第29話 通信圏外~いったん情報整理

 通路を抜けて広場に出た瞬間、すべてのドローンカメラの通信が遮断されて録画モードに切り替わる。


「え、『通信圏外のため録画モードに移行』っ表示が出てる。そんなことってあるの⁉」


 ダンジョンはいくら階層が深くても電波が届かなくなることはない、はず。


「それはお姉ちゃんも聞いたことはないです。冒険者のための配信用ドローンは魔素を媒介にして電波に変換、増幅する仕組みです。冒険者がそばにいる限り、その循環が途切れることはないはずです」


 この魔素から電波への変換技術は様々なところで利用されている。インターネットや携帯端末の通信をはじめ、無線通信の電波はほぼすべてこの技術に取って代わられた。でも、この技術のすごいところは、どんな周波数や波長にも応用できるところで、変換後の電波は既存のインフラをそのまま利用できてしまう。つまり一見すると見た目は何にも変わってないってこと。

 冒険者が魔素を扱えるようになったことで、技術革新が起きたと言えるんじゃないかな。冒険者以外の人も恩恵を受けることができるから、冒険者が社会貢献していると言っても言い過ぎじゃないかもね。


「でもここは通信圏外、なのね。何かの干渉を受けて、電波がこの空間から出られないように妨害を受けている?」


「もしくは、空間そのものが断絶されている、のかもしれません」


 空間が断絶ってなんだろう。

 切り取られた空間? 妨害とは違うもの?


「いったん通路に戻りましょう」


 ライトお姉ちゃんに促されて、通路に戻る。


「あ、通信復活した! みんな、この配信見えてる?」


 ドローンカメラの表示通りなら、配信再開がされているはずなんだけど。


“きた! 見えてるよー!”

“通路から出る瞬間に映像切れた”

“何があった?大丈夫?”

“機材トラブル?”

“≪何か問題が起きたのか?≫”

“今はちゃんと見えてる”

“無事?”


「良かった。みんな配信見えてるみたいね」


 通路までは問題なく配信できる。でも、ボス部屋っぽい空間に入ると?


「やっぱり通信圏外になる……」


“今また切れた”

“通路の先の映像見れない”

“なんか特殊空間?”

“≪そういった妨害空間は聞いたことがない≫”

“進むのは危ないんじゃない?”

“攻略は専門チームがきちんと調べてからのほうがいいと思う”

“前例がないから危険”


「うん……通信を遮断する何かがあるのは間違いなさそう。お姉ちゃん、みんなが危険だからこのままいくのはやめろって言ってるよ?」


 たしかにその意見はもっともだと思う。2人で攻略できるのか。どんなダンジョン主がいるのか。そもそも帰ってこられるのか。


「たしかにそれは正常な判断です。しかし、後日調査してから完全攻略では致命的に遅い可能性が高いです」


「あー。急成長しているこのダンジョンをそのまま数日でも放置したら……」


 S級ダンジョンの出現や、そもそもこのダンジョン自体どんな成長を遂げるのか。周りのダンジョンが刺激されて都市部に影響が出てしまう可能性も高い……。


「やっぱりいくしかない、ね」


 怖いけど、わたしたちは仮称バッキンガムパレスダンジョンの完全攻略のためにここにいる。つまりこの先の未知の領域に進んで、ダンジョン主を倒さないといけないわけで。


「はい。迷っている時間はありません」


 ライトお姉ちゃんが力強くうなずく。

 わたしたち2人ならきっとやれる。そうよね!


「みんな、心配してくれてありがとう。やっぱりこのまま進むね。しばらく配信は中断しちゃうけど、攻略が終わったらすぐに再開するから待っててね。ドローンカメラも録画モードでは動きそうだから、うまく録画できたら、あとで動画も公開できるかも?」


“応援してます!”

“がんばって!”

“絶対帰ってきてね”

“無事を祈る”

“≪ライト、帰ってきたら結婚しよう≫”

“嫌なフラグ立てるなw”

“ぶれない君が好きw”

“少しでも危ないと思ったら逃げても誰も責めたりしない”

“おれらは2人の味方だぜ”

“≪偽装空間の可能性もチェックしたほうがいい≫”

“偽装空間?”

“≪転移系のスキルかもしれない。どこか別の空間に転移している可能性をチェックする必要がある≫”

“それはあるかもしれないが、通信遮断は違う気が”

“≪一時的に魔素変換に干渉する技術はあるがどうだろう≫”


「いろいろ考えてくれてありがとう。でも、時間がないからわたしたちは行くね。アクアがんばってきます!」


 わたしはこぶしを突き上げる。

 アピール、そして自分自身を奮い立たせるため。


「行きましょう。ここからはお姉ちゃんも本気で行きます」


 そう言って、ライトお姉ちゃんは聖剣デュランダルを装備。防具系も複数の属性攻撃に対応できるように調整をし始める。

 わたしもそれに習い、各種耐性ポーションなど、できる限りの自衛を準備した。


「これでいい、かな。お姉ちゃんもいい?」


「OK. いきましょう」


 デュランダルの鞘をポンと叩いて合図をくれる。

 よし、いこう。


「再度突入します」


 わたしは鳳凰の双剣を一撫でしてから、再びボス部屋へと足を踏み入れた。

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