第23話 イングランド協会にて

「バッキンガムパレスの地下にダンジョンが⁉」


 冒険者協会イングランド本部で衝撃の事実が知らさせる。

 それって、けっこうな大パニックになるのでは⁉


「イングランド国民にはまだこの事実は公開されていないようです」


「なるほど……。わたしたちがやるのは避難誘導?」


 まずは半径5km……安全マージンをとって10km。一帯を完全封鎖して、それから大規模パーティーを編成して一気に攻略、かな。

 

「いいえ、避難はなしです」


「え? どういうこと?」


 避難させずにどうやってダンジョン攻略をするの?


「どうやら新たに出現したダンジョンは階層が深い。深い階層なら被害が出にくい、とイングランド協会は考えているようです」


 ライトお姉ちゃんが苦虫を嚙み潰したような表情でつぶやく。

 そんな無茶な理論……。


「言いたいことはわかります。ですが、私たちへの依頼は、ダンジョンの完全攻略です」


「うーん。さすがに強引だなあ。被害が出た場合に備えて、回復魔法が使える冒険者を地上に配置して特例措置の準備はできてるの?」


 わたしが尋ねると、ライトお姉ちゃんが協会の人と言葉を交わす。

 英語話せなくて通訳代わりにしてごめん……。

 

 前にアメリカの本部に行った時、真顔で「翻訳こんにゃくドリンクをちょうだい」って言ったら、大爆笑されたのは忘れないけどね……。

 しかもそれをわざわざ通訳して、まわりの協会スタッフさんたち全員で大爆笑したのも忘れないからね……。

 何が「イッツアメリカンジョーク」だよ! うー思い出しただけで腹が立ってきた!


「アクア? 聞いてますか?」


「え、なんだって?」


 つい思い出し怒りをしてしまっていた。いけないいけない。


「今イングランド協会所属のAランク冒険者はほとんどいないらしく、戦力を他国の応援で賄っている状態だとか」


「ほとんどいないってどういうこと?」


「どうやら最近新規ダンジョンの出現が相次いでいるらしく、その対応に手いっぱいなのだそうです。そのせいでケガ人も多く動ける人材が少ないとのことです」


 それはあまり良くない兆候だね。

 一所に多数ダンジョンが生まれ始めて、それを放置していると、なぜか吸い寄せられるようにSランクダンジョンがドカンと出現して大きな被害が出る、という傾向がある。

 理由は不明だけど、そういった例は世界中で複数観測されている。

 とくに生まれて急成長を続けるダンジョンが複数隣接する場合は要警戒とされていて、最優先での鎮静化が求められている。


「どうやら今週だけで、ロンドンの都市周辺に4つの新たなダンジョンの誕生が観測されているようです」


「4つ⁉ やばくない⁉」


「やばいですね……。どれもAランクダンジョンです。早くつぶさないと取り返しのつかないことになるかもしれません……」


 4つか……。

 それで冒険者が出払っていて、わたしたちが呼ばれた、と。


「緊急事態というわけね。それだと満足に調査も行えていないよね。深いって何階層くらいなんだろう。完全攻略に時間かかるかな……」


「確認したところ、2階層までしか調査できていないそうです。ただ、形状からしておそらく100階層はありそうだとのこと」


「そっかあ。100階層を1日じゃきついかな……」


 どこか転送ポータルでも見つかればいいけど。生まれたてのダンジョンだと望み薄よね……。


「いけるところまではモンスターを無視して階層を降りることに専念すれば……48時間以内には100階層に到達できると思っています」


「攻めるねー。でも、12時間ごとにインターバルはお願いね?」


「Of course. 大丈夫です、わかっていますよ」


 やるしかない、よね。


「急いで準備して現場に向かおう!」


「そうですね。携帯食料はこちらの協会で準備してくれるそうです。それ以外の武器防具メンテナンスをしてから現場に向かうということで」


「食料の準備助かるー。えっと、武器、防具、耐久度問題なし。念のための修復キット……も在庫十分。ポーション系、ちょっと心もとないので買い足そう。ドローンの充電も問題なし。配信予約しちゃっていい? あ、極秘ミッションだけど配信OKかな?」


「確認します」


 さすがにダメかな?

 イングランド国民のみなさんに不安を与えたらまずいし……。


「大丈夫だそうです。ただし、バッキンガムパレスの地下であることは伏せてほしいと」


「なるほど。それならダンジョンに入ってから配信スタートすれば大丈夫かな」


 イングランドの某所って感じでいけば問題なさそう。

 よし、ポーションだけ用意して現場に向かおう!

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