アイドルに恋した女の子の話～本人公認なりきりプレイでペア♡ダンジョン攻略中～

第16話 ゴリラじゃないもん

　1階をめちゃくちゃにしながら2階へと降りたあたりで、コメント欄の人たちにおかしなあだ名をつけられてしまった……。

　だって……力の加減がわからないんだもん……。

“ゴリア様ー！”

“ゴリア様さいくぅ！”

“ゴリア様いっちょダンジョンごと攻略しちゃってくださいよーｗ”

“やっぱダンジョン攻略はダンジョンごと破壊だよなｗ”

“≪彼女はおもしろいね≫”

“She is a gorilla！”

「ゴリラじゃないもん……」

　悲しい。

　こんなにかわいいアクア様なのに……。

「まだまだ剣に振り回されてしまってますね」

　ライトお姉ちゃんが微笑む。

　うーん。なんていうか、これって聖剣レーヴァテインが強すぎるのが原因じゃない？

「いいですか？　全力で振りぬいてしまうと、次の動作が遅くなります。振った後もしっかり止める。止めてまた振る。そして止める」

　無刀の状態で型を披露してくれる。

　美しい。流れるような動作。

「止める。止めるところにも筋力がいるのね……」

　振り出しのところですべて使い切っていたかも。

　重量がある大剣は奥が深いなあ。

　振って止める。振って止める。何度か素振りでやってみる。

　止めるときのほうがとても重たく感じる。

「理想的に思い描いたところで攻撃を止められれば、そこから次の動作に淀みなく進めるのです」

　なるほど。

　返しも薙ぎも、振りぬかず止めていればそこから動作が移りやすい。

“マジ参考になる”

“ライトさんありがとうございます！”

“基本の基本だけどこういうこと初めて聞いたわ”

“何割か力を残して振らないと止められないな”

“止める力。なるほど！”

“さすが世界No.1だ”

“USA！USA！”

“≪USA! USA!≫”

“外人ニキもノリがいいなｗｗ”

　向こうからモンスターが歩いてくる。

　ちょうどいい、止めの練習をさせてもらおう。

　2階はアックスコボルトが生息しているようだ。

　1階の棍棒を持ったコボルトよりは強そうだけど、ステータスはほとんど同じ、かな？

　速度はわたしのほうが速い。だから大丈夫。

「行きます！」

　レーヴァテインを背負い、ダッシュで距離をつめる。

　刀を背負った状態から振り下ろして、アックスコボルトの腰辺りで止めるイメージ。

「いけっ！」

　アックスコボルトの頭を勝ち割り、腰の辺りで止める！

「アウチ……」

　剣先の勢いがうまく殺せず、思ったよりも下まで切り裂いてしまった。

「手首の強度かなあ。剣先が思ったよりも下に持ってかれてしまった……」

「とくに右手の握り方に注意ですね。横から握らないように。上からそっとかぶせるイメージです」

「こう、ですか？」

　　手首をひねらずに上から乗せる。

「そうです。いいですよ。振り出しは左手を主体に握りこみ、右手は方向を制御します。止めるときに右の手首にしっかりと力を入れます。でもひねって横握りにならないように気をつけてください」

「了解！」

　素振りして感触を確かめる。

　なるほど、右手。

　さっきよりもスムーズに止められるようになった気がする。

　そんなこんなで、アックスコボルトが現れては止めの練習をしながら3階へと進む。

　わりと上達したんじゃない⁉

*　*　*

「3階では縦斬りではなく、必ず右薙ぎから入って縦斬りにつなげてみましょう」

「右薙ぎから……」

「うまく力が使えていれば、横に2つ、縦に2つ。きれいな4つ割りにできるはずです」

　なるほどね。流れるように薙いでコボルトの体が吹っ飛ばないうちに頭から斬りつけられれば4つ割りになる、か。

　やってみよう！

　3階はメイスコボルトかあ。

　アックスよりもパワー系なのかな。

　どっちしてもたいしたことはなさそう。

「行きます！」

　薙いで、縦斬り！

「あれー？」

　腰から下が吹き飛んで上半身2つしか残っていない……。

　おかしいな。何かが違う。

「薙ぎは水平に。剣は返さずに腰の回転です。入りがブレると余計な力が必要になります」

　水平。そして腰の回転。

　なるほど。

　剣の横移動じゃないのね。

「了解！　次、行きます！」

　言われた通り、剣は構えたまま、腰の回転で薙ぐ！

「おお！　できました！」

「いいですね！　その調子です！」

　ライトお姉ちゃんグッドマークを出してくれた。

　やったー！

“おお！　ゴリア様が剣術マスターに！”

“力任せに殴りつけていたゴリア様が！”

“あっという間に上達していくなあ”

“もう少しウホウホしててくれてもいいのに”

“教え方がうまいんだろうな”

“この動画を見るだけで大剣マスターになれるんじゃね？”

“あるあるｗ”

「ゴリラじゃないもん！」

　ホント失礼しちゃう。