第21話 エルダーリッチの攻略方法

「ここが48階? なんだかひんやりするわね」


 冒険者用のスーツを着ているから、ちょっとやそっとでは寒さなんて感じることはないはずなんだけどな。昨日の救出作戦中、新潟北3ダンジョンの吹雪の中でも快適に過ごせていたし。


「そう? モエは全然何も感じないかな♡」


 もえきゅん☆はいつものようにその場でクルクルと回っている。

 うーん、気のせいかな。


「ここで何かの実験をするんだっけ?」


「そうよ~♡ まずはこの階にたまに出現するリッチを探すんだぞ♡」


 リッチ。

 魔術を使うアンデッド。アンデッドの上位種でアンデッドの王と称されることもある。もちろん不死の存在だ。


「あれはー、普通のアンデッドかな。とりあえず燃やしてみよう」


 フェニックスちゃん(右)をうろうろしているアンデッドに向かわせる。

 まあ、一瞬で灰になるよね。が、しばらく待つと、だんだんと灰が集まっていき、また骨になって復活してきた。

 普通のアンデッドだ。


「ターンアンデッド♡」


 もえきゅん☆が浄化魔法を発動させる。

 アンデッドの足元に白い魔法陣が浮かび上がる。その瞬間、アンデッドは光の粒となって消えた。


「やっぱりターンアンデッドじゃないとダメかなー」


「消滅させたいならターンアンデッドかな♡ でも、消滅以外の方法で倒す手があるかも?」


「そんな方法が?」


 ターンアンデッド以外の方法だと、灰になったアンデッドに地道に聖水をかけ続けるくらいしか知らないなあ。

 大量の聖水を一気にかける方法があるのかな?


「それが今回の実験なんだぞ♡」


「なるほどー。どんな方法なのか知りたいなあ」


「だ~め♡ まだ秘密なんだぞ♡ リッチで実験してからね♡」


 もったいぶるねえ。

 燃やす以外にどうするんだろう。

 凍らせる? 土に埋める? 灰を風で吹き飛ばすとか⁉

 うーん、早くリッチを探そう。

 

「アクア様! これを渡すのすっかり忘れてた♡」


 もえきゅん☆がものすごい速さで近寄ってきた。

 何事⁉


「はい、これ♡ 48階からはこれを身に着けないと死ぬんだぞ♡」


 え、死ぬ⁉ いきなりちょー怖いんですけどおおおおお!


 もえきゅん☆から手渡された何かを、わたしは震える手で確認する。

 紙細工? 人型に切った折り紙に見える。


「これはいったい?」


「身代わり人形なんだぞ♡ とりあえず10体分渡すから、1体1体魔力を通して所有者登録をしておいてね♡」


「わ、わかりましたっ!」


 言われたとおり、魔力を通して所有者登録をしていく。

 魔力を通すと、ただの人型の紙だったものが、デフォルメされたアクア様の姿に変化していった。

 これはかわいい……グッズ化したら大儲けできそう!


「これ、残りはどうするんですか?」


「1体はストレージから出して、必ず所持しておいてね。残りはしまっておいて大丈夫だけど、もし消費したらすぐに次の人形を取り出すこと。いい? 約束よ?」


 もえきゅん☆がわりと珍しく、強めの口調で念を押してくる。


 身代わり人形を装備するということは、即死攻撃があるということだ。身代わり人形とは、「どんな即死攻撃も1回だけ無効化してくれる」らしい。一応そう聞いたことがあるという程度なんだけど。

 いや、めっちゃ高価すぎて一般人の目に触れることなんてないからね?


