第7話 ≪Order change≫でできること?

「スキル吸収完了だぞ♡」


 特に体に変化はなし。吸い取られた感覚もなし。

 でもスキル欄を見ると、本当に魔法系が一切なくなってる!

 不思議。

 

 念のため、本当にスキルが消えているのか確認……。


「ファイヤーボール!」


 無反応。

 おお、消えてるんだ……。


「さっそくスキルポイントを付与しちゃうんだぞ♡」


「お、お願いします!」


 スキルポイントが付与されるってどんな感覚だろうか。


 もえきゅん☆は目を閉じて、人差し指を自分の唇に押し当てる。


「≪Give You≫ skill ≪10,000,000points≫」


 人差し指に青白い光が灯る。光った人差し指をわたしのおでこに押しつけてくる。

 前の≪Love Heart≫の時と同じで、青白い光がはじけるだけで何も感覚的な違和感はない。


「はい、おしまいだぞ♡」


「ありがとうございます……それでこのあとは?」


 スキルポイントを受け取っても、特に体に変化はなく、スキル欄を見ても双剣レベルも投擲レベルも上がってはいなかった。


「まさか失敗ですか?」


「ちゃんと付与されているはずだぞ♡ スキルのレベルアップ条件はわかるかな?」


「あ、スキル使用する、ってことですか」


「正解だぞ♡ くれぐれも他のスキルを使用しないでね♡」


 今、他のスキルを使ってしまったら、スキルポイントを使ってそれを習得してしまうかもしれない。

 慎重に慎重に、鳳凰の双剣を装備する。


「敵がいなくてもしばらくスキルの空撃ちをしてたら使用したことになるから大丈夫だぞ♡」


「わかりました!」


 言われたとおりにスラッシュやダブルスラッシュを空撃ちする。

 まるで双剣の演舞だ。

 わたしは無心で2本の刀を振り続けた。刀を振る度に、鳳凰の尾から炎が飛び散ってはじける様を見ていると、心が吸い込まれるような感覚が生まれる。見ていて飽きない。


「あ、きた」


 レベルアップ時の独特な感覚があった。

 急いでスキル欄を確認する。双剣レベルが6から10に上がっていた。


「双剣レベル10です! 一気に上がりました!」


「おめでとうだぞ♡」


「次は投擲いきます!」


 鳳凰の双剣を投擲してみる。

 うお、攻撃速度が15%上がってる! 状態異常耐性も付与されているみたい。


「これって、効果時間内にまた投擲すれば連続使用が可能なんですか?」


「クールタイム表示がないからたぶん平気だぞ♡ 試してみてね」


「あーでも、敵がいないからブーメランみたいに双剣が戻ってくるまでけっこうかかっちゃいます」


 最大レベルで30秒かあ。

 わりとずっと投擲してないと効果は継続できそうもない。


「≪rebirth≫をうまく使うんだぞ♡」


 ≪rebirth≫を……あ、そうか。≪rebirth≫を使えばどこにいても鳳凰の双剣が手元に戻ってくる。ということは、投げてすぐに≪rebirth≫をすれば!


「なるほど! 戦い方がわかってきました!」


 投擲。≪rebirth≫。スラッシュ。投擲。≪rebirth≫。スラッシュ。


「あ、きた。投擲レベルも10になりました!」


「おめでとうだぞ♡」


「じゃあいよいよ『フェニックスの意思』を試してみます!」


 って、どうするんだろう。

 とりあえず投擲してみようかな。

 

 さっきと同じ要領で、2本の刀を思いっきり虚空に向かって投げつける。


『んー、右に飛べ!』


 強く念じてみる。


 思った通りに2匹の鳳凰が炎の尾を引きながら、右方向へ飛んでいく! すごい!


