第20話 新潟北A1ダンジョンの攻略

「ここが新潟北A1ダンジョン……」


 ここがダンジョン? 

 ダンジョンというか、どう見ても廃トンネルなんですけど。


「ここよ♡ このトンネルの全長は約2キロなんだけど、そのちょうど真ん中あたりにダンジョンが出現したのよね」


「トンネルにダンジョン……それはすごく迷惑な話ですね」


「そう、もう2年ほど前になるかしら? 当時はだいぶ大きなニュースになったんだけど知らない?」


「すみません……」


 ぜんぜんニュースなんて見ないから知らなかった。

 世間ではそんな大事件が起きていたんだ……。


「新潟で初めてのAランクダンジョン。しかも国道の大きなトンネルのど真ん中に出現ということで、当時は揉めてたわね~。そのトンネルを廃止すると北陸の人たちの生活に大きな影響が出るから、早急に鎮静化してくれという要請が北陸支部から協会本部へ毎日のように届いたそうよ♡」


 ほえー。大変そう。トンネル使えないと移動できない地域の人も出てきそうだもんね……。


「でもすぐには沈静化できなかったの……」


「Aランクダンジョンだったから?」


「それもあるけれど、理由は最下層のダンジョン主の問題ね」


 もえきゅん☆が深くため息をついた。


「そんなに厄介な相手なんですか? もえきゅん☆が苦戦するほど?」


「モエは当時、政府の大規模作戦に帯同していて海外にいたから、新潟北A1の攻略戦に参加してないのよね♡ モエがいたらもちろん一瞬で♡」


 ですよねー♡

 もえきゅん☆は強くてかわいくて最強だから!


「冗談はさておき、ここのダンジョン主はかなり厄介よ」


「厄介とは」


「死なないのよ。いくら倒しても復活するの♡」


 ええー。攻略不可能じゃー。


「そんな顔しないの♡ 本当に攻略できないならこんなところにわざわざ来ないでしょ♡」


「じゃあ、倒せるの?」


「そうね~。たぶん倒せる、かな♡」


 もえきゅん☆があごに手を当てて、すまし顔を決めている。

 もうっ、かっこかわいいなあ。


「でも、復活する相手をどうやってー?」


「今は内緒なんだぞ♡ 道中実験しながら進むから、うまくいきそうだったら教えてあげる♡」


「え、まだ倒せる確証がないの?」


「そうね~。50%くらい、かな♡」


 低いような高いような確率。不安だなあ。


「そんな顔しないで~♡ アクア様が一緒に戦ってくれたら、たぶん90%くらいは勝てるんだぞ♡」


 もえきゅん☆がわたしの頭を撫でてくる。


 うーん、ホントかなあ。

 わたしにできることがあればがんばりますけどね。


「サクっと攻略して帰路につかないと、今日中に帰しますってお母様との約束を守れなくなっちゃう♡」


「そうですねー。ちなみにここの最下層は何階なんですか?」


「50階よ♡」


「え、めっちゃ深い……。今日中の攻略いけますか?」


「2階と48階をつなぐ相互の転移ポータルが発見されているから、ボス攻略だけが目的なら移動時間はそんなにかからないはずだぞ♡」


「48、49、50の攻略ですか……。2時間くらい?」


「48階のモンスターでちょっと実験をしたいから、それくらいかな♡」


「了解! ちなみに何系のダンジョンなんですか?」


「ゴースト系よ♡」


 あああああああ。ゴーストやだああああ。

 物理攻撃効かないし、なんか怖いし!


「倒すだけならモエの光魔法にお任せよ♡」


「おお! ゴーストには光魔法が刺さる!」


「でも、それだけだとダンジョン主は倒せないのよね♡」


「でもでも、もえきゅん☆には秘策がある、のね?」


「それはあとでのお楽しみ~♡ ちなみにゴーストには火魔法も効くから、道中はフェニックスちゃんたちにも活躍してもらうんだぞ♡」


「OK!」


 わたしにも活躍の場がありそうで良かった!


 と、もえきゅん☆が配信用のドローンを取り出して起動させ始める。


「あれ? 今日は配信しないんじゃ?」


「記録映像は撮っておかないとね♡ 配信はしないけど、録画はするんだぞ♡」


「なるほどー」


 ちゃんとアクア様を演じないと!

