第11話 世界No.1の実力

 これが世界No.1と言われるライトお姉ちゃんの実力……。


 もえきゅん☆のように妖精の羽が生えて飛んだりはしない。

 わたしのようにフェニックスを使っての変則3点攻撃をしたりもしない。


 ただ、純粋に鎌の一振りですべてを圧倒していた。


「ライトお姉ちゃんすごい……」


 わたしは、燃と焔につかまって飛んでいるだけで、ついていくのが精いっぱいだった。

 ライトお姉ちゃんが巨大な鎌を振る度に、お姉ちゃんを中心に360度すべてのモンスターが一瞬で消えていくのだ。

 それでいて範囲内に存在しているわたしには、なぜか攻撃が当たっていない。


「これはいったいどんな攻撃なの?」


「これはDeath Scythe(デスサイズ)です。日本語で言うと死神の大鎌ですね」


「死神……」


 禍々しいオーラが立ち上っているのはそういうわけか。


「悪い子の魂を問答無用で刈り取っちゃう便利アイテムなのです!」


 ライトお姉ちゃんは、めちゃくちゃ明るいテンションだった。

 でも、やばすぎる話をしているんですが。


“デスサイズか、なまえもすげーな”

“たまに背中に背負ってる動画が出回るけど、使ってるところはあまり出回らない”

“確かに使ってるところは初めて見た”

“普段は普通の長剣で戦うイメージ?”

“わりとシンプルな立ち回りだよな”

“だから強さが際立つんだけど”


「悪い子、とは……モンスターのことなの?」


「No. 私に敵意を向けてくる相手はすべて対象になります」


 わーお。

 それだと悪い冒険者もみんな死んじゃうね……。それで、ライト・ザ・リッパーか。切り裂きジャックになぞらえているのね。


「もしかしてボスもいけちゃう?」


「場合によりけり」


「場合ですか。日本語上手」


「Aランクのボスモンスターでも精神抵抗値が低くければ、さっくり♡」


 なるほど。

 やはり精神攻撃の類なのね。

 

 そうか、そうなると……ケートスとは相性があまり良くない。


「他の攻撃手段はー?」


 大鎌しかないとすると、ケートス戦をにらんで対策をしていかないと……。


「私を誰だと思っているんですか? Death Scytheは雑魚専です。本命の武器はこっちです」


 と、ライトお姉ちゃんは大鎌を背負うと、2本の小さな鎌を取り出した。


「それは……?」


「Death Sickle(デスシックル)」


 ドヤ顔で手をクロスさせて鎌を構える。


「いや、あの……ボケなくて大丈夫なんで」


 絶対デスサイズのほうが強いよね……。草刈り用の鎌にしか見えないし。


「アクア様のいじわる~♡ これはこれで小回りが利いて便利なんですよ!」


 そうですか。


“突然の姉妹コント ¥1000”

“姉と義妹、何も起こらないわけもなく ¥1000”

“あらいいですね~ ¥1000”

“普通は何も起こらねーよ?”

“普通じゃない!”

“何を刈り取るんでしょうかねえええ”

”そりゃ命だろ”

“義妹の命は刈り取ったらあかん”


 コメントしてる人たちは何を期待しているんだろ……。


「しかたないですね。普段はこれです」


 そう言って、ライトお姉ちゃんは長剣を取り出した。

 黄金の柄にたくさんの宝石が埋め込まれていて、眩しく光っている。レア度が高い貴重な刀。一目見ただけでわかる。


「高価そうな刀ね?」


「聖剣デュランダルです。世界に1つだけのユニークソードですよ」


 聖剣デュランダル。

 聞いたことはある、気がする。


“デュランダルなー。通りで強いわけだ”

“デュランダル知らなかったのか?”

“世界1位だからエクスカリバー持ってるのかと思ってたw”

“エクスカリバーはどこのダンジョンでもまだ見つかってないからな”

“見つけたら一攫千金!”

“マジでそれ目当てでレアハンターやってるやつ多いよ”

“それよりデュランダル”

“不滅の聖剣な。絶対折れないって逸話の”

“シャルルマーニュ十二勇士のローランが持っていた聖剣”

“歴史詳しいニキ多くて助かる ¥5000”


 詳しい人がいて助かる。

 有名な聖剣だってことはわかったわ。


「デュランダルは最強の刀ですからね。絶対に力負けしないです!」


「お姉ちゃんかっこいい!」


「Thanks. お姉ちゃんがんばっちゃいます♡」


 ライトお姉ちゃんは、デュランダルを構えたまま飛び出す。音速を超えてどこかに走り去ってしまった。


「待ってよー。ライトお姉ちゃん、おいてかないでー」


 わたしは慌てて後を追いかける。


“アクア様完全に義妹ムーブだなw”

“クールキャラどこいったwww”

“もえきゅん☆といい、ライトといい、アクア様って見てるとわりと受け身だよなw”

“だがそれがいい! ¥2000”

“Vの時だともっとキリッとしてるのにwww”

“あれじゃね?コラボ配信しなかった理由ってこれじゃね?”

“Sキャラ崩壊するもんなwww”


 言いたい放題言ってくれちゃってー。

 しかたないじゃない! わたしだって一生懸命やってるのに……。


 わたしなりのアクア様をがんばるしかないんだよね……。



* * *


「アクア様。10階につきましたよ。エンジェリックリリィいますから、ソロ討伐お願いします」


 ライトお姉ちゃんがデュランダルをしまいながら言う。


「あ、そういうこと。ここはわたしがソロで。それで実力を見てもらうって話ね」


 そういえばそういう話だった。

 ライトお姉ちゃんが1人でこのダンジョンを攻略しても何も得られないんだった。


「Yes. 楽しみにしてますよ♡」


「了解! アクア行くわ!」


 わたしの実力、ちゃんと見ていてちょうだい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る