第30話 ダンジョンの成長、その先へ
わたしとライトお姉ちゃんは、再び謎の空間へと足を踏み入れる。
やっぱり通信は遮断される。ドローンカメラは録画モードへと移行した。
「索敵……とくに異常はなし」
入り口近くを索敵。
ダンジョン主はおろか、小さいモンスター1体すらいない。
「何もいませんね。警戒しながら少し調べましょう」
ライトお姉ちゃんの言葉にわたしはうなずいた。
索敵範囲を広げつつ、辺りを見渡してみる。
これまでの1階層から100階層までの空間と作り自体は大きく変わらない。ただがらんとしていて、何もないのっぺりした広い洞窟型の空間。ごつごつした岩があるわけでもなく平坦な地面。半球ドーム型の壁と天井。
もし100階の広間に階段があって降りていたら、普通に101階と言われても違和感がない。
「うーん。何もないね。ここからさらに101階に降りる連絡通路があるとか?」
「それはありえますね。通信妨害以外、とくに違和感はありません。見たところ連絡通路はなさそうですが、さっきよりも念入りに偽装されているかもしれないので細かく探しましょう」
「了解」
少し警戒モードを下げて、わたしとライトお姉ちゃんは別々に行動することにした。そのほうが探索は早いからね。
しばらく壁際をうろうろしながら偽装を確認してみるも、何も違和感は見つけられない。もしかして、ただの行き止まりの空間? でも、通信遮断されてるし……。なんだろうな、ここ。
「お姉ちゃーん。何か見つけられた? わたしのほうは何にもないよー」
一応定期報告と、ライトお姉ちゃんのほうの状況確認。
何かあったらすぐ言ってくれると思うから、まあ何も見つかってないとは思うけどね。
「こちらも今のところ何も発見できていません。……おや?」
ライトお姉ちゃんが反応した瞬間、わたしにも違和感をキャッチできた。
「これはいったい……」
ただ広いだけの空間、そのちょうど中心あたりの地面が、急に隆起して止まる。細い土柱が何本が立ち上がっていた。
「アクア! 警戒! こちらへ!」
ライトお姉ちゃんの指示。
わたしは燃につかまり、壁際を移動。ライトお姉ちゃんと合流する。
「何か始まる……?」
「まだダンジョン主の気配はありません。警戒しつつ注視します」
再び動き。
地面の隆起が再開する。
「もしかして、これはダンジョンの成長?」
地面が動き出し、土柱が増えていく。
ダンジョンが意思を持って何かを作っているかのようにみえる。これが「まるで生き物のようだ」と言われるダンジョン成長の姿なのかもしれない。
「壁にあいた穴が修復されるところは見たことがありますが、ダンジョン内に新しく何かが生まれるところは初めて見ました」
ライトお姉ちゃんもその成長に見入っていた。
そもそも成長中のダンジョンに立ち入ること自体がとてもめずらしい行為。場合によっては階ごと増えたり減ったりすることがあるため、立ち入りは危険とされている。冒険者の安全確保を最優先として、ある程度成長が止まってから調査に入るのが普通だからね。
わたしたちは急成長しているダンジョンのおそらく最下層にいる。
つまりここがこのダンジョンの中で最も若く、生まれたばかりの場所ということなんだ。
突然、細く伸びた土柱、そのすべてに火がつく。まるで花火のようにパチパチと音を立てて火花が散る。でもそれは一瞬だった。燃え上がった炎は端からすぐに鎮火していく。火が消えて土柱からパラパラと土が落ちると、中からキラキラ光る細い金属の柱が現れた。
土の柱から金属を製錬した? 火を使って?
「まるで人工物のような精巧さ……ですね」
ライトお姉ちゃんがまさに表現した通りだ。
これはどう見ても人工物。
土柱が立ち上がっては燃え、金属の柱が増えていくその姿は、何かが建築されていく姿を早回しで見ているみたい……。
5分か、10分か、30分か……。
わたしとライトお姉ちゃんは無言で、ダンジョンの建築を見つめていた。
「途中から薄々気づいていたけど、これって……」
目の前に出来上がりつつある建築物を、わたしは目にしたことがあった。
「はい。これはバッキンガムパレス正面の門です」
ご丁寧に、門に掲げられたUKの紋章まで再現されつつある。盾。それを守るライオンとユニコーン。
「どう見ても、そう……よね。なんでこんなものがここに作られてるんだろ……」
ダンジョン内にこのような人工物を模倣した建築物はごく稀に存在する。ただし、なぜそこに存在するか理由は不明だ。もしかしたら誰か先行してダンジョンに侵入した人物が作ったのか。それともダンジョン自身が生み出したのか。そもそも何のために作られたのか。これまでの調査では判明していなかった。
でも、わたしたちは見た。
理由はともかく、ダンジョン自身が作っていた。
まさに今、目の前で建築されたばかりの見事な門を見つめながら、感嘆のため息が漏れる。
バッキンガムパレスの象徴門が完成した。
ギギギ……と金属が擦れる音がして、完成したばかりの門が動きだす。
「門が開いていくわ……」
完成したばかりの門が左右に分かれ、ゆっくりと開いていく。まるでわたしたちを招いているかのようだ。
門の先はモヤがかかったように何も見えない。
「入ってこい、ってことなのかな」
ライトお姉ちゃんのほうを見る。
非常に険しい表情だった。
「おそらくそういうことなのだと思います。しかし、罠かもしれない」
たしかに罠の可能性も十分に考えられる。いや、むしろ罠の可能性のほうが高いんじゃないかな。
「でもいく、よね?」
「罠だとしても行くしかありません」
予想通りの答えだった。
わたしたちに選択肢は用意されていない。行くしかない。このダンジョンの成長を止めないといけない。
「行きましょう」
ライトお姉ちゃんが手を差し出してくる。
わたしは双剣を片方収納し、お姉ちゃんの手を握った。
「行こう」
2人並んで、ゆっくりと門をくぐっていく。
だんだんとモヤに包まれていき、視界が奪われていく。
つないだ手に力がこもる。
わたしの不安を落ち着けるかのように、お姉ちゃんのほうも手を強く握り返してくれる。
行こう。2人一緒なら大丈夫。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます