03 想いを遂げて
朝のアナウンスをした後、クローディアは大きなあくびをした。いつも通り、アルバートが朝食を持ってきた。
「船長。昨日は大変だったみたいですね。ナコ先生から聞きました」
「そうなの。深夜からずっと起きてた」
「少し、休まれては? 俺が代わりますから」
「そう。ありがとう。部屋に戻らせてもらうね」
朝食を取り、タバコを吸った後、クローディアはベッドに横になった。ヒューゴが心配そうに顔を覗き込んできた。
「ディディ、大丈夫?」
「さすがに疲れちゃった。あたしも体力落ちたね」
「まあ、色々あったんだ。仕方ないよ」
クローディアは泥のように眠りに落ちた。しかし、三時間後、コール音で起こされることになった。オリバーからだった。
「船長、すみません。管制AIの誤作動です。航路を外れたので、手動に切り替えました」
「すぐ行く」
さっと服を着替え、クローディアは操舵室へ行った。オリバーの隣に、茶髪の男の姿があった。機関士のジェイクだ。
「船長。今ジェイクが見てくれてます」
「どう、ジェイク?」
「原因がわかるまでは、機能停止した方がいいっすね。時間かかると思うっす」
ジェイクはキーボードを叩きながら言った。
「ナリシスのシステムって、化石みたいなもんなんっすよ。見かけだけは綺麗ですけどね、この船」
「まあ……あたしも、叔父の時代から稼働しているとは聞いてたから」
「おれはガキの頃から旧時代のAIは触ってきたんで。どうにかなると思います」
ここは技術屋に任せることにしたクローディアは、管制室に戻った。アルバートが席に座っていた。
「ああ、船長。どうでした?」
「原因がわかるまでは手動運転。オリバーとジェイクなら何とかしてくれるでしょう」
アルバートは、死んだ男性のファイルを開いていた。クローディアの仕事の続きをしてくれようとしていたらしい。
「彼、どうしようか……」
「ソルダンで葬るしかないですよね」
ソルダンは歴史が古い。既に墓地くらいあるだろうとクローディアは見込んでいた。実際調べると、大きな集合墓地があった。
「そうだ、船長。相談があるんですけど……」
「なぁに?」
「今夜、俺の部屋で飲みませんか」
「いいよ」
他でもないアルバートの頼みだ。クローディアは軽く引き受けた。そして、夕食が終わった後、彼女は部屋に行った。
「ありがとうございます、来ていただいて」
「もう勤務時間は終わったし、敬語は無しでいいよ、アル」
「そうだね」
彼らは上司と部下ではなく、元の同期に戻った。士官学校時代は、よく仲間たちと一緒にパブに繰り出したものだ。クローディアはそれを懐かしんだ。
ダイニングテーブルに対面して座り、アルバートは言った。
「これ飲もう。ブルー・サワー」
「いいね」
アルバートは瓶から青い液体を二つのワイングラスに注ぐと、クローディアに一つ渡した。
「乾杯」
クローディアは少しずつ飲んだ。彼女はあまり酒に強くないのだ。彼女は尋ねた。
「それで、相談って?」
「最近、眠れないんだ。寝れるけど起きちまう。夜の二時とか三時とか」
「紫外線の照射レベルは上げた?」
「上げた」
「ナコ先生に言った?」
「いや、まだ」
睡眠不足からなるミスは乗員と乗客の命に関わる。クローディアは、直ちに解決しなければならない問題だと感じた。
「早くナコ先生に言って、薬か何か貰った方が……」
クローディアはがくんと机に崩れ落ちた。弾みでワイングラスが倒れ、青い液体が床にしたたった。彼女の手足には力が入らなかった。意識はしっかりしていた。
アルバートは立ち上がり、クローディアを抱き抱えてベッドへ運んだ。彼女はわけがわからなかった。アルバートが平然としているのがただただ恐ろしかった。
「これ、便利なんだよ。手足はしびれるけど意識は保てる。青い酒に混ぜたから、判らなかっただろ?」
クローディアは辛うじて動かせた目でアルバートを見た。いつも頼れる部下、そして同期の姿はそこには無かった。
「士官学校時代から、君のことだけ見てた。君だけを愛していた。けど、あんな作家気取りの奴なんかと……」
アルバートはクローディアのシャツのボタンを外し始めた。そして下着をひったくり、胸に顔を埋めた。クローディアはぱくぱくと口を動かした。
「あ、アル……」
「想い遂げさせてよ。もう君はソルダンに行っちまう。大丈夫、避妊はするから」
そうして、クローディアのベルトを外し、ズボンと下着を抜き取った。
「愛してるよ、ディディ」
終わってしまい、身体の自由が効くようになっても、クローディアはベッドに横たわっていた。アルバートは拳銃を彼女に握らせた。
「殺せよ。薬物で錯乱した部下をやむを得ず撃ったって言えばいい」
「……できない。あなたがいなくなったら、困る」
「それは、仕事が?」
「いいえ。あたしが、困るの」
クローディアは拳銃を手放し、アルバートに口付けた。とても長いキスだった。
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