第10話 生配信再開

「えーと、生配信を再開します。みなさんお待たせしました」


 中断していた配信を再開した。


「Hello everyone. さっきぶりですね~」


 当然のようにライトお姉ちゃんがわたしの隣に立って手を振っていた。


“再開乙”

“まってました ¥3000”

“プライベートな話は解決?”

“1時間半けっこう長かったな”

“ライトも出演再び ¥5000”

“仲良さげ?”

“なぜ手をつなぐw”

“さっきそのままバトルしそうな勢いだったのにw”

“平和的解決か?”



「えー、簡単に説明をしようかなと思います」


 何をどう説明しようか。

 もえきゅん☆のことは言わずにうまく説明するには……。


「アクア様が私の妹になりました~! みんな大好き義妹ですよ~。Hey! 拍手~」


 ええええええ! そこー⁉


”妹!”

“なんだって⁉”

“義妹(ゴクリ) ¥10000”

“プライベートな話って何だよ……”

“兄弟の盃みたいなもんなのか”

“どうしてこうなった”

“義妹!甘美な響き! ¥10000”

”義妹には何してもOKという風潮 ¥3000”

”義妹!義妹!”


「そう! 義妹だから何をしてもOK! 日本にはそういう掟があると聞いてます! ちゅっちゅっ♡」


 ライトお姉ちゃんの唇がわたしのほっぺたをついばみ始める。

 カメラの前でちょっと! もうやめなさいって!


「そんな掟ないから! ちょっとライトお姉ちゃんやめてってば!」


“うぉおぉぉぉぉ義妹さいこぉぉぉぉぉぉ”

“ライトお姉ちゃんグッジョブ!”

“USA!USA!”

“もしかしてNTR?”

“お姉ちゃん最高!”

“もえきゅん☆がいない間にとんでもない展開に!”

“けしからんけしからん! ¥100000”

“アメリカしゅごい”


「違うから! そういうのじゃないから! ライトお姉ちゃんがキス魔で困ってるのよ!」


「私はキス魔ですよ♡」


 ライトお姉ちゃんがさらに絡みついてくる。

 もう話が進まない……。


「お姉ちゃんお座り! Sit down!」


「Bow-wow♡」


 ライトお姉ちゃんがおとなしくしゃがみこむ。


 ふう、これでよし、と。


“座った”

“世界No.1がいうことを聞いた”

“義妹パワー! ¥5000”

“日本!日本!”

“日本が勝った!歴史的瞬間だ! ¥3000”

“アクア様~”


「いい? ちょっとまじめな話をするわよ?」


 ライトお姉ちゃんも含めて悪ふざけの状態から一度クールダウンさせないと。

 この後の大切な話。


「配信を中断する前に、ソロでAランクダンジョンを回る、って言ったんだけど、アメリカからやってきたライト……さんがわたしを指導してくださることになって……しばらく一緒にダンジョンを回ることになりました!」


“朗報!”

“ライトが日本で活動を!”

“大ニュースやんけ!”

“Sランクだから他国でも活動許可が下りるのか”

“歴史的瞬間だなあ”

“拡散しなきゃ!”


「ライトさんの妹さんが日本で行方不明になっているらしいので、その捜索をしながらという形で……」


 言い訳が苦しいかな……。

 

「アクア様が、『わたしが代わりにあなたの妹になります』って言ってくれました♡」


「え、あ、はい。まあそういうことで……。ライトさんしばらくよろしくお願いします」


「No. アクア様? 呼び方が違いますよ?」


 ライトお姉ちゃんがめちゃくちゃニヤニヤしている。

 どうしてもカメラの前で言わせようってことなのね……。くぅ。


「ライト……お姉ちゃん」


「なんですか? 声が小さくて聞こえませんでした」


「ライトお姉ちゃん! わたしをダンジョンに連れてって!」


「Very cute♡ お姉ちゃんですよ♡ ちゅ~♡」


 15万人の前での羞恥プレイ……。

 コメント欄の人たちの脳が破壊されてしまって、もはや読める文字が書き込まれていなかった……。

 意味がわからない金額のスパチャが飛び交っているけれど、もう放っておこう。あ、スパチャ自体はうれしい! 活動資金すっからかんだからね……。でも、わたしまだダンジョン内で配信してないんだけど……。


「はあ、つかれた……」


「アクア様つかれちゃいましたか? お姉ちゃんが抱っこしましょうか?」


「そういうのは大丈夫です……。疲れたのは精神的にです」


 相当な実力者なんだろうけど、一緒にやっていけるのか不安になる……。

 もえきゅん☆とは違ってアタッカーのはずだから、どうやって組んだらいいんだろう。

 2人で一気に攻撃?

 うーん、それだけだと支援系のバフもないしなあ。


「今日は軽くそこのダンジョンでアクア様の実力を見せてもらいますね。それから、今後の動き方を話し合いましょう」


「は、はい!」


 わたしの苦悩を見透かすかのようにライトお姉ちゃんがリードしてくれた。

 頼もしい……。さすがもえきゅん☆のお姉ちゃん。


「目指しているボスは何階ですか?」


「10階のエンジェリックリリィですけど」


「I see. Good choiceですね」


 ライトお姉ちゃんがウインクしてくる。

 

 やばっ。もえきゅん☆並みに魅了の魔法かけてくるじゃないの……。まつげから風出てるよ……。

 相変わらずコメント欄はもう機能してないし。

 みんな戻ってこーい。


「10階までいっきにいきますよ。しっかりと私についてきてくださいね!」


 言うが早いか、ライトお姉ちゃんはダンジョンの入り口に向かって走り出した。


「ちょっと、ライトお姉ちゃん⁉ さ、早速ですが、これからダンジョン攻略始めます!」


 一応ドローンカメラに向かって挨拶をしてから、わたしも後を追う。

 どうなってしまうことやら……。

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