第6話 ≪生配信≫重要なお知らせ
「みなさんこんばんは。柊アクアです」
20時。
わたしは1人、とあるダンジョン前で配信を開始した。
“重要なお知らせときいて ¥10000”
“あれ?アクア様1人?”
“もえきゅん☆もえきゅん☆……もえきゅん☆? ¥5000”
“最近Vの配信がなくて悲しい ¥2000”
“元気ですか? ¥20000”
“良い発表?悪い発表?”
“久しぶりの配信楽しみ ¥50000”
開始してあっという間に7万人。
たくさんの人が注目してくれているのがわかる。でもこれは、すべてもえきゅん☆の力だ。
ここからはわたしがなんとかしなければいけないんだ。
そう思うと、うまく言葉が出てこない。
“もえきゅん☆がいないけど、極秘ミッションかなにか?”
ある視聴者のコメントが目に留まる。
「そう、極秘ミッションよ」
とっさに、わたしはそう言ってしまった。
嘘はついていない。でも本当のことは話せないし、少し脚色して話をするしかない。
「もえきゅん☆は長期の極秘ミッションについていて、しばらくはわたし柊アクアが1人で配信することになったわ。もえきゅん☆ファンのみんな、ごめんなさい」
わたしは深々と頭を下げる。
コメント欄の反応を見るのが怖い……。
もえきゅん☆がいないと知って、みんな視聴をやめてしまっただろうか。
おまえだけなら見る価値ないと罵倒されているのではないか。
わたしはみんなに受け入れられているのだろうか。
もえきゅん☆、わたしに勇気を……。
やるしかないのよ! 柊アクア! もえきゅん☆のためにやるしかないの!
無理やり自分を奮い立たせて仮面をかぶる。
「あらあら。この柊アクア様のソロでダンジョン配信を見せてあげようというのに、不満がある≪ドル箱≫ちゃんがいるのかしら?」
わたしは思い切って頭を上げる。
お決まりのポーズ。肩にかかる縦ロールの髪を払いながら高らかに宣言した。
嫌われたっていい。アンチが増えたっていい。話題になって知名度が上がればそれでっ!
“極秘ミッションなら仕方ないな ¥2000”
“もえきゅん☆がいないと淋しいけどアクア様がいるからな! ¥5000”
“アクア様がんばえー! ¥10000”
“もえきゅん☆長期ミッションがんばれ! ¥10000”
“アクア様のソロ討伐見たい ¥3000”
“アクア様!アクア様!”
“重要なお知らせ受け取りました!”
淋しいという声はたくさんあったけれど、否定的なコメントはほとんどなかった。
みんな……。なんて温かいの……。
「わたし1人だけど、つまらなくないかしら……」
“アクア様不安?”
“アクア金属の発見者が何を弱気なw”
“超絶コンボ技楽しみにしてる~ ¥2000”
“もえきゅん☆も配信見てるかな?”
“ミッション中は無理だろー”
“アクア様の攻略みるぅ”
「そ、そう……みんな、わたしの美技が見たいのね。まったくしかたないわね。ソロで日本中のダンジョンを制覇してあげるわっ!」
そうだ。
強い敵を片っ端から倒してSランクになってやるんだから!
「それと報告があります。わたしね、今日付けでAランク冒険者になりました」
良いことも報告しておかないとね。
“やったー! ¥3000”
“Aランク! ¥3000”
“マジはやっ!”
“CからAに⁉”
“すごすぎ!”
“アクア!アクア!アクア!”
“様をつけろオーク野郎! ¥5000”
“Aランクって日本のトップ10入りじゃん”
“マジつよ”
“そんなに一気に上がるもんなん?”
一斉に称賛の声でコメント欄が埋まる。
Aランクでがっかりしていたけれど、みんなに祝ってもらえるのはとてもうれしい。
でも――。
「わたしは止まらないわ。……Sランクよ。すぐにSランクに昇格する。もえきゅん☆が帰ってくるまでにSランクに昇格するとここに宣言するわ! そのためにソロで配信を続けるから覚悟しなさい!」
もはや不退転。
10万人以上の人の前でSランク宣言をした。
もう後戻りはできない。
見て、これがわたしの覚悟よ!
“うおおおおおお ¥3000”
“やったれ~アクア様!”
“いけるぞ~!”
“マジ期待してる! ¥10000”
“マックスの枠はもろたで ¥3000”
“人数の枠とはないけどなw”
“わくわくしてきたぞー”
“Sランク誕生の瞬間に立ち会いたい ¥1000”
“絶対配信見る ¥2000”
“支援! ¥100000”
「これからわたしは日本のAランク以上のダンジョンを順番に回っていきます。主要なボスを倒して回るツアーを行います。これまで以上にたくさん配信をすることになるわ。無理をせず、見られるときに応援してほしい。できれば切り抜きで拡散してくれるとうれしいかな」
みんなへのお願い。
視聴者を増やして、わたしの知名度を上げてほしい。
信者でなくてもいい。アンチでもいい。とにかく柊アクアの名を浸透させていかなければいけないのだから。
「最後にもう1つ大きな謝罪を。しばらくの間VTuberの活動を休止することにしました。ダンジョンでの修行に集中させてください。ごめんなさい……」
わたしは深く深く頭を下げた。
もえきゅん☆が帰ってきたら、きっと再開するから。わたしも楽しみにしてる。そのためにも強くならせてください。
もう、すべて言った。
どんな批判を受けようとも前に進むしかない。
わたしはコメント欄を見ることなく宣言する。
「さて前置きが長くなったわね。今日攻略するダンジョンはここ! 横浜東A2ダンジョンよ。目指すは10階のボス。Aランクモンスターのエンジェリックリリィ討伐よ!」
わたしのソロ修業が始まるっ!
「Hey! Are you HIRAGI-AQUA?」
振り返ると、ダンジョンの入り口に外国人のお姉さんが立っていた。
「え、誰⁉」
瞳の色は光り輝くサファイアブルー。サラサラの長いブロンドヘアを後ろで2つに結んでいた。長身でスタイル抜群。バインバインのとんでもない美女……。
だけど、一目で冒険者だとわかる。
革製の鎧を身にまとい、死神の鎌のような巨大な武器を背中に背負っていた。
それに……相当強い。
「人違いカシラ?」
うわっ、日本語でしゃべった!
「えっと、あってます。柊アクアです……」
尋ねられたからには一応名乗る。
「あなたは?」
わたしの問いに、外人のお姉さんが答える前にコメント欄に反応が溢れる。
“ライトだ!”
“ライト・ザ・リッパー”
“ライトが何でここに⁉”
“アメリカSランクのライト”
“ライトすげ~”
“世界No.1の冒険者だ”
“死神のライト”
“よろしくピーチ!”
“アクア様の名前を呼んだ?”
“Sランクの話をしてたらSランクが来た!”
“Youは何しに日本へ?”
“ライトすごい美人だ”
「My name is Light. ライトデス」
ニコルさんが笑顔で握手を求めてくる。
「な、ナイストゥミイチュー……」
わたしは遠慮がちにその手を握り返した。
その時、握った手が急に引っ張られ、私は前へつんのめってしまう。
え⁉
バランスを崩したわたしに、ライトさん顔を寄せてきて囁く。
「アクア様デスネ。ずっと会いたかったデス。私の妹を返シテもらいに来まシタ」
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