第41話 アクアの妙案

「魔法を吸収するんだから、物理攻撃で倒すのがセオリーかにゃ?」


 もえきゅん☆がハイディングフィールドをかけなおしながら、少し自信なさげに言う。

 何か別のことを考えていそう。


「それじゃあ一度エンチャントを解除して攻撃試してみるね」


 STR≪力≫がだいぶ上がってきているとはいっても、果たして物理攻撃だけで押し切ることができるか。

 まあ、やるだけやってみましょう。


「燃、焔。力を全解放してあげられないけど、双剣として力を貸してね」


 わたしは双剣をそっと撫でた。


「アクア様! 物理攻撃力アップかける!」


「ありがと! アクアいくわ!」


 マックスとの一戦の後、パワー不足を感じていた。

 不意打ちで確殺できないのは致命的。

 

 そこでわたしは考えたの。

 一撃の威力がたりないなら、連続コンボを作り出せばいい。

 今こそ、ひそかに練習してきたオリジナルコンボ技を披露する時!


 ミスリルゴーレムの急所は人間と同じで心臓部分にコアがある。つまりそこに大ダメージを与えれば倒せる! でも、物理攻撃で大ダメージを与えるには、硬い装甲を剥がしてコアを露出させて破壊する必要があるから……。


 まずは背後から崩す!


 スライディングして足元に潜り込む。アキレス腱あたりから下半身を中心に回転乱舞斬り。

 これで脚部を破壊して転倒させられたらそのままトドメ!


 でも、ミスリルゴーレムは倒れない。


 それなら!

 ジャンプして上から重心をずらす!


 首筋から背中にかけてクロススラッシュ。

 振り返ろうとして動かした足を中心に再度回転乱舞斬り。

 そのまま膝に剣をひっかけ、上半身をかちあげて強引に倒す。


 よし、倒れた! チャンス!


「燃! きて!」

 

 すかさず燃を召喚。

 わたしはまっすぐ上へ。天井に向かって飛ぶ。

 

 反転。

 天井に足をつけて踏み台にしたところで≪rebirth≫。頭の上に双剣をかまえ、ミスリルゴーレムのコアに向かって槍のように急速落下!


「トルネードスラストー!」


 落下中に竜巻回転のスキルを発動。

 わたしはトルネード。高速回転するドリル! ミスリルゴーレムの胸に大穴を開けてやる!


 位置エネルギーも追加したトルネードスラストでミスリルゴーレムのコアに向かって頭から突っ込む。


 手ごたえあり!


 ドリル(わたし)は狙い通り、ミスリルゴーレムの装甲をぶち抜いてコアを破壊することに成功した。

 というより、ミスリルゴーレムを体ごと破壊しつくして、バラバラにした。


 ちょっとやりすぎた?

 

「アクア様ナイス~♡」


 見ると、もえきゅん☆がキャッキャと小躍りしながら喜んでいた。


「わたし、やったよー!」


 右手を掲げて勝利のポーズ。


「アクア様! いったん戻って! 次のゴーレムきちゃう!」


 もえきゅん☆が焦っている。

 

 そうだった……。ミスリルゴーレムって1体じゃないんだ……。

 わたしは慌ててもえきゅん☆のもとへと走る。


 わたしの到着を待ってから、もえきゅん☆はハイディングフィールドを展開。


「ふぅ、なんとか逃げられた」


「アクア様すご~い♡ ホントにすごいことなんだぞ♡ 新種の魔法が効かないゴーレムを倒しちゃった♡」


“すげ~!”

“切り抜け切り抜け”

“アクア様ナイス!”

“流れるようなコンボ技。かっこよかった”

“オリジナル?”

“速すぎて見えんかった”

“双剣ってあんなふうに使えるんだ。勉強になる”

“アクア様マジで強いよ”


「みんないっぱい褒めてくれてるよ♡」


「あり、がとう。わたし、うまくやれてたかな?」


 夢中でなんとかミスリルゴーレムを倒した。最後のほうは頭が真っ白であまりよく覚えていない。


「アクア様すごいにゃ♡ みんなも褒めてるにゃ♡ それに見て、あのミスリルゴーレム。あんなに硬いミスリルが粉々よ。そしてこれは大きなヒントになったんだぞ♡」


 もえきゅん☆が目を輝かせていた。


「大きなヒント? 何かわかったの?」


「ミスリルゴーレムの弱点はコア。これは常識として知られてるにゃ♡ でも、物理攻撃吸収するから、普通はコアを物理的に破壊しようとは思わない。魔法でコアにダメージを与える方向に頭が働くんだぞ♡」


「うん、そうね。コアはミスリルの硬い装甲で守られてるから」


「でも新個体は魔法攻撃を吸収してくる。物理攻撃吸収がない分、物理攻撃は効果がある。だけど単純に硬いミスリルの装甲は生半可な攻撃では抜けないにゃ……」


「そこでわたしが考えたのが、電動ドリルの穴あけよ」


「その発想すごい天才♡ ドリルは硬い素材にも穴をあけることができるよね。実際ダイヤモンドのドリルは様々な場面で活躍してるんだぞ♡」


「床に寝かせて、天井からのトルネードスラストならコアをぶち抜けるかなーって」


「お見事♡」


「でも、1体倒すのが精いっぱいで……」


 これ、あと100体以上いますよね。

 さすがにやれてもあと2、3体が限界……。


「ふふふ♡」


 もえきゅん☆が笑っている。


「ふふふふふふふふふ♡」


 もえきゅん☆が笑っている……。

 これ、ダメなやつカナ……。


「モエにまかせるんだぞ♡」


「えっと、一応聞いておくけど、作戦は……?」


 聞くのが怖い。

 絶対嫌な予感しかしない。


「モエが竜巻。アクア様がドリル。仕事は分担しましょ♡」


 やっぱりだーーーーーー!

 絶対やばいやつ!


“アクア様がドリル……つまり……”

“死亡フラグ”

“アクア様イキロ”

“いいやつだった”

“骨は拾ってやる”

“さらば~ともよ~”


「いやー! コメント欄の人たちがわたしを見捨てるぅ!」


「アクア様、大丈夫♡ ちゃんと2重にハードスキンかけとくから♡」


 もえきゅん☆がソロモンの杖を取り出す。


 そういう問題じゃないのー!

 わたしをモノ(ドリル)扱いしないでー!


「さ、アクア様、姿勢をまっすぐに。双剣を頭の上にかまえて♡ 舌をかまないように口は閉じてあごを引くんだぞ♡」


 もうダメだ……。

 ワタシハドリル。スベテヲ貫ク者ナリ。

 

 生きて帰ってこれたらもえきゅん☆にトルネードスラストでもしよう……。


「いくにゃ♡ ハリケーンディザスター♡」


 ちょー! 技の名前がエグイー!

 トルネードの比じゃないし!


 わたしは抗議することも叶わず、もえきゅん☆のハリケーンディザスターの中心でドリルとなって、20階にいるすべてのミスリルゴーレムのコアを破壊し尽くしたのだった。


 ガクッ。

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