『次は3回転してこっちにもどってこい!』


 思い描いたとおり優雅に3回転し、2匹の鳳凰はわたしのもとに帰還した。


「これはすごいですね!」


 だんだんと双剣が意思を持った2匹のフェニックスに見えてくる。

 ずっと見つめていると、息遣いが聞こえてきそうだ。


 名前つけちゃおうかなあ。


「たぶんフェニックスだし、火魔法は使えるはずだから、それも混ぜながら命令するといいかもね。あとは片手だけ投擲して、もう片手で双剣スキルを使う戦い方も覚えていこうね♡」


 あーたしかに。

 鳳凰を操りながら自分も接敵して攻撃したほうが強そうだし、攻撃の幅も広がりそう。


「さっそく実戦で試していたいです!」


「うんうん。でもまだちょっと待つんだぞ♡」


「えっと、何か準備が?」


「まだスキルポイントが余っている計算だから、ユニークスキル≪Order change≫のレベル上げにも挑戦するんだぞ♡」


「え、ユニークスキルってレベルの概念あるんですか?」


 知らなかった。

 とくにスキル欄にはカチッはスキルレベルがありそうかな~」


「え、そうなんですか⁉ アクア様になるための専用スキルかと思ってました!」


「ユニークスキルはそんなに狭い幅で発現することはないかな~。もっといろんなことに使えるはずだよ」


「いろんなこと……他の人、もえきゅん☆になるとか?」


「たぶんそれもできると思うんだぞ♡ その場合、アバターだけなのか、スキルや魔法も込みでなりきれるのか気になるんだぞ♡」


 アバターだけじゃなく⁉ そんなことができるのかな……。


「そこが≪Order change≫のスキルレベルに依存しているのか、もうすでに今できるのかは不明かな」


 うーん。どうやってスキルや魔法を手に入れるのかイメージが湧かないなあ。


「そうだ、その≪Order change≫はどうやって発言したのか聞いてもいい? 本来は人に話すべきじゃないとは思うけど、どんなスキルなのか紐解くカギがほしいから、もえきゅん☆だけに教えてほしいんだぞ♡ 誰にも言わないからお願いお願~い♡」


「え、あ、はい。もちろん大丈夫ですけど」


 そういうものなんだ。

 ユニークスキルって人に言っちゃいけないんだあ。わりと軽く考えてたかもしれない。


「このスキルは、アクア様が好きだな~って。アクア様みたいにかっこよくて、かわいくて、歌がうまくて、オシャレで、誰とでも楽しくお話ができて、みんなから愛されてて、みんなを愛してて。普段の冴えないわたしもアクア様みたいになれたら、少しは勇気が出るかもしれないなって思って、自作のコスプレとかしてたら、ある時カチッと頭の中で音がして、気づいたらこのスキルが手に入ってたんです」


 うまく説明できないけれど、まとめると、アクア様が好きだからこのスキルが手に入ったんだと思います!


「そういうものなんだ~。アクア様は完璧な存在だから憧れるのもわかる♡ そうだ~、もしかしたら何かわかるかもしれないから、麻衣華がアクア様のコスプレした時の写真もちょうだい♡」


「絶対ダメです。写真なんて撮ってないですし……」


「ちぇ~。そういうことにしておいてあげましょ♡ ま~でもたぶんわかっちゃったかな♡」


 もえきゅん☆は、にんまりと笑った。

 危ない……やっぱり写真はいらなかったか……。


「麻衣華が今の自分を否定して、『自分ではない他の何かになりたい』という気持ちから発現した、『なりきりスキル』かな♡」


 自分ではない他の何かになりたい気持ち。

 たしかにそうだ。

 わたしはわたしが好きじゃない。

 地味なわたし。普通のわたし。いてもいなくても誰も困らないわたし。


 特別な誰かになりたかった。


「そのスキルは精巧なアバターを作るだけのスキルじゃないよ。実際、アクア様の声もトレースできているでしょう?」


「たしかにそうでした。アクア様の声も好きで……『スパチャもしないでアクアに話かけるなんて、子分のオークに襲わせるわよ!』って言いたくて」


 あと、このかっこうでこっそり歌も歌ってました。


「声が生成できるなら、他のものもマネてなりきれるはずなんだぞ♡」

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