「桂華院さま、何故わたしをこんなところにいるのでしょうか。言っておきますが、わたしの生殺与奪の権を握ったと思っているのでしたら、それは間違いでしてよ?わたし、これでも妖術は得意な方ですので」
脅しを込めて妖術の中でも見た目だけは派手な妖火を自由自在に操る。
青、赤、黄、わたしを渦巻く炎は蝶へと変化してわたしの右の角へと止まる。暖かな光を受けた琥珀の角は淡く発光しながらその力をわたしに貸し与える。
「うふふっ、大丈夫ですよ。“今は”殺しませんから。さあ、正直に話してください」
にっこりと微笑んでも、彼、桂華院昭仁はぴくりとも表情を動かさない。
「………何か勘違いをしているようだな」
「?」
「可哀想な女だ」
立ち上がった彼は冷たくわたしのことを見下します。
「お前は俺の妻となった」
ぴくっと眉を動かしたのは、ちゃんと前髪で隠れていたでしょうか。
「そして、お前は人質だ。自由が、俺を殺すことが許されると思っているのか?」
「………………」
「………俺を殺せば祖国はどうなるか、賢いお前ならば言うまでもあるまい」
ぎゅっとくちびるを噛み締めたわたしは、目の前の男に敵意を隠すことのない殺意のこもった視線を向けます。
「………あなたは何をお望みですか?」
「何もしないこと」
「ーーー」
「お前は何もするな。どこにも行くな。ただこの家で、静かに過ごせ」
「………承知いたしました」
わたしはあなたを怨みます。
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