第46話 アクアグローブ試す
土曜日。
朝起きるともえきゅん☆が家にいた。
なんか最近、土曜日の朝、毎週のようにお母さんとお茶してるのはなぜ……。
「おはよう、お寝坊さん♡ これ、プレゼントだぞ♡」
もえきゅん☆がキラキラと青白く光る何かを渡してくる。
「おはよう……」
まだ7時だよ……眠い。
とは思いつつも、とりあえず受け取ってみる。
太い竹を半分に割ったみたいな形をした青白く光る金属製の何かだった。長さは15cmくらい、でも羽みたいに驚くほど軽い。それが2つ。それぞれ似た形状だけど、若干デザインと材質が違うのかな……。
なんだろ、これ。
「ありがとう? これは何? 何かのお土産?」
「それはね~、アクア金属で作った試作品♡ 腕に装着して防具に使うんだぞ♡」
もえきゅん☆がジェスチャーで腕を叩いてみせる。
「アクア金属! おお! よく見たら裏側に薄い手袋がしまわれてた! そっか。この指ぬきの手袋を手にはめて、と」
さっそく手袋に左手を通して、アクア金属の板を腕の上に乗せてみる。
「うぉ! 急に腕に吸い付いてきた!」
手袋のほうかな。装着すると体の形状にフィットしてくる素材になっているみたい。
「さっそく所有者登録しておくんだぞ♡」
「ありがとう! すごい!この装備『アクアグローブ』って言うんだ!」
「喜んでもらえて良かった♡」
ニコニコしているもえきゅん☆の横で、わたしはアクアグローブをはめた左手をぶんぶん振って感触を確かめる。
「すっごい軽いし全然邪魔にならないね!」
「アクア金属とミスリル金属の合板になっているんだぞ♡ どっちも軽い素材だから耐久性がありながら軽量化もうまくいったかにゃ♡」
自信ありげに語るもえきゅん☆。
すごいなあ。本物の商品みたい。
「ねえ、このグローブって魔法吸収できちゃうんだよね⁉」
「そうよ~♡ ダンジョンに行って試してみよっか♡」
もえきゅん☆がニマニマ笑う。
「うん。試してみたい! あー、それでこっちのグローブは……ミスリル金属かな?」
アクアグローブと並べてみると、色がちょっと違う。
濃いめの水色と薄めの水色。濃いほうがミスリルで、薄いほうがアクアかな。
同じように装着すると、右手のほうは『ミスリルグローブ』と表記されていた。
「そうそう♡ 片手ずつつけておけば、アクア様の防御面も強化されるしいいかな~って♡」
「避けるだけじゃなくて受けることもできたらだいぶ戦闘の幅が広がりそう!」
「これからもっと難易度の高いダンジョンも攻略していきたいね♡」
「え、もっと? 最近Aランクダンジョンばかりな気がするんだけど……」
何回か連れて行ってもらったAランクダンジョンは、特殊条件でAランクに該当しているだけだった。全体のモンスターが強力で、総合的にAランクに該当するようなダンジョンには行ってはいないのも事実……。
アタッカーとして正面で攻撃も受けきれないと力不足だよねえ。
* * *
もえきゅん☆に連れられて、いつものオークロードがいるダンジョンに着く。
今日の目的はオークロード討伐じゃないけどね。
「あれがいいかな♡」
もえきゅん☆の目線の先には、ファイヤーアントが2体いた。
わたしの腰の高さくらいの巨大なアリ。
たまに口からファイヤーボールを吐いてくるが、動作は遅く、避けるのも苦ではない。
Dランク冒険者の登竜門的なモンスターだ。最初に魔法系のモンスターと対峙するのはファイヤーアントと決まっていると言っても過言ではないくらいに有名な個体だ。
「アクア様、グローブはちゃんと装着できてる?」
「準備OKよ」
左手にアクアグローブ。右手にミスリルグローブ。
両手を顔の前でクロスさせてポーズを取る。決まった! 完璧。
「それじゃ、ファイヤーアントの攻撃を受けてみて~♡」
「了解!」
わたしは、ゆっくりとファイヤーアントに近づいていく。
ファイヤーアントは、一定の間合いを維持しないとファイヤーボールを撃ってこないから調整が大変。近づきすぎると、普通に嚙みつきの物理攻撃をしてくる。
2、3mの距離感を維持しつつ、うろうろする。
体内で魔力を蓄積しているのか、なかなかファイヤーボールを撃ってこない。
早く撃ってきなさいよ……。
しかたないので双剣を素振りしたりして威嚇してみる。
あ、ようやく来る。
ファイヤーアント1体が、ゆっくりと口を開けて炎の球を吐いてきた。
「左のグローブで受けるわね」
一応もえきゅん☆に確認しながら、ヒョロヒョロと飛んでくるファイヤーボールに左手をぶつけてみる。
お、消えた。
左手のグローブに当たった瞬間、ファイヤーボールはフッと霧散した。
それまで薄い水色だったアクアグローブは、ファイヤーボールを受けた瞬間から、パチパチと火花を散らして赤く光りだす。
「どう? うまくいったかにゃ?」
もえきゅん☆が近寄ってきて左のグローブを触る。
「良い感じね♡」
わたしも左のグローブを触ってみるが、もちろん熱くはない。でも表面では火花が散っていて、火属性の魔法が滞留している様子が見える。
「それじゃあ本番だぞ♡」
もえきゅん☆がわたしから少し距離を取る。
「アクア様! いくよ~♡」
すぐにもえきゅん☆の頭上に巨大な炎の渦が出現。掲げたその手に、ゆっくりと螺旋を描きながら炎が収束していく。
「ちょっと待って待って! いきなり大魔法!」
やばいって、それはやばい! 失敗したら死んじゃうから!
