第24話 仮称バッキンガムパレスダンジョン地下1階

「世界のみんな、おはよう。こんにちは。こんばんは。柊アクアよ」


「Hi guys! ライトお姉ちゃんは今日も元気いっぱいですよ~♪」


 つい数時間前に配信予約をしたばかりの緊急生配信がスタート。

 それでも最初から50万人を超える視聴者が集まってくれている!


「緊急依頼があったのでダンジョン攻略をするわ。イングランド某所、まだ生まれたてのダンジョンを完全攻略していくわ」


 わたしたちはすでにダンジョンの中。バッキンガムパレスの地下に生まれたダンジョン(仮称バッキンガムパレスダンジョン)の1階から配信をしている。でもこれは視聴者には秘密の情報。


“おつ~”

“緊急助かる”

“≪最近イングランドで新しいダンジョンが増えているらしい≫”

“≪知り合いの冒険者も同じことを言っていた≫”

“なになに?危ない感じ?”

“完全攻略ってことは、ダンジョンを破壊?”

“ダンジョン主を倒して沈静化だな”

“最下層まで攻略ってことか”


「今日攻略するダンジョンは生まれたばかりで未調査よ。何階層あるかわかっていないのだけれど、おおよそ100階層はある深いダンジョンだとの予測を聞いているわ」


「そうですね~。できたてなのにもうすでに100階層あるのはとてもめずらしいです。だけど――」


 ライトお姉ちゃんがドローンカメラを持ってくるりと一周する。

 チュールスカート風の耐熱マントが広がってめくれ上がる。セクシーかわいい! お姉ちゃんもまだまだいけるよー!


「みなさん見てください。ダンジョンの成長が早すぎるということは、作りも雑でモンスターも弱い」


 ふむふむ、なるほど。

 たしかによく見ればダンジョン内はがらんとしていて大きな空洞になっている。狭い迷路になってもいなければ、罠がありそうな形状にもなっていない。

 意外と攻略は楽なのかな?


「残念なこともあります。できたてのダンジョンだと、転移ポータルがある可能性も低いので、地道に階段を下りていくしかなさそうです」


 そう言いながら、地面に落ちている石を蹴った。


「お姉ちゃん元気出して。みんな、そういうわけで今日の配信は地味で退屈なわりに時間が長いと思うわ。無言の時間も多いと思うの。ダンジョン内に動きがあったら、その都度告知は出していくので、ずっと見ていなくても怒ったりはしないわよ」


 まあ、流しておくなら作業BGM的な感じでね。

 わたしたちも基本的には音声切って進むし。


“了解”

“一応流しておくか”

“仕事しながらたまにチラ見する~”

“≪こちらは夜中なので休ませてもらうよ≫”

“攻略がんばれー”

“100階層だと2日はかかるか……”

“≪私はずっと見る≫”

“そうはいっても見ちゃうよなw”


 視聴者それぞれのスタンスがあっておもしろいね。わたしたちもがんばるから、みんなそれぞれの生活をがんばってね。



* * *


「それにしてもほとんどモンスターいないね」


「ええ、今のところただのマラソンですね」

 

 わたしとライトお姉ちゃんが1階をスタートして40分ほど。現在30階に差し掛かったところだ。

 モンスターは数えるほどしか登場せず、さりとて罠があるわけでもなく。ダンジョンという箱だけが用意された、みたいな感じに見える。


「見てる人も盛り上がりに欠けるよね……」


「作業配信と銘打ってますから問題ないでしょう」


 まあそうなんだけど、見てもらえる内容になっていないのはそれはそれで淋しい。


「お姉ちゃんも一緒に飛ぶ?」


 Avatar 01(双剣)のわたしは、フェニックスの燃と焔につかまって飛行形態をとっている。だから厳密に言うと、マラソンしているのはライトお姉ちゃんだけ。

 でも速度的にはほとんど変わらないか、若干お姉ちゃんのほうが速かったりする。悔しいなあ。


「お姉ちゃんは飛ばなくても大丈夫です。健康のために走ります。それより、少しは視聴者の方に盛り上がりをプレゼントするためにゲームでもしましょうか!」


「ん、ゲームって?」


 ライトお姉ちゃんが急に何か提案をしてきた。

 ゲームってなんでしょね。


「1階ごとに先に階段にたどり着いたほうが勝ちで1勝として、100階までの勝ち星の数を競うのはどうですか? 途中どこかで休憩はとりますが」


「なるほど? それで勝つとどうなるの?」


「1勝するごとに相手の服を1枚脱がせるのはどうですか?」


「10階分も下りたらどっちか裸になっちゃうんですけど……」


 たまに思う。この人はいったい何を考えているんだろう。

 真顔で言うから冗談を言っているのか本気なのかわからなくなることがある。でもまあ、これはさすがにジョークよね。


“重要な告知来たか!”

“≪日本伝統の野球拳というものだろう?≫”

“ぬ~げ!ぬ~げ!”

“サボらずちゃん見ててよかったぜ”

“拡散拡散”


「では10勝ごとに――」


「やりませんっ! みんなお姉ちゃんの冗談に付き合わないで! 調子に乗るからね! 最近家でもエッチなことばっかり言ってて困るのよ……」


 わりとちゃんと見てて反応する人が多くてびっくり。

 みんな暇ねー。


「お姉ちゃんをそんなエチエチな人みたいに……ひどいですよ」


 実際そうなんだけど……。家ではおっぱい自慢ばっかりですよ? デートもしたことないくせにー!


“エチエチくわしくw”

“家ではいったいどんな会話がなされているのでしょう”

“≪エチエチライト結婚してくれ!≫”

“自宅配信希望w”

“どうか後生ですから会話の内容をおしえてください!”


「えっとねー。いっつも裸同然でうろうろしててー」


「アクア! それ以上口を開いたら、一気に100枚服を脱がせますよ!」


 ひどい。

 そんなの皮ふまで剥がされちゃうじゃない……。

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