第9話 お姉ちゃんとわたし

 ライトお姉ちゃんにキスされた……。

 わたしの大事なファーストキスが!


「Oh! Sorry. 日本ではキスは神聖なもの、でしたね。ついいつもの癖で。家族のキスはノーカウント、ですよね? でも、こっちにしましょうね」


 ライトお姉ちゃんによるほっぺたに無限キスラッシュ!


「ちょっとちょっとちょっと! お姉ちゃん落ち着いて!」


 慌ててライトお姉ちゃんの肩をつかんで軽く突き飛ばす。

 どうどうどう。


「待って待って。落ち着いてお話ししよ?」


 わたしのことを認めてくれたのはうれしいけど、めちゃくちゃ一気に距離縮めてくるのはさすがに困る。もうちょっと段階を踏んで仲良く……。


「Sorry. ついうれしくて。いつもモエに怒られています。日本ではキス魔って言うらしいですね」


「もえきゅん☆に怒られるなんて……。まあ? もえきゅん☆も大概似たようなものだから、そこは姉妹なんですね……」


 もえきゅん☆はキス魔ってわけじゃないけど、すぐ抱きついてくるし、耳を噛んでくるし。わたしはうれしいけどねっ!


「モエが小さかった頃は『お姉ちゃんお姉ちゃん』とほっぺにキスをしてくれたものです。懐かしいです」


 うわー、ちっちゃい頃のもえきゅん☆見たかったー! 絶対天使だよね!


「今では立派になってしまって……。父に着いていった日本で冒険者になるなんて思っても見なかったですよ」


 ライトお姉ちゃんは感慨深げに深くうなずいていた。

 そうかあ、もえきゅん☆はお父さんと一緒に行動しているのね。


「もえきゅん☆はもともとアメリカにいたんですか?」


「産まれたのは日本でしたが、育ったのはアメリカですね。モエが10歳になるまではマイアミを拠点にしていました」


「マイアミですかー。リゾートのイメージかなあ」


 海がきれいとか、陽気な音楽とか、そんなイメージを持っている。


「モエは5歳くらいの時に冒険者としての力に目覚めました。すぐに魔法の才能がずば抜けて高いことがわかりました。7歳の時には長距離転移を使えるようになっていましたから、どこに住んでいるかはあまり関係なかったですね」


「7歳の時にすでに……。もえきゅん☆すごいなあ」


「魔法の基礎は私が教えたんですよ。今ではすっかり超えられてしまいましたけれどね」


「姉妹で一緒に冒険者活動をしていたんですか?」


「そうですね。モエが日本に拠点を移すまではずっと一緒でした。楽しかった日々です」


 そう言って、少し淋しそうに目を伏せる。


「つらかったですね……」


「でも仕方がないことだったんです。私とモエが同時にアメリカ所属となると、『世界のバランスが崩れる』父はそう言ってモエを連れて日本に渡りました」


 その世界のバランスというやつは、姉妹を引き離さないといけないほど大事なことなのだろうか。

 みんな仲良く暮らせればいいのに……。


「日本の冒険者協会は、モエという力を得て、この10年ほどの間に急速に勢力を拡大しました」


「もえきゅん☆の影響力はすごいんですね……」


「モエの才能は目を見張るものがあります。マイカもステータスをいじられましたね?」


「えっと、はい」


 お姉ちゃんだからそれも知っていて当然よね。


「その力を使って、才能のある若者たちを底上げしていった結果が今の日本なのです」


 なるほど。

 そうでなければ大国アメリカの協会に匹敵するような力は持たないかあ。


「現に、この10年の間にモエ以外に日本で3人ものSランク冒険者が認定されています」


「今は2人になってしまいましたけど……」


 1人は自業自得だから、あれだけど。


「ニシゴーリは不幸な事故でした。彼ほどの実力があれば、簡単に精神汚染されることはなかった。でも、逃げ遅れた他の冒険者をかばってまともにケートスの精神攻撃を受けてしまったんです……」


 そう、だったんだ……。

 立派な人だったんだ。

 まだあったことはないけれど、いつかニシゴーリさんにもお会いしたい。話ができる状態なら……。


「ただ、マックスは私がぶっ殺してやろうと思ってます……ました」


 ライトお姉ちゃんの目が怪しく光る……背中の鎌もなんかやばいオーラが立ち上っているんですけど⁉

 物騒すぎる!


「でも、アクア様……マイカが懲らしめてくれたんですよね? ニュースで確認しました。ありがとう。この手でぶっ殺さずにすみました」


「え、えっと、どういたしまして? わたしもマックスのことは許せなくて……なんとか倒しました」


「Amazing! 嫌な人間でしたが、彼の実力は本物でした。基礎の力は並みですが、パーティーでの役割を担ううえでとてもユニークな働きをしていました。あれはモエのアイディアですね」


 一撃必殺の力を持つ男。

 ラストアタックを任せられるということは、必ず自分たちが勝利できるということだ。なんて頼もしいんだろう。あんな性格じゃなければねっ!


「でも、やっぱり嫌いです。もえきゅん☆が嫌がってるのにあんなに求婚して……」


「奇遇ですね。私も嫌いです。あんな小物、モエにはふさわしくない」


 Sランク冒険者をしても小物、か。

 まあ、なんかわかるけど。


「もえきゅん☆のことは誰にも渡したくないです! もし他にストーカー野郎が現れてもわたしがぶん殴ってやります!」


 そのためのオリジナルコンボも完成済みだから!


「頼もしいですね。そうだ! しばらくの間、お姉ちゃんがマイカのことを鍛えてあげましょう!」


「へっ?」


「ケートスを倒すために、私を超えるんですよね?」


 ライトお姉ちゃんは挑発するようにわたしのほうを見てくる。


「絶対超えますっ!」


「じゃあ決まりですね。しばらくの間ペアを組んで一緒にダンジョンを回りましょう!」


 え、え、えええええええ⁉

 世界No.1のライトお姉ちゃんとペアを組むの⁉

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