第23話 モエカー像贈呈式

「お願いフェニックスちゃんたち! 間に合ってーーーーーー!」


 わたしの叫びに呼応するように、フェニックスちゃんたちは速度を上げる。

 2体のフェニックスは、音速を超えて炎の矢となり、もえきゅん☆に向かって飛んでいく。


 でも、霧の手(1)のほうが一瞬速い。


 ダメ間に合わない!


「もえきゅん☆!」


 わたしの願いもむなしく、霧の手(1)がもえきゅん☆の体を貫通し消滅する。


「1個なら大丈夫! 身代わり人形が仕事してくれたわ!」


 さすがのもえきゅん☆の声にも余裕が感じられない。

 すぐに霧の手(2)が迫る。身代わり人形を再セットする時間は与えてもらえない。


「いけーフェニックスちゃん!」


 フェニックスちゃん(左)が一瞬早く、霧の手(2)に食らいつく。その瞬間、激しい爆発が起こる。


「なに⁉」


 爆風とその後の煙で辺りは灰色の世界。何も見えない。

 全く何も見えない中、立て続けにもう一発の爆発音。状況からして、フェニックスちゃん(右)と霧の手(3)の交錯だろうか。


 でも、いったい何が起こってるの⁉


 数秒後、爆発の煙が晴れてきて状況が見え始める。

 が、そこには霧の手の姿も、フェニックスちゃんたちの姿もなかった。

 やっぱりさっきの爆発は……相打ちなの……。


 フェニックスちゃんたち……ごめんね。でも、もえきゅん☆を守ってくれてありがとう……。


「アクア様! フェニックスちゃんたち! ありがとう……」


 もえきゅん☆が叫ぶ。

 そこへ遅れて、最後の霧の手(4)が迫る。


「ダメー! やめてー!」


 わたしは無意識に走りだしていた。


 でも、爆発のせいで一瞬判断が遅れた。

 

 間に合うわけがない。それでも――。

 神様、もえきゅん☆を守って!


 無情にも、霧の手(4)がもえきゅん☆の体を通り抜けて霧散する。

 もえきゅん☆は糸が切れたようにその場に倒れこんだ。


 わたしは走るのをやめて立ち止まり、膝をついた。


「もえきゅん☆! やだよー! こんなのって!」


 これで終わりなの?

 あのもえきゅん☆が魂を取られて、はい終わり?

 だって……もえきゅん☆はいけるって言ったじゃない。わたしがいたら90%倒せるって……。

 わたしが足を引っ張ったから……。

 そんなのってないよ……。


 何か方法は。

 もえきゅん☆の魂を取り戻す手段は。

 

 きっと何かあるはず。


 きっと何か。


 何か何か何か何かなにかなにかなにかなにかナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカ。


 誰か助けてよー!


「あれあれ~、アクア様はどうしちゃったのかにゃ?」


 え?


「まさかモエがやられちゃうと思ったのかにゃ?」


 背後から聞こえる、わたしをちょっと小馬鹿にするような声。

 わたしは膝をついたまま、ゆっくりと振り返る。


「もえきゅん☆……」


 さっきまでと変わらず、真っ白なミニスカートのドレスを身にまとったもえきゅん☆がそこにいた。


「あれあれ? モエがやられたと思って泣いちゃったのかにゃ?」


「そうよ! 泣いたわよ! だって最後の霧の手が貫通して倒れたじゃない!」 


 魂取られたって思ったわよ……。


「モエのドラマチックな演出なんだぞ♡」


 もえきゅん☆が腰に手を当ててワッハッハと笑う。


「ドラマチックって何よ……。人がどれだけ心配した思ってるの! もえきゅん☆なんてキライキライキライキライキライキライ!」


「あらら。ちょっと怖がらせすぎちゃったかな。ごめんね……」


 もえきゅん☆が近寄ってきてわたしの頭をやさしく撫でた。


 そんなんじゃ許さないんだから。

 もっとも~っとやさしくしてくれないと機嫌直してあげないっ!


 わたしはぷいっとそっぽを向いた。


「モエがやられるって瞬間まで、あきらめずに駆けつけてくれようとしていたアクア様かっこよかったんだぞ♡」


「ふんっ」


「やさしいアクア様大好きよ♡」


「むぅ……」


「別にアクア様にイジワルしようと思ったんじゃなくて~、動画の演出的にちょ~っと盛り上がりどころを作ろうかな~って♡」


「だったら事前にわたしにも言ってくれたって良かったじゃないの!」


「アクア様の迫真の演技が見たかった♡」


「もえきゅん☆キライ!」


「そんなにプンプンしてるとかわいいお顔が台無しだぞ♡」


「アクアは何してもかわいいからいいんですぅ」


「また屁理屈を言う~♡」


 もえきゅん☆が背中をツンツンつついてくる。

 

 やめっ、くすぐったいからやめてー!


 わたしは諦めて立ち上がった。あとくすぐり攻撃から逃げたかった。


「わかった、わかりました! だまそうとしたことは許すからもうくすぐらないでぇー」


「アクア様好きよ~♡」


 もえきゅん☆が背中におでこをくっつけて囁くように言った。


「わたしも好き……」


 わたしも便乗して消え入るような声で言った。


「ありがと♡」


 おでこで背中をグリグリしてから、もえきゅん☆はようやく体を離した。


「と、ところで! どうやって助かったんですか? 完全に魂抜かれていたんじゃ……」


 あー顔、熱っ!


「ん~とね~。土属性魔法のDecoyと光魔法のPhantomを組み合わせたんだぞ♡」


 デコイとファントム……。なんとなくはイメージがつく。

 2属性の魔法を同時展開かあ。さすがだなあとしか。


「Decoyでモエのそっくりさんを作るでしょ~。モエ自身はPhantomで周りに存在を認識できないようにして~、エルダーリッチの前にテレポートして、ってTeleportも使ってたね♡」


 3属性魔法同時展開……もう驚かないけど。


「ファントムって、パーティーメンバも幻惑されちゃうんですか?」


「ん~そんなことないんだぞ♡」


「え、でもわたし、もえきゅん☆のこと全然見えてなくて、デコイのほうを本物だって信じてた……」


「今回は演出だぞ♡」


「わざとわたしにも?」


「てへぺろ♡」


 もう! 最初からだます気マンマンじゃないですか!

 

「でも~アクア様の迫真の演技のおかげで~、エルダーリッチの視線もくぎ付けだったんだから~、この動画の主演女優賞は柊アクア様に決定です! パチパチパチ♡」


「ぜんぜんうれしくないから!」


 いや、なんかオスカー像っぽい何かを渡してくるのやめて?

 そんなものを用意してたってことは、ここまで想定して……もうっ!

 ん、なにこれ?


「オスカー……じゃない! モエカー像⁉」


 よく見ると、白雪姫スタイルのもえきゅん☆の像だ!

 しかも重っ!


「純金製のモエカー像だぞ♡」


「さらっと本家超えないでください!……まあ? もえきゅん☆がどうしてもっていうなら、今回はもらっておきますけど?」


 毎日磨いて、毎日添い寝しますけど?


「は~い♡ 改めて主演女優賞おめでとう♡」


「あ、ありがとう……ございます……」


 もえきゅん☆直々にモエカー像贈呈。

 わたしは恭しくお辞儀をして受け取る。

 

 これは超がつくほどの家宝だ!


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