第4話 柊アクアの評価
その中で、わたしにできることは――。
「わたしは、今何ランクに相当していますか?」
わたしは今回の討伐隊で戦力になりえるのか。
それが知りたい。
「それについては私からお答えします」
北見さんが立ち上がり、わたしの前にある資料をめくりながら話始める。
「今回の大規模討伐隊の編成にあたり、柊アクアさんの存在は大きな議論のポイントになりました」
北見さんが手を止め、1枚の紙を見せてくる。
『柊アクアの活動記録についての考察』
「これまでの火野麻衣華さんの活動において、特筆すべきものはユニークスキルの獲得のみで、ステータス・スキルレベル的には平均的なDランク冒険者のものでした」
はい。そうですね。その通りです。
「しかし、もえきゅん☆さんとペアを組むようになり、キャラクター名『柊アクア』として活動を始めた直後から、ステータスが大幅に上がり始めたという記録があります」
「はい。もえきゅん☆の指導によって成長をしました」
本当はステータスいじってもらったり、武器をもらったりもしたけど。
「私たちは冒険者協会の人間ですので、もえきゅん☆さんが秘匿しているユニークスキルについても詳細な情報を持っています。もちろん各冒険者のスキルを管理監督する責務を超えて公表することはありませんので、そこはご安心ください。ここでの会話も非公開情報ですので、そこもご安心ください」
だからここでは本当のことを話せよ、という圧力か……。
はいはい、わかりましたよ。
「そうですか。わかりました。では話します。わたしはもえきゅん☆にステータスポイントの調整とスキルポイントの再割り当てをしてもらい、武器の調達などもしてもらって、冒険者としてのベースを整えなおしました。効率の良いステータスのあげ方やスキルの取得方法などの指導を受けて、ここまでやってきています」
わたしがここまで強くなれたのも、すべてもえきゅん☆のおかげだ。
「はい。そのことはこちらでも把握済みです。Avatar 01は双剣スキル主体の戦闘特化。Avatar 02はもえきゅん☆さんの一部コピーをされている。間違いないですね?」
北見さんの問いに、わたしはうなずいて肯定する。
なんと、冒険者協会はそこまで把握しているんだ。
「最重要なポイントなので、確認させていただきたいのですが、アバターの切り替えにはどれくらいの時間を要しますか? それは戦闘中でも可能でしょうか?」
北見さんがわたしの目を見て、尋ねてくる。
最重要、か。
「はい。切り替えは通常のスキルと同じなので、ディレイはありません。スキル発動の発話とともにコンマ1秒ほどで切り替えが可能です。戦闘中でも切り替え可能です」
今はアクア様のアバターしか使っていないので、実際に戦闘中に切り替えてはいないが、スキル的に言えば切り替えながら戦うことは可能だ。
「わかりました。情報ありがとうございます。今入手した情報を持ちまして、柊アクアさんの認定ランクはAランクとなりました。正式な通知は後ほど、冒険者情報管理課より送られてきます」
「Aランク、ですか。Sランクではないんですね……」
わたしが100人いてももえきゅん☆の代わりにはなれない。
そういう評価なんだ……。
「あまり喜ばれないんですね。CランクからAランクへのランクアップはあまり前例のないことです。ちなみに現在の柊さんのステータスですが、総合判断でAランクの下位に位置しています。実績はアクア金属の発見やエルダーリッチ討伐等で申し分なくAランク相当ですが」
そうじゃない。知りたいのはそういうことじゃない。
「わたしがSランクになるには何が足りないんでしょうか……」
もえきゅん☆を助ける、もえきゅん☆の代わりになるには何が必要なのか。
「踏み込んでお話ししますと、現在のAランク冒険者のステータス平均は800です。柊さんの平均は500なので、単純にAランクの平均ステータスに、各300ずつたりていない状態です。Sランク冒険者の平均は出しづらいので、Sランク認定を受けた冒険者の最低ステータスをお知らせしておきますと、アタッカーの方のINT≪知力≫2000が最低値です」
わたしが知っている情報よりもずいぶん平均値があがってる……。みんな強くなったのか、それとも基準が上がったのか……。
それとLUC≪幸運≫:9999は平均ステータスにカウントされてないみたい。直接の戦闘力とは無関係だから計測外なのか……基準がわからない。
「つまり過去の実績的にも、攻撃系のステータスで最低2000平均以上ということですか」
「そうですね。最低2000というのは目安で、Sランクはステータスだけで認定されることはありません。Aランク冒険者の中には、ステータス平均が3000以上の方が海外に数名いらっしゃいますが、その方たちはSランク認定はされていません。このままではおそらく今後も認定されることはないでしょう」
「その人たちがSランクになるには何が必要なんでしょうか」
「はい。実績もさることながら、スキルや戦闘スタイルの特質性の評価割合のほうが大きくなっているとお伝えしておきます」
「特質性、ですか」
「基準が明確にあるわけではないので、あくまで現在のSランク認定された方の特徴を分析していきますと、たとえばもえきゅん☆さんであれば、あらゆる魔法に精通し、特に光魔法と闇魔法においてユニークスキルを有しており、独自魔法の開発・普及にも力を入れられている。そういった実際の戦闘力以外での活動、周りへの影響度についても評価対象になってきます」
誰が見ても文句なくSランクだよね、という飛びぬけた評価が必要、なのね。
なんとなく言わんとしていることはわかった。
「つまり知名度が必要なんですね」
「はい。それも1つの要素としてありますね。無名の新人がステータスの基準を満たしているからSランクに認定されることはありません。国を超えて、冒険者の代表たる存在にのみ与えられる称号、そして特権になります」
Sランク冒険者にはそれだけの価値がある。
単純に世界を救える力がある、というだけの話ではないということなんだ。
「わかりました。わたしが目指す方向性は理解できました。わたしはSランク冒険者を目指したいと思います」
次にケートスが出現するのがいつになるかはわからない。
でも、それまでにやれることをやる。
わたしのやり方でSランク冒険者になってみせる!
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