第28話 属性変換って何?
「ホントに1階はモンスターがいないわね」
「調査結果通り♡」
足を踏み入れてみたところ、1階はわりとノーマルな洞窟系のダンジョンっぽかった。道幅も広く歩きやすい。見た目よりも少しひんやりとしているのと、ダンジョン内に光源が少ないのが気になるところだけど、もえきゅん☆の魔法で周囲が明るく照らされているので、今は全く問題はない。
「2階への連絡通路までは調査結果があるからいこ♡」
「ええ、時間は無駄にできないわ」
もえきゅん☆の提案に賛成し、一直線に2階への連絡通路に向かう。
今のところ高ランクダンジョンの要素は感じられないのが不気味ではあるけれど。
わたしたちは2階に降りてきた。
洞窟であることに変わりはないけれど、足元が濡れているし、ところどころ水たまりのようなものが見受けられる。結露かしら?
「さて2階、ね。さっきとは少し雰囲気が違うわね」
「にゃるほど♡ ここは事前予想と違って、意外と浅いダンジョンかもね~♡」
「そうなの?」
「たぶん、深くても20階くらいかな。それより下は完全に水で埋まってると思うんだぞ♡」
“予想外の展開”
“20階予想のやついたか?”
“あとでログを追って不正がないようにな”
“ガチかよw”
「水は……相性悪いわ」
わたしはため息をついた。
フェニックスの燃も焔も火属性だから力が半減しちゃう。
「名前がアクア様なのに炎使いだもんね♡」
「それはもえきゅん☆がくれたこの双剣のおかげで……」
「ダンジョンの相性に合わせられるように、いろんな属性の武器を手に入れていこうね♡」
「え、ええ。たしかにそのほうが今後のために良さそうね」
「今回は水だし、武器の属性変換が効くから良かったね♡」
もえきゅん☆がわたしの鳳凰の双剣を指さして言う。
属性変換ってなんだろ。聞いたことないかも。
“出た!伝家の宝刀・属性変換!”
“これのおかげで≪エンタープライズ≫はトップギルドになれたんだよなあ”
“さすがにそれだけじゃないが、属性変換の貢献度は計り知れない”
“属性変換って何だ?”
“知らんのか”
“属性を変えられるんだよ”
“説明下手すぎて草”
「属性変換ってなにかしら?」
コメント欄を右目で追いながら、もえきゅん☆に質問してみる。
どうやら、もえきゅん☆の属性変換は視聴者の間でも有名らしい。
「鳳凰の双剣はフェニックスの属性、つまり火属性にひっぱられているのよね。だから水系モンスターには攻撃力が半減しちゃう。ここまでは大丈夫?」
「ええ、理解しているわ」
魔法の属性については、五行の考え方が一番近いとされている。
「木は土に強く、土は水に強く、水は火に強く、火は金に強く、金は木に強い。のよね?」
5すくみのような考え方だ。
水魔法は火魔法に強い。だからフェニックスの炎はこのダンジョンに相性が悪いというわけ。
これまで確認されている魔法については、冒険者協会がなんとなく5つの属性で分類しているが、5属性に当てはまらない魔法の存在も確認されている。無属性、光属性、闇属性がそうだけど、他にも未知の属性があると推測する声も多い。
つまりまだ、魔法についてはよくわかっていないことも多いのだ。
「ピンポンピンポーン! でも魔法の考え方は属性を弱める考え方だけじゃないのよ。その辺りは理解しているかにゃ?」
「え、そうなんですか? ぜんぜんわかってないかも」
“もえきゅん☆の魔法講座助かる”
“属性を弱める以外?”
“属性を弱めるって言ってんのが五行思想の相剋のことな”
“相生の考え方もあるらしい。ちな読み方は「そうじょう」な”
“コメント欄に魔法詳しいニキおるやん”
「属性を強めるという考え方もあるんだぞ♡」
「強化魔法的なこと?」
「そうね♡ それもそう。一般的には組み合わせの魔法で効果を高めたりするかな♡」
「魔法を組み合わせるんですか?」
「木は火を強め、火は土を強め、土は金を強め、金は水を強め、水は木を強める。つまり火魔法を使う前に木魔法を使うと火魔法の効果アップ♡」
なるほどー?
