第27話 ダンジョン配信:未探索ダンジョンの調査依頼
「おっは~♡ 朝早い時間から見てくれてありがと~♡ 予告通り『モエアク♡ラブペアチャンネル』のダンジョン配信はじめま~す♡」
もえきゅん☆が配信用ドローンカメラに向かってにこやかに手を振っている。
今回は突発配信ではなく、3日前に告知をして、しっかりと宣伝してから臨む初めての配信なのだ。
「≪ドル箱ちゃん≫たち、昨日ぶりね。早起きできてえらいわ。柊アクアよ。もえきゅん☆のファンの方たち、はじめまして、よろしくお願いいたします」
“アクア様礼儀正しい”
“あいさつができるアクア様ステキ ¥1000”
“スパチャだ!”
“スパチャ解禁祝い ¥10000”
“祝 っ て や る ¥3000”
「そうなの~♡ マッハで収益化の申請が通ったの~♡ 今日からスパチャできるんだぞ♡ でも~戦闘中は読み上げられないから≪ドル箱ちゃん≫たちもほどほどにね♡」
「無理ない課金で楽しく見てちょうだい」
“無課金 ¥500”
“無課金(無理ない課金) ¥20000”
“もえきゅん☆愛してる ¥10000”
“もえきゅん☆はみんなのアイドル”
“もえきゅん☆投げキッスして~ ¥2000”
「もえきゅん☆、投げキッスのリクエストが来てるわよ」
「え~モエがキスする相手はアクア様だけだぞ♡ ごめ~んね♡」
お手々のしわとしわを合わせて、かわいくごめんねポーズ。
「朝から何を言ってるのかしら。困った子ね……」
「じゃあ夜に♡」
「はいはい、早速ダンジョン行きましょう」
「う~、アクア様が冷たいよ~。みんな助けて~♡」
“もえきゅん☆朝からテンション高い、ヨシ!”
“かわいい”
“モエ沼”
“一生見てられるこの笑顔 ¥3000”
“もえきゅん☆愛してる ¥10000”
もえきゅん☆は人気者だなあ。でもこの雰囲気だと、やっぱりガチ恋釣るタイプだよね。トラブルがなければいいけど。
「今日向かうのは何というダンジョンだったかしら?」
「は~い。ここからはベテラン冒険者のモエが説明しちゃうぞ♡ 頼れるね~。もえきゅん☆かわいい、ステキ、結婚して~♡ え~そんな~、一斉にプロポーズされると困っちゃいますぅ。でもごめんなさい♡ モエはアクア様と婚約してるので、他の人とは結婚できないんですぅ♡」
「もえきゅん☆……ダンジョンの説明を……」
“婚約だと⁉”
“パパは許しませんよ!”
“ドル箱ちゃん「結婚を許す」”
“箱がしゃべった”
“もえきゅん☆が楽しそうで何より”
“結婚式には呼んでください ¥100000”
“親族レベルのご祝儀で草”
まだダンジョンに入れてないのに、視聴者のみんなは楽しそうに盛り上がってるなあ。楽しいならいいんだけど……でもこのままだと雑談配信になっちゃう。
「えっと~、今日の目的は未探索ダンジョンの調査で~す♡」
「最近発見されたばかりのダンジョンなんだっけ?」
「そうで~す♡ 先週生まれてほやほやの赤ちゃんダンジョンで~、冒険者協会からの指名依頼なんだぞ♡」
「ふーん。指名依頼、ね。わざわざもえきゅん☆に依頼が来るということは、相当厄介なダンジョンなのかしら?」
わたしはスマイルを崩さずに平静を装う。
指名依頼だってことは聞いてなかったんですけど……もしかして、やばい依頼なの⁉ 未探索ダンジョンっていうくらいだから何が出てくるかわからないのよね。そんなところのマップ作りをしないといけないの⁉
「発見者が試しに1階を探索したらしいんだけど、ぜ~んぜんモンスターがいなかったんだって~」
「それってやばい系……」
1階にモンスターがいないダンジョンは、高確率で階層が50階以上と深く、Bランク以上の厄介なダンジョンって相場が決まってるんじゃ。
「そうで~す♡ Bランク以上のダンジョンの特徴だから、モエに調査依頼がきたんだぞ♡」
“やばいダンジョンは上の階はサクサクで、下に行けば行くほど中がシットリ”
“クッキーかな?”
