第8話 お姉ちゃん
「もえきゅん☆は神獣ケートスと交戦後、行方不明になりました。おそらくケートスの空間移動に巻き込まれた、との見方です」
「そこまでは私にも把握できています。行先について日本の協会は何と言っていましたか?」
ライトさんがすがるような目で訴えかけてくる。
わたしは小さく首を振った。
「ごめんなさい。何も……」
「そう、ですか……。妹は本当にいなくなってしまったのですね……。聞きたいことはこれで終わりです。お邪魔しました。さようなら」
ライトさんは失望した様子で、わたしに背中を向ける。
「待ってください! もえきゅん☆はいなくなっていないです。ケートスと一緒に空間移動をしている。日本の冒険者協会は、もえきゅん☆の無事を確信しているようです」
「Really? それはどういうことですか⁉」
速い!
ライトさんが瞬間移動のような速度で距離を詰め、わたしの肩をつかんでいた。
「わたしも詳しい説明は受けていなくて……。でもケートスを中心に発生する一定の空間内は、異なる時間軸がなんとかかんとかで、時空泡がなんとかかんとかしてるから生命の生存が保証されているという説明で……」
ごめんなさい、わたしの頭では如月さんの説明がちゃんと理解できていないの……。
「その情報は信じていい、のですね? モエはケートスとともに行動していれば生きている可能性が高い、と?」
肩をつかむ力が強くなる。
「わたしはその言葉を信じています。だから――」
わたしは力任せにライトさんの手を剥す。
そして、逆にライトさんを力強く抱きしめた。
「わたしは! 次にケートスともえきゅん☆が地球上に現れた時に、絶対にこの手でもえきゅん☆を奪還する! そのためにわたしはSランク冒険者になるんです!」
ライトさんはしばらく脱力していた。
一緒にもえきゅん☆を救いましょう。
その想いを乗せて、力いっぱい抱きしめ続ける。
「……わかりました」
しばらくして、ライトさんはわたしの腰に手を回し、抱きしめ返してきた。
「モエはこんなにも頼もしいパートナーを見つけたのですね。姉としてうれしいです! アクア様に感謝を。私もモエを救いたい! できることは何でもします」
涙声でそう言い、わたしの腰を絞めつけるように抱きしめてくる。
圧倒されていると、そのまま抱きかかえられて足が宙に浮いてしまった。
いや、ちょっと! 力強っ!
「えっと、アメリカの協会にはもえきゅん☆が行方不明なことを言わないでほしいです。それと、ケートス大規模討伐隊への参加をお願いしたいです!」
No.1冒険者のライトさんがいれば、それだけもえきゅん☆奪還の可能性が高まる!
「もちろんです! 私が先頭に立ちます!」
「それはダメですっ! 先頭に立つのはこの柊アクアですっ!」
ライトさんはわたしのことをストンと地面に下ろす。
「アクア様。この私に勝てるとでも?」
これは挑発だ。
受けて立つ!
「勝てる! それは今じゃないけど、ケートス出現までにはあなたに勝ってみせる! もえきゅん☆への愛は絶対に負けない!」
わたしは精一杯の眼力でライトさんをにらみつけた。
ライトさんはキョトンとした顔でしばらくわたしの顔を見つめた後、破顔した。
「これは勝てませんね。愛の力、ですか? あなたはモエのことを愛しているのですね」
「そうです! 愛しています! おおおおお姉ちゃん!」
「私のことを姉と呼びますか……。そうですか……。ところでアクア様、あなたが身に着けているのは特殊なアバターですね? もしよければ素顔を見せてもらってもいいですか?」
そうか……もえきゅん☆の家族に愛を語るのに素顔でないのは失礼かもしれない。
たしかにそうだ。
わたしはそそくさと岩陰に隠れて、透明な冒険者スーツを脱ぐ。そしてアクア様のアバターを解いた。
さすがにお姉ちゃんの目の前でもストリップショーはちょっと……ね。
岩陰から顔を出し、素顔のまま挨拶をする。
「火野麻衣華です。はじめまして」
はじめまして、で良かったんだよね? やっぱり素顔は照れる……。
「Oh! What a cute girl!」
英語⁉
あれ? 翻訳こんにゃくドリンクは⁉
「マイカ~! 素顔のほうがベリーキュートですよ! I see.モエの好みと私の好みは似ているようですねっ!」
音速、いや、光速に迫る速度でライトさんがわたしに距離を詰め、がっちり手を握られてしまった。
ライトさんの突撃の風圧だけで、わたしの着替え場所だった岩が木っ端みじんに!
うわっ、鼻息がめちゃくちゃ荒い!
何なのこの人⁉
さっきまでのクールビューティーがどこへやら。
あーというか、この感じ……もえきゅん☆そっくりだわ……。
「マイカ~♡」
「は、はいっ!」
「お姉ちゃんと呼んでいいですよ♡」
やった!
認められたあ!
「お姉ちゃん♡」
「マイカ~♡」
わたしはライトお姉ちゃんに再び抱きしめられる。
そして、キスされた。
唇に……! マウストゥマウスで! 触れるような一瞬だったけど……。
わたしのファーストキスがっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます