第28話 100階に到達

「さて、100階につきましたね」


 99階までと景色はそう変わらず、だだっ広い空き地が広がっていた。


 それにしても盛り上がりのない配信だこと……。

 お姉ちゃんクイズでちょっとだけ盛り上がりつつも、戦闘ではまったく盛り上がりを作れないまま、予定の100階まで到達してしまったよ。


 最終戦績は3勝58敗。


 最後に逆転? ないですよ? こっちも何の盛り上がりも作れないまま負け続けましたとさ。

 なんかさー、もうちょっと接戦を演出するとかしてくれないわけー?

 ライトお姉ちゃんって勝負事になると、ほんっと、大人げないよねー。


「ダンジョン主いそう?」


 わたしは周りを警戒しながら歩き回る。

 ライトお姉ちゃんに勝敗のことを思い出させないようにね。


「いませんね~。まだ下の階層があるのかもしれません。通路を探しましょうか」


「完全攻略しないといけないし、ダンジョン主を見つけないと話にならないかー」


 わたしは燃と焔を呼び出して、その尻尾につかまる。

 とりあえず外周を1周してみよう。


 と思った矢先、ライトお姉ちゃんから声がかかった。


「アクア、ここに連絡通路がありました」


「ホントー? その先、階段がありそう?」


 ライトお姉ちゃんのほうに向かって飛んでいく。


「どうやらこれは、階段への連絡通路ではありませんね。隠し部屋でしょうか」


「隠し部屋ー? 急に100階で?」


「普通に考えたらボス部屋でしょう」


「ま、そうだよね。とりあえず視聴者の人が集まれるように告知出しまーす」


『100階到達。怪しげな連絡通路を発見。ボス部屋に通じる通路かも⁉ 10分後に突入予定!』


 告知完了、と。

 ちょっと経ったらみんな集まってくれるでしょう。


「少し休憩しましょうか」


「はーい、賛成!」


 燃と焔を戻し、わたしは地面に座り込んだ。


「さすがにちょっと疲れたね……」


 配信を始めて約30時間。

 予定よりはだいぶ早い。でも、その分移動しっぱなしだったわけで……。


「アクアは体力がないですね。家でゴロゴロしてばっかりいるからじゃないですか」


 アクアお姉ちゃんは立ったままストレッチをしていた。


「これでも体力はあるほうだと思うけどなあ。お姉ちゃん基準で語るのがおかしいんじゃない? そりゃ筋肉ゴリラマッチョは何やっても疲れないでしょうよ」


 ゴリラと人間を比べるなんて失礼しちゃうわ。


「筋肉ゴリラマッチョ……もしかしてそれは、お姉ちゃんのことを言っていますか?」


「他に誰がいるのよ」


「お姉ちゃんは、美と健康を大切にしているだけです。このスタイル、見えませんか? 美しくない筋肉がつかないようにどれだけ苦労しているか……」


 顔を押さえて泣き始める。泣いてるフリだなー。


「お姉ちゃん、涙出てないから。それに、お姉ちゃんが刀を振るう時、手足に筋肉めっちゃ浮き出てるからね? 太ももの膨れ上がり方とかやばいよ?」


“たしかに浮き出てるw”

“でもそこがいいんだよね~。ギャップ!”

“≪間に合ったか≫”

“お、みんな集まってきた”

“オッスオッス”

“筋肉ゴリマッチョ”

“ゴリラにも美人はいるから……”

“≪腹筋に挟まれたい≫”

“マニアックニキw”

“これからボス戦?”

“ボス部屋への通路っぽいってだけ”


「あ、そろそろ告知した時間かな?」


 なかなかの同接数。まあクライマックスとしては、けっこういい集まり具合なんじゃない?


「納得いきません。お姉ちゃんは筋肉ゴリラマッチョじゃありません!」


「お姉ちゃん……その話はもう終わったから。ボス戦に集中しよう? あとで聞いてあげるからね」


 まだブツブツ言っている。

 まさか自分でホントに気づいてなかったの? 普段はたぶん筋肉を筋肉で抑え込んで隠してるのよね……。それで細く見せられるって、それはそれですごいことだと思うけど。

 わたしもこの5年で近接武器使うようになってから、手足にだいぶ筋肉が……。筋肉ゴリラマッチョのしまい方を教えてほしい……。



「というわけでみなさん、お姉ちゃんが見つけた通路はここです! この通路はあきらかに階下に向かっていないですね。地面に対して並行に伸びてるので、おそらくこの先に隠し部屋があると思われます」


 前方に見える少し小さめの穴を指さして案内する。だいたい人1人がギリギリ立ったまま通れるくらいの大きさだ。近寄らないとわからないように表面に偽装も施されているね。


「お姉ちゃんを先頭に……ううん、今日はわたしが先頭に立って進みたいと思います!」


 そう、わたしのソロ実績を作らないとね。

 危ない危ない。


「お姉ちゃん、集中して! もう行くよ!」


 早くショックから立ち直って。筋肉が浮き出ても世界一美しい冒険者の称号は消えたりしないからね。実力も見た目もNo.1って、いつもみたいにシャンとしててよ。


「お姉ちゃんが使い物にならないので、引っ張っていきまーす」


 しょぼしょぼ歩くお姉ちゃんの手を強引に引いて穴をくぐっていく。


“お姉ちゃん大丈夫かwww”

“そんなんでボス戦行けんのかよw”

“ここまでたいした敵もでてないし、ダンジョン主も弱いんじゃね?”

“≪ライト……腹筋を触らせてくれ!≫”

“結婚ニキいつもと変えてきたなw”

“応用力あるじゃん”


 30mほど蛇行している通路を道なりに進んでいく。ボス部屋への連絡通路にしてはちょっと長い。

 そう思っていたら、通路が90度になっている曲がり角が現れた。これは……近いね。


「おそらくここを曲がった先がボス部屋です。みなさん、いきますよ」


“おう!”

“後ろ……じゃなくて応援は任せておけ!”

“いけいけアクア!”

“≪ライトは大丈夫なのか≫”

“今日はアクアちゃんが1人で戦うみたいだぞ”

“≪それは興味深い≫”


 通路を曲がると、少し先にぼんやりと紫色の光が見えてくる。

 やっぱりこの先が出口だね。


 わたしはライトお姉ちゃんの手を引きながら、気持ち足早に、光のほうに向かって通路を進んでいく。

 さあ、ソロ討伐だ。ダンジョン主はどんなモンスターかな?


 ようやく通路が終わり、広い空間に出た。


 その瞬間、全ドローンカメラの通信がつながらなくなり、配信が止まった。

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