第42話 歴史的実験?

「アクア様ナイス~♡」


「ナイスじゃないわよ……。死ぬかと思った……」


 念のため辺りを見渡す。

 しかし、見るも無残。粉々になったミスリルゴーレムたちが……そこかしこに横たわっていた。


「ツインラブハリケーン♡ 完全勝利なんだぞ♡」


 もえきゅん☆がドローンカメラに向かって、勝利のブイサインを決めていた。

 さっきスキルの名前違ったし……。


“きゃーもえきゅん☆ステキ― ¥10000”

“ミスリルゴーレムに同情した”

“このペアつえ~わ”

“セオリー無視の無茶苦茶な戦い方なのにマジ強い”

“それなw”

“タンクもいないのにすげーわw”

“アクア様が振り回されてるところを見られるのはこのチャンネルだけ!”

“ふたり仲良さそうだしずっと見てられるわ”



「ねえ、もえきゅん☆……忘れてたことがあるんだけど」


「ん、アクア様な~に♡」


 もえきゅん☆がわたしのほうに振り返る。


「この階のすべてのゴーレムの討伐はできたわ。でもこれ、生態の調査はどうするの……?」


「あっ♡」


 忘れてたよね。

 あまりにもいっぱいいすぎて、わたしもまず倒さなきゃって思ったし。


「だだだだ大丈夫だぞ♡ モエはちゃんと調べてたもん!」


「ふーん」


 怪しい。

 目が泳ぎまくってるし。

 でも動揺しているもえきゅん☆かわいすぎる!


「あっ! アクア様! ほら、よく見て!」


 もえきゅん☆がミスリルゴーレムの残骸を指さす。


「こっちはモエが倒したほう。普通のミスリルゴーレムね」


 うん、雷で手足の先が若干焦げてるやつね。


「それでこっちがアクア様が倒したほう。魔法攻撃吸収の新個体ね」


 うん、ドリルで倒したからわりとバラバラになってる破片のほうね。


「倒し方が違うから、ぱっと見で判別はつくわね」


「そうなの♡ だから並べて観察すると、なにか見えてこない?」


「うーん。なんだろう。色が……若干違う?」


「そうなの♡ 魔法攻撃吸収の新個体のほうが若干透明に近いの♡」


 普通のは青から水色っぽい光を反射させているのに対して、新個体のほうは水色から透明っぽい光を反射させていた。


「動いている時はミスリルゴーレム同士の体が乱反射していて気づかなかったけれど、こうやって並べてみると違いがわかるわね」


“完全に別ものだな”

“これ両方ミスリルゴーレムなのか?”

“新種?”

“属性も違うし新種じゃね?”

“新種発見!”

“新種は届け出ると命名権がもらえるんじゃなかったか?”

“すげ~新種のゴーレムだ!”


「え、これホントに新種のゴーレムなの?」


「まだわからないけど、たぶんミスリルゴーレムの亜種なのかにゃ~。新種として認められるかは、協会に素材を持ち込んで調査をしてもらうにゃ♡」


「でもこの量の素材を集めて持ち帰るのはちょっと……」


 20階全体をツインラブハリケーン(ハリケーンディザスター)で蹂躙しまくってて、落ちてる素材の量がとんでもないんですけど……。


「サンプルはちょっとずつでいいにゃ♡ あとの素材は個体ごとに分別して、換金……ん~、新個体のほうは売らずに残しておこっかな♡」


 もえきゅん☆は一瞬思案した後にそう提案してきた。


「何かあるの?」


「たぶんね~♡ 素材のほうにもさっきの特性が残っているなら、ちょっとしたインパクトがあるかもだぞ♡」


 もえきゅん☆が楽しそうに笑う。

 インパクトってなんだろう。どこに対して?



