第29話 物理攻撃無効

 わたしともえきゅん☆、そして孔雀になった燃と焔は2階を進む。

 出てくるモンスターは今のところトカゲやカエルなど、水際に生息が確認されているモンスターが多い。

 燃と焔が大岩を降らせるか、地面から鋭い土の棘で突き刺してなんなく倒していく。土属性攻撃って力強いなあ。


 2階はとくに目立って何かがあるわけではなかった。

 地面が濡れているというくらいだ。

 でも、ずいぶん冷え込む。

 

「ん~2階はこんなものかにゃ♡ 3階に降りよ~♡」


 わたしたちはもえきゅん☆の指示に従って、3階へと進んだ。



* * *


「だいぶぬかるんでるわね」


 3階に降りる。

 すでに乾いた地面はなく、ぬかるんでいるか湿っているか、あとは深めの水たまりも散見される状態だった。


「ん~ずいぶん変化が速いにゃあ。予想よりももっともっと浅いのかも?」


 もえきゅん☆が首をかしげる。


「普通のダンジョンは、地形変化がもっと緩やかななの?」


「そうね~。一般的には5階区切りくらいで変化していくかな~。10階ごとにボスがいるダンジョンも多いでしょ? ほら、モンスターが来た。2階と全然違う」


 もえきゅん☆があごでしゃくる。

 現れたのはカニとヤドカリ?

 2階よりも水生生物という感じになってきている。


「まだDランクのモンスターばかりだし、気にする必要はなさそうだけど、念のため1階降りるごとに補助魔法はかけなおしておくね♡」


“もえきゅん☆が慎重だ”

“かなり下層の攻略の時の顔してる”

“現場はかなりやばい雰囲気なのか”

“百戦錬磨のもえきゅん☆が警戒している”

“拡散しとこ”


 2階と状況の変化はあれど、3階もモンスターはたいして強くなかった。

 わたしたちは3階の探索もそこそこに4階へと向かう。



* * *


 4階に降りる。


「これは……」


 辺り一面、水で覆われていた。

 飛び石のように地面が隆起している箇所がある、といった状態だ。水深は見たところ30cm程度なので深くはない。


「まだ平気かにゃ。アイスストーム♡」


 もえきゅん☆がいきなり氷の嵐、超大な範囲魔法を詠唱する。

 あっという間に見える範囲すべての水が凍結し、あたりはアイスリンクのようになってしまった。


「これで一直線だぞ♡」

 

「いいのかしら、これ……」


“水は氷る、なるほど”

“モンスターの探索はどうするんですかねぇ”

“普通アイスストームでこうはならんだろw”

“4階「それ反則」”


「もし強いモンスターがいたら、氷を突き破って出てくるから大丈夫♡ 出てこないならCランク以下だから調査不要なんだぞ♡」


 もえきゅん☆が片足を上げて、優雅に氷の上を滑って行ってしまう。

 いつの間にスケート靴を……。


「あー、みなさん見てください。氷の下に剣魚が見えます。あとはタツノオトシゴかしら? Dランクモンスターですね」


 ドローンを近づけて、一応4階の解説などしてみる。

 もえきゅん☆は1人楽しそうに氷のリンクでクルクルと回転していた。


“剣魚と竜の落とし子ならDランクだから問題ない”

“厄介そうな作りのわりに、敵は弱いのな”

“アクア様解説感謝 ¥1000”


 わたしはスケート靴を持っていないので、孔雀の燃と焔につかまって飛行移動する。わりと天井が高い洞窟なので、飛行形態に苦労しないのが助かりポイントだ。


「もえきゅん☆どうするの? このまま5階に降りる?」


「まって。くるわ」


 もえきゅん☆が緊張感のある声で静止してくる。

 くる? モンスター⁉


 直後、前方の氷が割れて何かが飛び出してくる。

 

 全長30cm程のクラゲだった。

 ゼリー状の体に長い触手をふわふわと漂わせている。


「クラゲが飛んでるわ!」


「スカイゼリーフィッシュね。触手に麻痺毒を持ってるから気をつけるんだぞ♡」


 つまり接近戦は危険かな。

 ここはやっぱり――。


「燃! 焔! お願い!」


 わたしは2羽の孔雀の背中を一撫でする。

 燃と焔は小さく鳴いて返事をすると、スカイゼリーフィッシュに向かって土の棘を繰り出す。


「はずれた⁉ 速い!」


 スカイゼリーフィッシュは土の棘を難なくかわし、こちらに向かって飛んでくる。

 スピードは速くない。でも、ふわふわとしていてとらえどころがなく、土の棘が刺さらないようだ。


 燃が土の壁を複数展開し、障害物で道を狭める。移動範囲を限定して攻撃を当てやすくする作戦だ。


「焔いけー!」


 焔の鳴き声に合わせて、無数の石つぶてがスカイゼリーフィッシュに向かって飛ぶ。しかし、広げた頭の笠の部分が石つぶての衝撃を吸収し、すべて跳ね返されてしまった。


「物理無効かにゃ~」


 つまり土属性魔法の攻撃って物理攻撃扱いなの? まあ、石つぶてを投げたり土の棘を刺したりするのは物理っぽいけど。


「長女のモエが燃ちゃんと焔ちゃんにお手本を見せてあげるね♡ ちゃ~んと覚えて使ってね♡ Lava Fountain♡」


 自称長女のもえきゅん☆が両手を上げて呪文を唱える。

 地中深くから地鳴りが聞こえ、スカイゼリーフィッシュの足元からマグマが噴き出す。

 マグマは天井まで吹きあがり、スカイゼリーフィッシュは逃げる間もなく消滅した。


「どうかにゃ♡」


「どう、といわれても……さすがです」


「モエのこと好き?」


「う、うん……」


「使い魔ががんばったらちゃんとナデナデして♡」


「う、うん。もえきゅん☆ー良い子良い子。よくがんばったねー。愛してるわよー」


 もえきゅん☆が3羽目のフェニックス(今は孔雀)ムーブの時は、なぜかご褒美にナデナデを要求してくる。かわいいからいいんだけど、配信でたくさんの人に見られてると思うとちょっと恥ずかしい。


“使い魔もえきゅん☆の破壊力”

“我々はいったい何を見せられているんですかね”

“あらーいいですねー ¥20000”

“マグマは物理ではないのか”

“力こそパワー”



「でもやっぱりBランクのモンスターが潜んでいたね。4階にはほかに強いモンスターの気配はないからもう平気だけど、5階はちょっと気合入れないとだね♡」


 5階は今のスカイゼリーフィッシュと同じくらいのモンスターがうじゃうじゃってことですかー。物理攻撃効く相手だといいな……。

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