「エクスプロージョン♡」
もえきゅん☆の手から、極限まで圧縮された炎の球が撃ち出された。
慌てて左手をもえきゅん☆のほうに向け、足を広げて踏ん張る。
うわー、ニコニコしながら手加減なしだ!
助けてアクアグローブ!
目をつぶって左手の甲を突き出して、大魔法を受ける構え。
エクスプロージョンがアクアグローブに接触し、バチバチと衝撃の振動が伝わってくる。
熱っ! これ、大丈夫なの⁉
もしかして死ぬ?
1秒か2秒か、もっと長かったかもしれない。
アクアグローブの表面でひと際大きく火花が散り、エクスプロージョンは霧散、消滅した。
「やった……の?」
左手は……ある。心臓は……動いてる。
わたし生きてる?
「アクア様! 実験成功だぞ♡」
もえきゅん☆がうれしそうにこぶしを突き上げる。
「なんとか、ね……」
わたしはその場に座り込んでしまった。
怖かった……。
「どしたの? うれしくないのかにゃ?」
もえきゅん☆が走り寄ってきて、心配そうにわたしの顔を覗き込む。
「いやうれしいわよ? でも、生きた心地がしなかった! なんでエクスプロージョンなのよ!」
実験ならエクスプロージョンじゃなくてもよくない⁉
もっと軽い火魔法でも確認できたよね⁉
「だって~、強い魔法をちゃんと撃ち返せるか確認しないと実用性に耐えられるとは言えないかな~って♡」
もえきゅん☆が、チロッと舌を出して頭を下げてくる。
かわいいなあ、もうっ!
「わかる、けど……。エクスプロージョン撃ってくるモンスターなんていなくない?」
「ん~、ドラゴンのブレスはエクスプロージョン相当かな~。ほかには~」
「ドラゴン……。このアクアグローブ、どういうレベルで使う想定なのよ……」
「『すべての魔法攻撃を過去にする』みたいな♡」
「ショッピングサイトの広告じゃないんだから……」
「柊アクアブランドで売り出したいな~って♡」
「なるほどね~。もえきゅん☆はこういう防具の製造販売みたいなこともしてるんだ?」
「モエはプロデュースと広告塔の役割だけよ♡ 会社の人があとは勝手にやってくれるから♡」
もえきゅん☆の差し出した手を取り、わたしは立ち上がる。
「会社~。ギルド以外にもそういう仕事もしてるんだ?」
「名義だけよ♡ 麻衣華も卒業したらうちの会社に就職ね♡」
「え、わたしが?」
わたしに会社勤めなんてできるのかな。
「肩書は社長秘書♡」
「社長秘書……まさかもえきゅん☆って社長なの⁉」
「そうよ~♡ 当たり前じゃない♡」
「当たり前なの……」
「モエが好きなことをやる会社~♡ 社員も5人しかいないから小さい会社よ♡」
なるほどね。
それで防具を作ったりしてるわけかあ。
「幼馴染とか、≪エンタープライズ≫から引っ張ってきた子とか、信用できる人しかいないから大丈夫だぞ♡」
大丈夫って言われても、わたしのほうが大丈夫じゃなさそう……。
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