微妙にイメージがつきにくい……。
「たとえば~、フェニックスちゃんたちで燃やす前に、ウッドバインドで木を生やして相手を拘束するとか。毒も木属性に入るから、相手を毒状態にすると炎系のダメージがアップするとかかにゃ♡」
ぜんぜん知らないことがまだまだたくさんあるなあ。
わたしの場合は毒系の何かを持っていると良さそうなのかな。
「そして今回の水系ダンジョンで攻撃が通りやすいのは土属性攻撃だから、どうすればいいかわかる?」
「あ、もしかして、火は土を強めるから、わたしが火魔法でサポートに回って、もえきゅん☆が土属性攻撃をする、とか?」
「ブブー! 不正解! ぜんぜん違いま~す。そもそもアクア様は火の補助魔法なんてつかえないでしょ♡」
そう、でした……。フェニックスちゃんたちが火属性なだけで、わたしはノー魔法ビルドにされてしまっていたのでした。
あ、もえきゅん☆モードになれば、光魔法使えるけど!
「『火は土を強める』ここまでは正解♡ だったら、火を土にずらしちゃお、っていうのが属性変換なんだぞ♡」
「火を土にずらす?」
いったい何を言っているのかさっぱり意味がわからない。
「1つお隣さんの属性までなら、なんとなく似てるから、ある意味一緒だよねって感じかにゃ♡」
“全然一緒じゃなくて草”
“説明がいい加減すぎて逆にわかりやすい”
“いやわかんねえだろw”
“アクア様の顔見て見ろwポカーンとしてるwあれが正しい反応だw”
“もえきゅん☆にしかできないんだよなあ”
“理解するんじゃねえ感じろ”
「属性もきっちり5つに分かれているんじゃなくて、分布がグラデーションなのよね。火と土は近いから、それをちょ~っと土よりに持っていってあげると、フェニックスちゃんたちも『あれ? 自分たちは火属性じゃなくて土属性だったかな?』ってなるの♡」
“そうはならんだろw”
“詳しく聞いてもマジ意味不www”
“Sランクのぶっ飛び具合わからんw”
「もうよくわからないから、全部もえきゅん☆に任せるわ!」
わたしは思考することを放棄した。
そう、Sランクの考えることなんて一般人には理解不能なのだ。
「も~、しょうがないにゃあ♡ Attribute Shift♡」
もえきゅん☆が謎の呪文、アトリビュートシフトを唱える。
鳳凰の双剣に一筋の光が吸い込まれていき、すぐに消えた。
「こ、これで属性が変化した、の?」
今のところ双剣の見た目は変わっていない。とくに装備した感じも前と変わらず?
「双剣の、というよりもフェニックスちゃんたちの属性を変化させたんだぞ♡」
もえきゅん☆が投げてみろとジェスチャーをしている。
なるほど。
じゃあ投擲だあ!
「いけー! 燃&焔!」
力いっぱい2本の刀を投擲する。
いつもの甲高い鳴き声とともに現れたのは、フェニックスちゃんたち……ではなかった。
「え、なにこれ……」
現れたのは、極彩色の飾り羽を広げた鳥と、少し小さな土色の鳥だった……。
「孔雀だぞ♡」
「くじゃく……なぜ……」
フェニックスちゃんたちが孔雀に……って、燃、あなたメスだったの⁉
「フェニックスが火の霊鳥なら、ピーコックは土の霊鳥というわけなのね♡」
「なのね、ってもえきゅん☆も初見?」
「もちろん初めて見たんだぞ♡ 霊鳥の属性変換なんてやったことないもん♡ 孔雀かわいいね~♡」
“孔雀って土属性なのか”
“そうじゃないwぶっつけ本番でやるなw”
“孔雀よりももえきゅん☆がかわいい”
“ではアクア様はもらっていきますね ¥2000”
“お前の属性も男から女に変換してやろうか!”
“え、いいんですか?”
“喜んでて草”
「属性変換って永続……じゃないわよね? フェニックスに戻るわよね⁉」
「だいたい2時間くらいかな~。ちゃんと戻るから安心するんだぞ♡」
うう……。わたしのかわいい燃と焔。見た目が孔雀に……。孔雀もキレイだけど。
あ、でも、フェニックスの時よりはそんなに速くは飛べないんだ。違う鳥だもんね。そんな悲しそうな顔しないで。孔雀でもあなたたちのことが好きよ。一緒にがんばろうね?
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