第40話 ミスリルゴーレム戦

 2階、3階と降りていく度にだんだんと人が減っていく。

 5階ともなると人もまばら。いくつかのパーティーがファイヤーゴーレムとの格闘しているのを横目に、わたしたちは高速飛行で隙間を抜けていく。


「ゴーレムは足が遅いから、まったく戦闘しなくても通り抜けられるんだぞ♡」


 フェアリーモードのもえきゅん☆が、妖精の粉を振りまきながら螺旋状に飛ぶ。


「でもこれって配信的に楽しいのかしら?」


 何の戦闘もなく、ただおしゃべりしながら飛んでいるだけの映像。

 みんな飽きちゃわない?


“ジェットコースターみたいで楽しい”

“もえきゅん☆の声だけでも満足なので、最悪映像がなくてもいい ¥10000”

“妖精の粉をかぶって飛びたい ¥2000”

“飛行映像助かる ¥10000”

“見えそうで見えない。だがそれがいい!”


「みんなそれぞれの楽しみがあるのね。楽しいならそれでいいわ……」


 ドローンカメラの動画モードは優秀だから、スカートの中を映したりは絶対にしないのだけど……。



「は~い、5階の転移ポータルに到着♡」


「あっという間だったわね。もえきゅん☆の飛行速度についていくのは大変よ」


 わたしは燃と焔につかまって飛ぶから、姿勢制御が大変なのよ。

 速度を上げると肩も凝るし。

 羽で飛べるもえきゅん☆がうらやましい。フェアリーモードかわいいし!


「ふふふ♡ ちゃんと準備してから転移しないとね♡」


 もえきゅん☆がフェアリーモードから白雪モードへと移行する。

 

「そうね。転移してすぐミスリルゴーレムに囲まれる可能性があるのよね」


「バフとエンチャントかける~♡」


 物理攻撃確率反射や魔法攻撃確率反射、あとは双剣に帯電のエンチャントがかかる。

 あとは効果があるかわからないけれどハイドで姿を消す。


「ありがとー」


 これで準備はOKね。


「いざ、20階へGO♡」


 もえきゅん☆の掛け声とともに、わたしたちは転移ポータルを起動させた。



「いきなり攻撃はされなかったわね」


 20階に降り立ったわたしたちが、ミスリルゴーレムの群れにタコ殴りにされる、ということはなかった。


「ハイドはちゃんと効果あるみたい♡」


「それにしても数が多いわね……」


 これは明らかに異常だ。

 見えているミスリルゴーレムの数は10や20ではなかった。100? 200? もっといるかもしれない。なんならミスリルゴーレム同士の肩がぶつかってしまって、うまく歩けていない様子。青みがかった金属が乱反射してちょっと眩しい。


「満員電車みたい♡」


“さすがにこれはwww”

“ミスリルゴーレムなのか地面なのか”

“バッタの異常発生かw”

“Aランク冒険者でも裸足で逃げ出すレベルw”

“ミスリルゴーレムの宝石箱や~”

“倒せればなw”


「さすがにこれを処理するのは骨が折れるにゃ♡」


 もえきゅん☆がソロモンの杖を構えた。

 

 お、やる気ですね。


「あいさつ代わりのサンダーボルト♡」


 ソロモンの杖の宝玉が光り、放射状に雷が発生する。

 近くにいた複数体のミスリルゴーレムに雷が命中。その直撃した個体が帯電。もんどりうって倒れる。それが側撃となって近くの個体へと移っていき、次第に外側のゴーレムへどんどん広がっていった。


「すごい!」


「ん~6割くらいかにゃ~」


 もえきゅん☆がぐるりと周りを見渡しながら言う。


「6割?」


「魔法攻撃が効いたミスリルゴーレムの数♡」


「あーそういうこと。ということは残りの4割は魔法攻撃吸収の新個体ということなのね」


「そう♡ あとはアクア様の出番だぞ♡」


 わたしの出番かあ。

 がんばらないと!


“あっさり一撃で6割!”

“初撃で半分以上即死なんですけどw”

“強めのあいさつw”

“感覚バグるわww”

“これ普通のゴーレムじゃなくて最硬のミスリルゴーレムなんすよね……”

“ただのサンダーボルトでミスリルゴーレムが沈黙www”

“もえきゅん☆のサンダーボルトはサンダーボルトであってサンダーボルトではない”

“魔法は使用者のスキルレベルとMP放出量で威力が違うんだな”


 コメント欄が盛り上がっている。

 もえきゅん☆がすごいのは今に始まったことではないけれど、魔法攻撃吸収のモンスターがいる以上、わたしもがんばらないとこの盛り上がりに迷惑かけちゃう……。


「アクア様! 帯電のエンチャントはまだかかってる?」


「うん、大丈夫よ」


「魔法攻撃吸収のミスリルゴーレムは未確認の個体だから、くれぐれも慎重にね。まずは手前の1体だけ相手してデータを集めてね♡ 終わったらハイディングフィールドを張っておくから、ここに逃げ込んでくるんだぞ♡」


「了解! アクア行くわ!」


 わたしの合図とともに、もえきゅん☆が速度アップの加護を授けてくれる。


 手前のあいつに決めた!

 背後から背中にスラッシュ!


 む。

 手ごたえがない。


 もう一度スラッシュ!


 硬いからダメージが通らないとかではなさそう……。

 なんだろう。妙な違和感。


 ミスリルゴーレムがゆっくりとこちらを振り返ってくる。

 さすがゴーレム、動作が遅い。


 重心移動のために片足を上げたところ狙って、軸足にスライディングスラッシュ!


 ダメ。

 まったく効いてない。

 それより……このミスリルゴーレム、なんかバチバチ言ってる気がする……まさか帯電してる⁉


「もえきゅん☆まずいかも!」


 わたしは叫びながら、ミスリルゴーレムから距離を取る。


「このミスリルゴーレム、帯電してるわ!」


 もえきゅん☆のサンダーボルトを吸収して身にまとっているみたいに見える。


「なるほどにゃ~♡ モエの魔法を吸収して防御に回してるのにゃ♡ やっかい~♡」


“サンダーミスリルゴーレム爆誕!”

“なにそれ、やばない?”

“魔法を吸収すればするほど強くなる?”

“もえきゅん☆ピンチ!”


「この場合の属性って……」


「一時的な属性変化みたいなものかにゃ~。木属性になってるのかにゃ~」


「同属性の帯電エンチャントだと……」


「魔法吸収があるから、エンチャントも吸収されちゃうかにゃ~」


 それでダメージが入ってる感覚がなかったのね。

 なんならあいつにエサをあげてたようなものかな。


 ん~エンチャントなしで倒し切らないといけないのかな。

 なかなかやっかい。

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