第14話 大剣デビューします!

「Good morning! 今日は配信を始める前に、まずは大剣の練習をしましょう」


 次の日の早朝。

 ライトお姉ちゃんに連れられて、鎌倉A1ダンジョンにきていた。


「Avatar 03は作っておきました! まだまっさらだけど」


 作った、とはいっても、アバターをコピーするだけなのでたいして時間もかからなかった。

 すでにAvatar 01でアクア様のイメージは出来上がっているから、生成にかかるコストが低いみたい。今のところアバター作成の上限って感じもないので、まだまだ量産できそうなのは良い情報だ。


「Good job! ではさっそく武器を構えて、私のマネをしてみてください」


「≪Order change≫ to Avatar 03.」


『Ready as ordered.』


 わたしはAvatar 03に換装する。

 双剣スキル、投擲スキル使用不可。習得済み魔法スキルすべて使用不可。

 まっさらなアバターだ。


 ライトお姉ちゃんが剣術の基本の型を教えてくれた。

 まずは素振りだ。


「こう、かな」


 見よう見まねで剣をふるう。

 昨日借りたレーヴァテインはやっぱりちょっと重たい。


「違います。こう、です」


 腰を前に突き出すようにクイッ。

 そして背中に背負った刀を振りかぶってまっすぐ振り下ろす。


 なるほど。遠心力。


「良い調子です。続けて~。1~」


「はい!」


 なんか剣道の道場みたい。

 通ったことないけど。



 何十回目の素振りだろうか。

 スキル習得の感覚がくる。


「あ、スキル取れました!」


「OKです」


 スキル欄を確認すると、大剣レベル10が表示されていた。


「え、あ、大剣レベル10⁉」


 いきなり10って⁉


「アクア様、さてはスキルポイント余らせてますね?」


「あ、はい。もえきゅん☆から余分に渡されてるポイントがけっこう……」


 たしか1000万ポイントくらい?


「モエならやりそうなことですね……。ですが、そのおかげでスキル習熟の時間は不要なのでポジティブに考えましょう!」


「そう、なんですね……」


 その辺がいまいちわかっていない。


「スキルレベルが高いとやっぱり良いことがあるんですか?」


「基本的にデメリットはありませんね。レアリティの高い武器には、固有の限定スキルが付与されているものがあります。それは大抵、基本の武器レベルや魔法スキルレベルを求めてきますから」


「あ、そういえば鳳凰の双剣がそうでした!」


 鳳凰の双剣は、双剣レベルと投擲レベルが10だとフェニックスの意思が発動する。

 なるほど、そういうことね。


「それ以外にも、基本武器レベルが高いほうが武器の扱いがうまくできます。これは口で言っても伝わりにくいので、実践してみましょう」


 ライトお姉ちゃんが前方を指さす。

 コボルトが3体、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「戦ってみてください。まずはさっき教えた基本の型だけで倒すのですよ」


「了解!」


 コボルトに対して一気に間合いをつめる。

 わたしの基本ステータスは、どのアバターを装着していても共通だ。1階のコボルトより、断然わたしのほうが足が速い。


 一瞬で剣の間合いに入る。

 ライトお姉ちゃんから教わった通りやるだけ。

 刀を背負って振りかぶってから、思い切り振り下ろした。


 聖剣レーヴァテインが、コボルトを頭から真っ二つにする。刀は振り下ろした勢いそのままに、地面に深々と突き刺さった。その衝撃で空気が揺れ、地響きが辺りにこだまする。

 ちなみに、刀の余波で周りの2体は跡形もなく消し飛んだ。


「え、すご……」


「わかりましたか? スキル習得前と習得後の違いです」


「なるほど。威力も速さもぜんぜん違います。これが武器レベル……」


「あとは他の型をいくつかと、私のよく使うコンボのつなげ方も教えておきます。レベル10なら、一度マネしたらすべて体に記憶できるはずです」


 レベル10ってすごい。


 それから、薙ぎや回転斬りなどいくつかの型とコンボ技を教えてもらった。



「これで、大剣で教えることはもう何もないですね。では5階のコボルトリーダーを目指して配信をしましょう!」


 なんと30分も経たないうちに、わたしは大剣の達人になってしまった。ようだ。実感なし。


「すごい……これでもう卒業なのね。じゃあさっそく配信の準備するね」



* * *


「んんっ、おはよう≪ドル箱ちゃん≫たち、元気かしら。柊アクアよ。今日もライトお姉ちゃんと一緒に配信していくわ」


「Good morning. ライトお姉ちゃんですよ~♡ Well……アクア様? 急に気取ったしゃべり方ですね。どうしましたか?」


「しっ、キャラだから。ホントはわたしこういうキャラなの!」


 そっと耳打ちする。

 アクア様はクールでかっこいいキャラなんだからねっ!


“おはようございます! ¥1000”

“打ち合わせ聞こえてるからw”

“最近アクア様がかわいくなっている件についてwww ¥2000”

“普通に義妹キャラのほうがしっくり来てしまうw”

“それなwww”



「ほ、ほら、ライトお姉ちゃんが変なこと言うから!」


「アクア様はかわいい私の妹ですよ♡」


 ライトお姉ちゃんがわたしの縦ロールを引っ張って遊んでいる。

 

 まったく話聞いてないなあ。アクア様の神聖なキャラ設定が……。


「おほんっ! とにかく、今日はここ、鎌倉A1ダンジョンに来ているわ。昨日の予告通り、剣を使っての特訓を開始するので、温かい目で見守ってちょうだい」


“はーい”

“見守ろう、ひな鳥を ¥2000”

“アクア育成計画 ¥3000”

“初心者なら俺でもアドバイスできるか?”

“ライトさんがいるじゃろw”


「実は少し前に着いていて、ここで練習してたの。配信する前にライトお姉ちゃんから基本の型を教えてもらって素振りをしてました」


「アクア様はなかなか筋が良いですよ。もう私に教えることは何もないくらいです」


「ちょっと! ハードル上げないでよ! 失敗したらかっこ悪いじゃない」


「大丈夫ですよ。私の技はすべて叩き込みましたから」


 ライトお姉ちゃんはニコニコしながら言う。

 心の底からそう思っているのか、リラックスさせようとしてくれているだけなのか……。


「今日の配信で私は何も手出ししません。ほら、武器も持ってないです」


 そう言って両手を広げて丸腰をアピールする。

 たしかに手には何も武器を持っていないし、背中に鎌も背負っていない。


「近接戦闘だけっていうのは初めてだけど、精一杯がんばるので応援よろしく頼むわ!」


 わたし、大剣デビューがんばります!

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