第17話 全力の溜め斬りの威力

 4階に降りる。

 ここに生息しているのはハンマーコボルトだ。

 アックスコボルトとメイスコボルトに比べると、武器が小さく、小回りが利く。注意しないと囲まれてタコ殴り、なんてことも起きうるかもしれない。

 大剣はあまりたくさんのモンスターに囲まれるのには適していない。その辺りを気をつけないとね。


「おっと、アックスコボルト5体かあ」


 言っているそばから結構な数。どうしようか。


「迷ってますか?」


 動き出さないわたしを見て、ライトお姉ちゃんが声をかけてくる。


「うーん、囲まれないように倒すにはどうしたらいいかなーって」


「素早く刀を取り回すには『止め』を覚えましたね?」


「はいー」


「ではその逆も意識的に使えるようになるといいですね」


 逆。

 つまり止めない。

 止めないと威力が増すけれど、隙が大きくなる。


「あ、そか。1階の時の――」


 剣圧で攻撃する!


 ライトお姉ちゃんのほうを見ると、小さくうなずいてくれた。


「アクア、いきます!」


 ハンマーコボルトは前に3体、後ろに2体の構成。

 前の真ん中にターゲットを絞る!


 レーヴァテインをしっかりと背負う。体を限界まで反らせて弓のように引き絞ってから、一気に力を解放する。

 ターゲットはハンマーコボルトの足元の地面。ハンマーコボルトの足元を砕いて5階まで到達するつもりで刀を振り下ろした。

 

 ハンマーコボルトを斬った感触はない。

 地面を叩き割る感触。手首から肩辺りまでビリビリと電気が走ったような衝撃。

 と、同時に剣圧が放射状に爆風となって広がっていくのを感知した。


“すげー!全部消し飛んだ!”

“地面に大穴空いてるんですけど……”

“アクア様の溜め斬りやべーな”

“こんな威力初めて見たわ”

“こいつはマックス超えたんじゃねえか?”

“ラストアタックの二つ名を襲名か?”

“あいつの二つ名だと汚名感があるなw”


「すばらしいですね。威力はお姉ちゃんの予想以上でしたよ。これならボスクラスにも通用するパワーですね」


 背中のほうからライトお姉ちゃんの声がかかる。

 でも、わたしはいまだ剣を振り下ろしたまま動けずにいた。


「し、しびれた……」


 両腕がしびれて剣が持ち上がらない。

 それと、自分の放った一撃の威力にちょっとビビってしまっていた。

 

 わたしにこんな力が……。

 レーヴァテインの性能ありきだけど、それでもここまでやれるなんて。


「魔力伝導率が高い武器なら、魔法の属性付与をして今の攻撃をすると、さらに威力が増しますよ」


「属性付与かあ」


 もえきゅん☆がよくやってくれたなあ。


「わたしも補助魔法を習得したほうがいいってことですよね?」


「そうですね。自分で自分を補助できたほうがソロ攻略は捗ると思いますよ」


「ライトお姉ちゃんはどうしてるの?」


 No.1の戦い方を知っておきたい。


「私ですか。お姉ちゃんは火と水しか魔法が使えないので、モンスターの属性を見て有効な時に炎と氷を付与するくらいですね。基本的にパーティーメンバーにお任せです」


「なるほどー。わたしはどうしようかな……」


「魔法は適正もありますから、協会で適性を調べてもらうのが早いと思いますよ。努力では習得できないものもありますからね」


「帰ったら確認してもらいます!」


 とはいっても、少し前まで火と風と雷は使えたから、それは覚えなおしできそうかな。他もいくつか取れるといいんだけどなあ。

 あ、光ももえきゅん☆の魔法をトレースして覚えられたから、もう少し伸ばせそうかな。

 魔法は基礎から習得するより≪Order change≫でトレースしたいなあ。そのほうが楽できるし……。

 配信終えたらライトお姉ちゃんに火と水をトレースさせてもらおう。


「今日のところはお姉ちゃんが付与してあげましょう」


「ありがとう、ライトお姉ちゃん!」


 ようやく腕のしびれが取れてきた。


「ねえ、お姉ちゃん」


「なんですか、My babe?」


「さっきの一撃でずっと腕が痺れてたんだけど、これってどうにかならないもの?」


 こんな調子だと実戦での使用は厳しいのでは?


「本当の本当にLast Attackを決めるなら、さっきのように振りぬくのですよ。とどめですから、多少腕が痺れるのは仕方ないです」


「なるほどー」


「でも、その手前に大ダメージを与えたい。まだとどめを刺す攻撃ではないなら、もう1段威力を落として、自分に衝撃が返ってこないくらいの攻撃に調整するのですよ」


「なんて難しいことを!」


「それができて初めて、大剣マスターの称号を与えるにふさわしい」


“大剣マスター!”

“そんな称号あったっけ?”

“さあ、聞いたことない”

“マスター!”

“威力調整か”

“初心者に難しいことを要求する”

“もうすでに初心者の動きじゃないんだが”


 大剣マスターになりたいなあ。

 手が痺れない程度の全力ってどんなもんだろう……。

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