* * *


「これでよ~し♡ 協会には調査結果報告はしたし、素材回収のお手伝いさんも呼んでおいたから、モエたちのお仕事はおしま~い♡」


 もえきゅん☆はおそらく協会に数分電話連絡してから、わたしのほうに向きなおった。そろそろ今日の配信も終わりかな。


「お疲れ様。ちょっと物理的に大変だったけど、なんとか依頼をこなせて良かったわ」


 ヒールで全回復しているとはいっても、なんとなく精神的には体がボロボロのままなんですよ……。

 心のヒールもほしいです……。


「ちょっとだけ実験をしてから帰るんだぞ♡」


「実験?」


「そう♡ 今この配信を見てくれているみんなには歴史的発見の目撃者になってもらおうかな~って♡」


 もえきゅん☆は人差し指を高く突き上げて宣言した。


“お、なんだなんだ?”

“期待 ¥1000”

“歴史的ときたか!”

“わりと大きく出たけど、何するんだろ”

“もえきゅん☆の存在自体が歴史的だからな”

“もえきゅん☆はエンターテイナーだな ¥1000”



「じゃあ、みんな、よく見ててね♡ まずはこれ、魔法攻撃吸収の新個体、あまりバラバラになっていない状態の良さそうな……これでいいかにゃ♡」


 もえきゅん☆が、倒れているミスリルゴーレムの新個体にドローンカメラを近づけて接写する。


「ちょっと薄い水色のゴーレムちゃん♡ これに向かってライトニングボルト♡」


 もえきゅん☆が、すでに倒したゴーレムに向かってライトニングボルトを撃ち込んだ。


「えっ、どうしたの⁉」


「実験実験♡ ほ~ら、見て。表面がパチパチしてる♡」


 ドローンカメラと一緒にわたしも近づいて表面を観察する。

 たしかに帯電してる。


「じゃあ、アクア様の双剣に雷のエンチャントを入れるから、それでこのゴーレムを斬ってみて♡」


「了解!」


「砕くつもりで思いっきり攻撃するんだぞ♡」


 本気で!

 クロススラッシュ!


「あれ? 砕けない……」


「エンチャントを切って、普通の状態で同じ攻撃を♡」


「OK」


 クロススラッシュ!


 今度は無事、ゴーレムの体がバラバラになってはじけ飛んだ。


「は~い♡ ありがと♡ みんなこれでわかったかにゃ♡」


“おう?”

“アクア様は強い?”

“違うだろw”

“ゴーレム死んでるけど、金属自体が魔法吸収の効果を持ってるから、魔法の属性引き継いでるってこと”


「はい、正解♡ よくできました~♡ つまり~、ミスリルゴーレムの特殊なスキルってわけじゃなくて、表面を覆っている金属自体がミスリルとは違うものってことなんだぞ♡」


「ミスリルじゃないんだ?」


「魔法吸収して攻撃された魔法の効果を留めておける金属ってことだぞ♡」


「なにそれすごい!」


“なにそれすごい!”

“なにそれすごい!”

“なにそれすごい!”

“なにそれすごい!”

“なにそれすごい!”


「ちょっと、みんなマネしないで!」


「一応他の属性魔法でも試してみよっか♡」


 火魔法や水魔法などすべての属性魔法で試した結果、どれも変わりなく魔法攻撃を吸収して属性変換、それを金属表面に留めることに成功した。


「すごいわ!」


「ね♡ この素材で防具や盾を作ったら、魔法攻撃が主体のモンスター攻略が一気に楽になるかもだぞ♡」


“その時歴史が動いた!”

“これはマジの歴史的発見!”

“絶対新種のゴーレムじゃん!”

“名前つけようぜ”

“何にするの?”


「えっとね~♡ 新種のゴーレムだったらね~、名前はもう決まってるんだぞ♡」


 もえきゅん☆がちらりとわたしのほうを見た。


「アクアゴーレム♡」


 もえきゅん☆が、ちょっと照れながら言う。


 なにそれー! 色もぴったりでステキ!


「もえきゅん☆!」


 わたしは思わずもえきゅん☆に抱きついた。


「よしよしよし♡ アクア様が最初に倒したんだからね♡ さあ、アクアゴーレムからとれるアクア金属で世界を救うんだぞ♡」


 もえきゅん☆はそう宣言してから、わたしの頭をゆっくりと撫でた。

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