第36話 悪い妹たちとNo.1お姉ちゃん

「お姉ちゃんごめんね。悪い妹たちでー」


 これでもかっていうほど肉親のラブシーンを見せつけた後、一応だけど軽く謝ってみた。

 もちろん反省などしていないっ!


 でもちょっとショックが大きかったみたい……。ライトお姉ちゃんは床に転がって声を殺して泣いているので、たぶん謝罪の言葉は届いていないと思う。


「妹たちに先を越されるってどんな気持ち~? ねえねえ、お姉ちゃん今どんな気持ち~?」


 モエがライトお姉ちゃんの周りをくるくる回りながら、積極的に煽っていく。

 容赦なし! これが実妹の力か!

 わたしにはそんな死体蹴りみたいな真似できないや……。


「あれれ~? ショックで何も答えられないの~? 世界一の称号も恋愛では形無しかな~? あ、もしかしてもう、実力でも麻衣華に負けちゃってるとか?」


 さらに煽っていく~!

 さすがにちょっとかわいそうになってくる……。

 でもこれが実の姉妹の間の愛情表現なのかも……いや違うかも。


「いやー、お姉ちゃんは今でも他の追随を許さないNo.1として君臨してるよー。強すぎて恐れられてるから、恋人ができないのかもね?」


 最近わたしを通じてライトお姉ちゃんと連絡とろうとする人もめっきり減ったからねえ。

 年齢のせいじゃなくて強さのせい! だと思いたい!


「作らないだけですから……」


 床に転がったままのボロ雑巾から蚊の鳴くような声が聞こえてくる。


「なんて~?」


「お姉ちゃんは恋人ができないんじゃない。作らないだけですからっ!」


 ライトお姉ちゃんの精いっぱいの強がり。

 いつもの捨てゼリフではあるんだけど、さすがに今聞くと、もうちょっとこっちが泣きそうになっちゃう。

 お姉ちゃんは魅力的な女性なんだから、ちょっとだけ理想のハードルを下げるだけで絶対恋人できるからね?

 いつも言ってる運命の人を待つだけだと……ほらね?


「あでも、ほら、もうわたしもモエも大人になったし? 一人前だし、もう恋人作っても大丈夫だよ?」


 わたしは今大人になった! と言ってもいいでしょう! ね?


「納得はいかないですが、2人とも伴侶を見つけた……。そうですね。お姉ちゃんも恋人を作る時がきたのかもしれませんね……」


 お姉ちゃんはなぜか正座してうなずいていた。


「伴侶だなんてそんな♡」


 モエは違うところに反応して身体をクネクネさせていた。

 か、かわいい。ひさびさのクネクネもえきゅん☆!


「じゃあすぐにSNSで恋人募集の告知をしよう! ってここは圏外か……」


「いえ、お姉ちゃんはビビッときた運命の人と交際するのでSNSで募集するのはちょっと……」


 まだ言ってる……。

 これは当分無理かも。


『地球にお戻りになるのであれば、私たちの話も聞いてください』


 おわっ! ゼロ!

 そうだった。ゼロの話を聞いている途中だったんだ! すっかり忘れてた。


「あ、うん。……なんだっけ」


 えっとたしか……死の概念がうんぬんかんぬん……ちんぷんかんぷん。


「人間を死の概念から解放することについて」


 モエがつぶやく。


 そう、それそれ。

 モエはそれに対してどう思っているの?


「モエはケートスと空間転移をする中で、いくつかの有人空間も見てきたんだぞ」

 

 おお、地球以外の生命体! やっぱりホントにいるんだ⁉

 ゼロ以外にもたくさんいるのかあ。


「ゼロのような肉体を持たない生命も見たわ。争いもなく、しあわせそうだった」


 ということは、肉体を持たないことは良いことなの?


「でも、今のゼロのように疑似的な肉体を使ってコミュニケーションを取っていることに違和感を覚えたんだぞ……」


『この身体は地球の人間と会話をするために生み出したものです。普段は使用する必要がありません』


「そうね。ゼロはそうかもしれない。でも、そうではない人もいたんだぞ。普段から疑似的な肉体を身に着けて、まるでモエたちと同じ人間のように振舞っている人たちが多くいる空間もあった」


『旧来の環境での生活を好む生命も多数存在することは認識しています』


「そう。どう生きるかは人それぞれ。そう言ってしまえば簡単だけど、だからこそ、モエにはまだ答えが出せないんだぞ……」


 答えとは。

 人類が肉体を捨てるべきかそうじゃないか。


『時間が必要、ということでしょうか。それではこの情報を地球に持ち帰っていただき、人間の中で回答を決めてください。私たちにはそれを待つ時間に制約はありません』


 まあそうか。そうよね。わたしたちだけで決められるような問題じゃないもの。まずは持ち帰って冒険者協会? 国連? どこかしかるべきところに相談をして――。


「ゼロ。そうじゃないの。モエが答えを出せないって言ったのは、この情報を地球に持ち帰るかどうかに対しての答え」


「モエ、それはどういった意味ですか? お姉ちゃんには理解できませんでした」


 ライトお姉ちゃんが口を挟む。

 情報を持ち帰るかどうか? この提案を地球のみんなには隠すってこと?


「肉体を失い、その代わりに死の概念からの解放される。このことを正しく議論できるほど、人類は賢くないんだぞ。メリットデメリットを検証する材料も少なすぎると思わない? だから今はまだ、この情報を持ち帰るべきではないかもしれないと思っているの……」


 たしかにその通りかもしれない。

 全会一致で「肉体を捨てます!」「現状のまま生きていきます!」と答えがそろうようなことはないのだと思う。それぞれの思惑や立場があって、国や宗教によっても考えは異なるはず。


「ゼロがモエのことを地球の使者として見てくれているのなら、もう少し時間をちょうだい」


『時間。それに制約はありません』


「モエは人類が判断するために必要な材料を集めたい。だからこれから、たくさんの異空間を見て回ろうと思うんだぞ」


 モエはそう言うと、わたしのほうに振り返った。

 そして小さくうなずく。


「モエはね、これからしばらく、異空間を見て回る旅に出ようと思うんだぞ♡」

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