第25話 もえきゅん☆がわたしの部屋に⁉

 北陸支部の人たちにはめちゃくちゃ感謝されて、報酬もたんまりもらえて、おいしいものをたらふく食べて、無事東京に帰ってきました!


 いやー、ダンジョン攻略って最高ですね!


 もえきゅん☆が家まで送ってくれたら、出迎えたお母さんが気持ち悪いくらい上機嫌だったのがちょっと怖い。

 お母さんが恐縮するもえきゅん☆を無理やり家に上げて……今はもえきゅん☆と2人きりでわたしの部屋にいるのでした。


 どうしよう……。

 もえきゅん☆がわたしの部屋に……緊張する。


 わたしは丸いローテーブルの前に正座中。

 もえきゅん☆はもの珍しそうに、部屋の中をうろうろして、「へぇ♡」とか「ほぅ♡」とか謎の声をあげていた。


 あー、もえきゅん☆がわたしの部屋にくるってわかってたら、ちゃんと掃除しておいたのに! 汚れてない? 髪の毛落ちてたりしない? 大丈夫? 服散らかってたりしないからギリギリセーフ、よね?


「ね、ねえ、もえきゅん☆って、わたしのお母さんと話する時はめっちゃ普通のしゃべり方だよね」


 もえきゅん☆の気をそらすために適当な話題を放り投げてみる。


「なあに、気になるのかにゃ?」


 もえきゅん☆が近寄ってきて、わたしの背中におぶさってくる。

 肩にあごを乗せてくるので顔が近い……。

 首筋からなんか甘い良い匂いがするなあ。すんすん。何っていう香水使ってるんだろ。もえきゅん☆の匂いほしい……。

  

「ねえねえ♡ 麻衣華はこのしゃべり方はキライなのかな~♡」


 もう! すぐそうやってほっぺたを揉まないでください。丸顔なの気にしてるんだから!


「キライじゃないけど……普通のしゃべり方もできるんだなーってただの感想です」


「モエはね~、TPOをわきまえられるんだぞ♡」


「うん、おとな、ですね」


「あーまた年齢のことを言う~! すぐに人をおばさん扱いする子はおしおきだぞ♡ スタン♡」


 もえきゅん☆がノーモーションでスタンをかけてくる。

 しゃ、しゃべれないっ! 身動きも取れない!


 ちょっと、ダンジョンでもないところで魔法を使うなんて反則……Sランクだけに許されている特権の悪用ですよ。


 冒険者は一般人と比べて大きな力を持っているため、もし冒険者が犯罪を犯せば、広範囲に被害が及ぶ。冒険者協会はそのことを未然に防ぐため、魔法・スキルの使用を制限する厳格な仕組みを持っているのだ。

 まず冒険者は、冒険者スーツ着用時にしか魔法・スキルの使用ができないように、血中のナノマシンが常時監視している。また、とくに攻撃系の魔法・スキルに関しては、ダンジョン内でのみ使用を許可されていて、ダンジョン外で攻撃系の魔法・スキルの使用を試みた場合、不発に終わるとともに、近くの高ランク冒険者にたいして、自動的に拘束要請が行われる仕組みにもなっている。


 しかし、Sランク冒険者のみ、そのすべての制限が解除される特権が与えられている。それだけSランク冒険者は特別な存在で、ただ強いだけで認定されるものではないということなのだ。引退済みの人を除くと、今は世界で5人だけがSランク冒険者認定を受けている。


 年齢のことを言われて、スタンをかけるような人がSランク冒険者なのって……きゃっ、やめ、どこ触っ、やめてー!


「ふっふっふ♡ 麻衣華のことも大人にしてあげよう♡」


 ちょ、えっ、うそでしょ、そこ揉……。


 トントントン。

 わたしの部屋のドアがノックされる。お母さん、助けて!


「はあい♡」


 返事できないわたしに代わって、もえきゅん☆がかわいらしく返事をする。


「ケーキとお紅茶どうぞ~」


 いつもより1オクターブ高い声のお母さんが、ドアを開けて部屋に入ってくる。

 娘がいたずらされている姿を見て、お母さんは何て言うの……あれ?


「わざわざすみません♡ 麻衣華さんを送ってきただけですのに、すっかり長居してしまって」


 もえきゅん☆が頭を下げて、ケーキと紅茶の乗ったトレイを受け取る。

 

 あれ? わたし、さっきベッドに押し倒されて服脱がされて大変なことになって……あれ?

 わたしはちゃんと服を着ているし、普通に丸テーブルの前に座っていた。


「長旅でお疲れでしょうし、ゆっくりしていってくださいよ~。うちの子と仲良くしてくださってありがとうございます~。もえきゅん☆さんにしっかり鍛えていただいて、うちの子もプロの冒険者を目指させないと」


 そう言ってお母さんはわたしの背中をバシバシ叩いてきた。


「お母さん、その話は気が早いから! はいはいケーキありがとう! もう行って!」


 わたしは立ち上がり、お母さんの背中を押して部屋の外に押し出していく。


「ええ、ええ。麻衣華さんは素質がありますので、私が責任をもって鍛えてまいります。すぐにプロの冒険者になれますよ♡」


「もえきゅん☆もお母さんの妄想に乗らなくていいから! はい、お母さんはもう下に行ってて!」


 ドアを乱暴に閉めて、お母さんを部屋から追い出した。

 オホホホじゃないよ、まったく。


「もえきゅん☆も、あまりお母さんを刺激しないでよー。プロの冒険者とか、さすがに期待させすぎだよー」


 わたしはため息をついた。

 お母さんてば調子に乗りやすいタイプだからなあ。絶対本気にしちゃってるよー。


「そんなことないんだぞ♡ プロ冒険者になるだけなら、Aランクになればいいだけだから、わりとすぐ♡」


 もえきゅん☆がティーカップとソーサーを持ち上げて、優雅に紅茶を口に運ぶ。


「いいだけって……実際今、世界でもAランク登録の人って100人もいないでしょ」


「そうね~。今Aランクで活動中の冒険者は91人ね。日本だと15人。麻衣華が16人目かにゃ?」


 もえきゅん☆がショートケーキの上に乗ったイチゴを一口かじった。

 イチゴから食べる派かあ。


「さすがSランクのもえきゅん☆は簡単に言ってくれますね……。わたし、奇跡的にCランクになれたばっかりなのに」


「そのためのLuck≪幸運≫なんだぞ♡」


「あー、ステータスが上がるボーナスがつきやすいんでしたっけ? 実際、こっそりわたしのステータスを調整した時、実際はどれくらいの数値にしてたんですか?」


「モエは~、ホントにLuck≪幸運≫9999ポイント足しただけだぞ♡」


「だけって……ホントのホントにそれだけ⁉ いやそれだけって意味じゃないんですけど、他のステータスは⁉」


「無調整だぞ♡」


「え、だってありえないくらいめっちゃあがって……」


 だって、どのステータスも元の3倍以上に跳ね上がってますよ?

 これが全部Luck≪幸運≫の効果だっていうの?


「Luck≪幸運≫が高くて、高ランクのモンスターを倒せばポイントボーナスの確率がさらに倍! ドーン♡」


「ドーン……。オール500もホントに夢じゃない、のね……」


「そういうことなんだぞ♡ モエと一緒にいればAランクダンジョン潜り放題! さすがに300超えてきたあたりからは、ステータスの上り幅も小さくなっちゃうけど、今年中にはAランク冒険者認定相当のステータスになるのは間違いなし♡」


「チートだぁ……」


 もえきゅん☆はすっかりショートケーキを食べ終わっていた。

 あれ? わたしのモンブランはどこ?

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