“もえきゅん☆がいれば大丈夫”
“前回のアーカイブ見たけどアクアって子もなかなかやるな”
“様をつけろオーク野郎!”
“ここまでテンプレ ¥1000”
“ドル箱元気いいな。何かいいことでもあったのかい?”
“もえきゅん☆愛してる ¥10000”
“今日はどこまで探索するんだ?”
「えっとね~、今日の依頼はマップ埋めじゃないんだ。モンスターの生息状況の確認がメインだから、できるだけ深く調査するんだぞ♡ 各階層ちょっと見て回ったらすぐに下に降りていくからよろしく♡」
「なるほどね。了解したわ」
「ダンジョンに入って2時間きっかりで探索は終了の予定なんだぞ♡ 何階まで探索できるかコメント欄で予想してね♡ 見事的中した人には、アクア様から特別なプレゼントがあるんだぞ♡」
「えっ? わたし?」
“12階”
“23”
“45”
“100だ”
“アクア様が寝耳に水で草”
“もえきゅん☆飛ばしてるな~55”
“76階”
“2時間だとさすがに80階が限度だろう”
“めっちゃ行くやん18”
「みんな予想ありがと♡ ダンジョンに入ったと同時に予想締め切りだぞ♡ ちなみにモエは~25階かな♡」
“手堅い”
“難易度計算に入れるとそんなもんか”
“それでも100”
「そうね……わたしは10階かしら」
「え~、アクア様もっとがんばろうよ~♡」
“アクア様弱気w”
“控えめなアクア様も推せる”
“おれも10”
“意見変えるのなしな”
「もえきゅん☆、未探索ダンジョンなら何が起きるかわからないわ。危険なことはなしよ。この前みたいなことはなしにしてちょうだい」
「怒られちった♡ ちなみにわからなかった人のために解説~♡ アクア様が言ってる『この前みたいなこと』って言うのは、3日前に公開した『新潟北A1ダンジョン完全攻略』動画の時の話だぞ♡ まだ見てない人はぜひ見てね♡ アクア様の迫真の演技にキュンキュンしちゃお♡」
もえきゅん☆がカメラ目線で動画の宣伝を始めてしまった。
本気で心配したのに宣伝に使われた……。
「まったく……頭痛いわ……」
“見た見た ¥2000”
“100万再生おめでとうございます! ¥1000”
“2人でエルダーリッチって……”
“ずっと放置されてた新潟のあれだろ?”
“もえきゅん☆逃げてーーーーーーー!”
“迫真(迫真)”
「あれは……もえきゅん☆に騙されたのよ……」
「だましてないよ~♡ 動画の演出なんだぞ♡」
「今日は演出なしでお願いね? ちゃんと身代わり人形セットしてる?」
「ばっちりなんだぞ♡ アクア様のことは絶対モエが守るから、安心して戦ってね♡」
もえきゅん☆がわたしの手を取り、手の甲にそっとキスをした。
キュンッ♡
“もえきゅん☆男らしい”
“ステキー”
“抱いて!”
“アクア様顔真っ赤”
“メスの顔してやがる ¥1000”
“もえきゅん☆愛してる ¥10000”
“もえきゅん☆は渡さない”
“ではアクア様はもらっていきますね”
「前置きが長くなっちゃったけど~、そろそろ未探索ダンジョンへ入っていきたいと思いま~す♡」
「い、いよいよね!」
「アクア様~肩の力抜いていこ~♡」
「わかってるわよ。最初くらい気合入れてもいいでしょ!」
初めての未探索ダンジョンだもん。
ワクワクよりも怖さのほうが上回ってるの!
がんばるぞって自分を奮い立たせないと足が震えちゃう……。
もえきゅん☆が急に抱きついてくる。
「えっ、何?」
「モエがついてるから大丈夫よ。ブレッシング♡」
配信に声が乗らないように、もえきゅん☆がわたしの耳元で囁いた。
震えが止まった。
ありがとう。行けるわ!
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