「ちなみにこの階で身代わり人形が必要な攻撃ってどんなのですか?」


「それは……ちょうどリッチがいたから実戦で教えるんだぞ♡」


 もえきゅん☆が指す方向を見ると、魔術ローブを着たアンデッド・リッチがカタカタと骨を鳴らしながらこちらに向かってきているのが見えた。


「リッチ! 初めて見ました!」


 ここはAランクダンジョンで、しかも48階のかなり深い階層。そこに出現するリッチ……恐ろしい存在だ。

 しかも即死攻撃があるのかあ。


「ちなみに50階のダンジョン主はエルダーリッチだから、このリッチのさらに上位種なんだぞ♡」


「なるほどー。だからリッチで攻略の実験をするんですね」


「アクア様、あったま良い~♡ 正解正解! ピンポンピンポーン! リッチとエルダーリッチは使用してくるスキルがほとんど一緒なのよ~。だからリッチが攻略できれば~」


「エルダーリッチも同じ方法で倒せる!」


「そういうこと♡」


 おお、なんか楽しいな実験になりそう。


「リッチは元が魔術師だから、4大元素の魔法は上位魔法まで全部使ってくるんだぞ♡」


「それはなかなか厄介……」


「それだけならたいしたことなんだけど、厄介なのは≪Soul Absorption≫ってスキルなの」


「ソウル……なんですそれ?」


 聞いたことがない。

 単語からもどんなスキルなのかイメージができない。


「魂を吸い取られる系のスキルかな♡」


「魂を吸い取られる⁉」


「そう♡  精神抵抗に負けると魂が吸い取られて、体が空っぽになっちゃうんだぞ♡」


 ええ、やばすぎるスキル……。回避不能の即死攻撃。

 これからそんなのと戦わないといけないんですか……。


「魂を取られたら元に戻す手段がないから、絶対に吸い取られないでね♡」


「絶対にって言われても……」


 どうすればいいんですか。


「身代わり人形があれば大丈夫なんだぞ♡」


 もえきゅん☆がわたしの胸ポケットに忍ばせた身代わりを指さしてくる。


 なるほど、これがあれば魂を吸い取られずに済むってことなのね。高価だけどすごいなあ。


「でも、身代わり人形はエルダーリッチには効かないんだぞ♡」


「ええ、どうして⁉」


「リッチは魂が1個だから、≪Soul Absorption≫も1回につき1体身代わり人形があれば回避できるのね。でもエルダーリッチは魂が7個あるの。だから≪Soul Absorption≫も1度に7体身代わり人形が必要になっちゃうの……」


 ああ、そうかあ。呪符系の装備は重ねて所持しても、重複して効果を発揮することはない。だから7連続の精神攻撃を防ぐ方法は実質存在しない、ということなのね……。


「≪Soul Absorption≫は発動までに時間のかかるスキルだから、アクア様の速さなら、予備動作の段階で距離を取れれば、たとえエルダーリッチからでもまともに食らうことはないから安心するんだぞ♡」


「それは良い情報……でも、逃げ回るだけじゃエルダーリッチは倒せないんじゃ……」


 攻略の糸口が見いだせない。

 どうすると勝てるんだろう。


「逃げ回るだけじゃないんだぞ♡ これからモエがそれを実験で証明しま~す♡」


 おお、そうだった。リッチで実験しにきたんだった!

 お手並み拝見させていただきます!


「まずはリッチから≪Black Hole≫ でスキルを奪っちゃうんだぞ♡」


 なるほど!

 それでそれで⁉


「≪Black Hole≫ skills from Lich♡」


 もえきゅん☆がリッチに向かって≪Black Hole≫を発動させる。

 ≪Black Hole≫は予備動作や効果範囲がわかりづらいから、結果がどうなったかは聞かないとわからない。


「スキル奪えた⁉」


「もちろんバッチリだぞ♡」


 もえきゅん☆が片目をつぶってウインクしてくる。

 さすがもえきゅん☆だあ。リッチなんて魔法抵抗高そうなのに余裕で上回っていくんだもん。


「さっそく奪ったスキルで攻撃だ~! Soul Absorption♡」


 もえきゅん☆がスキルを詠唱すると、辺りに白い霧のようなものが発生した。

 その霧が10秒ほどかけて徐々に集まっていき、次第にもえきゅん☆の身長くらいある巨大な手の形になった。

 もえきゅん☆がリッチのほうを指し示すと、霧の手がリッチに向かって伸びていく。霧の手はリッチと交錯。その体を通り抜けた後、煙のように消滅していった。同時にリッチがの体が崩れ落ち、骨とローブが音を立てて床に転がる。


 念のため3分ほど待っても、リッチが起き上がってくることはなかった。


「これは……成功?」


「成功なんだぞ♡」


「わーい! もえきゅん☆すごい! かわいい! マジ天使!」


「えへ♡ もっとほめてほめて~♡」


 もえきゅん☆が万歳した後、わたしに抱きついてきた。

 そして、そのまま頭を撫でまわされている。

 これだと、わたしのほうがほめられているみたいになっちゃってるんですけど……うへへへへ。


「エルダーリッチの魂が7個あるといっても、7回≪Soul Absorption≫して魂を空っぽにしてしまえば、あとは体を浄化するだけなんだぞ♡」


「ダンジョン主、倒せますね!」


「基本的な作戦は、アクア様がエルダーリッチをスピードでかく乱して攻撃して隙を作る。モエが≪Soul Absorption≫を唱える。これを7回繰り返すんだぞ♡」


「シンプルイズベスト!」


 これならいける、倒せるぞー!

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