第43話 テレビ出演~控室にて

 それから数日後。

 わりとまじめな話で『アクアゴーレム』の発見は世界中でちょっとしたニュースとなった。


 日本で発見された新種のゴーレム。

 そして、魔法攻撃を吸収し一定時間滞留させることができる素材『アクア金属』。


 2つの話題は、翌日には学術誌に研究結果が発表されていたし、ニュースでも取り上げられたりしていた。

 わたしともえきゅん☆は何度も取材を受けることとなった。


 そして今日はテレビのニュース番組の特集コーナーに出演するべく、控室で待機しているところだ。

 わたしは控室の小さな茶色の古びたソファーに腰掛ける。


 ああ、気が重い……。テレビって……。

 アクア様のアバターだからなんとか正気を保っていられるけれど、それでもやっぱり怖いよ。


「もえきゅん☆……わたしが討伐者になってて、ホントに『アクア金属』って名前になってるんだけど、ホントにそれで良かったの?」


「もちろんだぞ♡ アクア様が有名になるとモエもうれしい♡」


 もえきゅん☆がわたしの首に絡みつきながら膝の上に乗ってくる。


 まあ、ホントはもえきゅん☆がアクア様なんだし、それもそうか。 


 今日はなんだか特別良い匂いがする気がする……。


「ん~、この匂い好き? アクア様が緊張するだろうなって思って、リラックス効果のある香水をつけてみたんだぞ♡」


「ホント良い匂いね……。吸い込まれそう……」


「アクア様にもつけてあげるね♡」


 もえきゅん☆はわたしの膝から飛び降りる。

 カバンから小瓶を取り出すと、わたしの手首に少しだけ香水をつけてくれた。


「んー、とっても落ち着く……。ありがとう」


「ふふふ♡ おそろいの匂いね♡」


 もえきゅん☆が再びわたしの膝の上に乗ってきた。


「ねえ、もえきゅん☆って、やっぱり取材受けたりするの慣れてる?」


「そうね~。モエはタレント活動もしてるから、わりと普通の仕事、みたいな?」


 そうだった。

 もえきゅん☆はファッション誌の表示を飾ることもあるし、テレビCMにも出演している芸能人でもあるんだった。

 あらためて、もえきゅん☆ってホントは遠い世界の存在なんだよね、ってことを意識させられてしまう。


「でも冒険者が本業、なのよね?」


「そうよ~♡ 日本を守る! 世界を守る! Sランク冒険者もえきゅん☆は今日もダンジョンを行く♡」


 もえきゅん☆はどこかに向かってビシッと最敬礼をした。


「何それ」


 思わず吹き出してしまった。


「モエが芸能活動をやっているのは、冒険者の地位向上のためかな~。冒険者はモンスターを倒すから、どうしても暴力のイメージが影を落とすのよね」


「たしかにね。どこか日陰者のようなイメージはあるかもしれないわ」


 海外ではそんなことはないらしいのだけれど、日本だと冒険者というだけでまともな職についていない野蛮な輩として見られることが多いのが現状だ。


「そうなの。だからそのイメージを払しょくするために、モエみたいなかわいい子がSランク冒険者として活動してるんですよ~って♡」


「自分でかわいい子って言っちゃった」


 実際かわいいけどね!

 わたし調べで世界一だけどね!


「な~に♡ なにかご意見がありそうね♡ 子って言ったからか~、そんなご意見を言うのはどの口だ~♡」


 そう言いながらわたしのことをくすぐりにかかる。

 そこは脇! キャッ背中! そんなところからご意見でないからっ!


「もー、わたし何も言ってないよー。もえきゅん☆はかわいいから合ってるよぉ」


「ふふふ♡ かわいいって言われちゃった♡」


 と、ドアがノックされる。


「は~い♡ どうそ~♡」


 もえきゅん☆が返事をすると、控室の扉が開いて男性が入ってくる。


「もう少しで出番です。そろそろスタジオのほうに移動をお願いします。生放送なので、出番まではスタジオのカメラ外で待機していただいて、CM中にスタンバイをお願いする流れで」


 テキパキと段取りを説明してくれる。

 番組のADさんかな。

 よれよれのシャツだけど、目はギンギン。お仕事楽しそうだなあ。


「は~い♡ 流れ大丈夫で~す♡ アクア様、スタジオに行きましょ♡」


 もえきゅん☆が立ち上がり、わたしの手を握った。


「うっ、緊張する……」


「大丈夫よ♡ 基本的にモエがしゃべるから、アクア様はニコニコしててね♡」


「助かります……」


 あーテレビ!

 わたしのことは誰も見ないでほしい!

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