 がんばるぞー。



 録画開始。


「は~い、『もえきゅん☆と柊アクア様のLOVE♡LOVE♡ペア♡チャンネル』略して、モエアクLOVELOVEチャンネル♡始まるよ~」


「柊アクアよ。今日は配信ではなくて残念ね。新潟北A1ダンジョンの完全攻略をする予定よ」


「みんなのアイドル♡もえきゅん☆だぞ♡ アクア様~表情硬いよ~。スマイルスマイル♡」


 もえきゅん☆がわたしのほっぺたをプニプニしてくる。


「最初から緊張感のない……。ここはAランクダンジョンよ。しかもゴースト系の。気合を入れなさい!」


「ふぁい。これからモエがこき使われる様をみなさんにもお届けしようと思いま~す」


 もえきゅん☆が急にダウナーなテンションで、足取り重くダンジョンの入口へと向かっていく。


「人聞きの悪いこと言わないの! このアクア様もちゃんと戦ってあげるわよ!」


「ふふふ。モエとアクア様はラブラブだから~、いつも一緒に攻撃しちゃうもんね♡」


 今度は急にハイテンションになって、バレリーナのようにクルクル回りだす。


「え、ええ。ら、ラブラブね! さ、時間もないことだから飛ばしていくわよ! つかまって!」


 わたしは、もえきゅん☆に手を差し伸べた。


 もえきゅん☆には妖精になって飛んで移動してもらうより、白雪姫のままでいてもらって、光魔法連発できるほうが都合がいい。フェニックスの飛翔で一緒に飛んだほうが良さそう。


「フェニックスちゃんたち、頼んだわよ!」


 双剣を両方とも投擲。

 右のフェニックスちゃんは自由行動。左手でフェニックスちゃんにつかまり、右手でもえきゅん☆と手をつないで飛翔。


「手をつなぐと、なかなか飛行中のバランスが取りづらいわね……」


 右手だけでもえきゅん☆を支えていると、重心がうまく取れず、クルクル回転してしまって速度が出ない。

 

 ダメだ、一度降りよう。


「≪rebirth≫戻ってきてフェニックスちゃんたち!」


 フェニックスは双剣に戻り、わたしともえきゅん☆は地上に降りる。


「こういうのはどう? モエが~アクア様の背中に乗るの♡」


 そう言って、もえきゅん☆がわたしの背中にしがみついてくる。

 まあ、それならバランスはとれそう、かな?


「その状態で魔法って撃てる?」


「問題ないよ~♡」


「じゃあ、背中に乗る作戦で行きましょうか」


「わ~い♡」


 もえきゅん☆がわたしの背中に飛び乗ってくる。まだ立った状態なので、おんぶのような形になる。


 もえきゅん☆ってめっちゃ軽いなあ。

 そしてふかふかだあ。


「アクア様? どしたの? 飛ばないの? ふぅ~♡ ふぅ~♡」


 もえきゅん☆が耳に息を吹きかけてくる。 


 ちょ、何を⁉ くすぐったいし! あふん。もっとやってください!


「さ、さあ、もう一度飛ぶわよ! フェニックスちゃんたち、お願い!」


「ふふふ。アクア様ってば、顔が真っ赤でかわいい♡」


「しゃべってると舌かむわよ!」


 フェニックスちゃんにつかまり飛行を開始。

 今度はバランスもばっちり。


 一気に速度を上げて、1階のトンネル型通路を攻略していく。道中のゴーストたちは右のフェニックスちゃんがどんどん燃やしてくれるから、わたしたちはただ飛ぶだけで楽チンだ。


「そのまま2階へGOGO♡」


「いくわよー。転移ポータルの位置、指示してちょうだい」


「マップ連携するね♡」


 もえきゅん☆から新潟北A1ダンジョンのマップが転送されてくる。

 なるほど、ここを右に行って左に行ってまた右ね。OK。


 48階との転移ポータルにつくまで、ものの10分ほど。

 ショートカットしすぎて、これは配信映えしないわね。


「フェニックスちゃん速い速い♡ もう48階に行けちゃうね♡」


 もえきゅん☆とわたしは地上に降り立ち、転移ポータルを起動させる。


「ここからはしばらくモエのターンなんだぞ♡ 実験うまくいくかにゃ?」


 もえきゅん☆は、いったいどんな実験をするのかな。


 わたしは、魔法陣の青い光をぼんやりと眺めていた。

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